表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼方より響く声に  作者: 秋月
三章 つかの間の休息に抉れる旧い傷痕
42/67

第四十話 決して奪われるな

 その日は基礎の基礎だけで終わり、一旦解散。また明日、エレインの家で魔法の勉強会だ。俺は彼女の代わりに、悪魔の討伐を行う。エレインは勉強会に参加させようとしてきたが、悪魔の討伐は毎日行うのが決まりだ、と押し切ったら渋々引き下がっていった。


 さて。俺はまた、悪魔討伐だ。今十時弱って所だろうか? まぁ、時間はどうでもいいと思う。家に戻って、装備を着込んで、夜の街に狩りに出る。


 エレインは、今日はお休みだ。まぁ、元々俺一人でやってきたんだから、何も不都合はない。


 とはいっても、魔法使い就任の儀……面倒臭い事に名称が統一されていないが、まぁ儀式は酷く疲れた。


 ああいうしっかりとした物をやると肩がこるのは、きっと俺だけじゃない筈だ。と言う事は、小・中学校の校長もこんな気分だったのだろうか? 長い話が必要ないだけ、俺の方がましか。


 まぁそんな事はどうでもいい。悪魔を殺そう。


 俺にはそれしかないのだから。




 轟々と燃える炎が、一切合財の悪魔の生きていた証を焼き崩していく。エルシェイランの調子はいつも通りだ。誰よりも信頼できる、というのは言いすぎではない筈だ。


 ふとエレインの顔が頭に浮かぶ。あいつは? と、俺の何処かが聞いてきた。……どうだろうな。信頼はできる、が……。


 ブンッ、と頭を振って考えを追い出す。余計な事は考えるべきではない。


 しかしまぁ、今日は数が少ないな。今の所、十二個の内、悪魔が未発生の物が四つ。悪魔が少ないのは良い事だが、あまりに唐突に過ぎる。これと言った兆候無く、突然減っている。


 此処数ヶ月起こっている、"あのお方"とやらが関与していると思われる悪魔の増加傾向。それが、こんなにも唐突に止む筈が無い。


 セリンテの爺に連絡をしようとして、鴉が出て来ない事に気付いた。


「……? 来たれ(エント)。……駄目か」


 何だ? 通信障害? と言う事は、非純魔力か純魔力が集中している? ……意図的なことだとするなら……。


 周囲への警戒を強くしながら、目に魔力を集中させる。さて、見えるか――?


 一瞬、塔かと見紛う光の量。全部純魔力? 街一つ、沈められるレベルで集まっていないか? 東京の中心付近へ集まっていく光の筋が、一つに集まって。そこから、天空へ伸びている。あれは、一体。


 魔力を集める事は、意図的でなければこんな形にはならない。なるとしたら、それこそ宇宙誕生の確率並みだ。誰かが何かに、魔力を供給している? となれば、集められた魔力は何かに。


 気付いたときに暗がりに立っていたのは、やつれたサラリーマンの様な男だった。


「やぁ。元気かな? 銀二君」

「……誰だ」


 剣を印から引き抜いて振り向く。壁に凭れて腕を組んだそいつは、普通の人間に見えなくは無い。唯、目が金色に染まっていなければ、の話だ。


 悪魔ではないだろう。独特の気配を感じない。だが、人間でもない? 並々ならない気配だ。鋭く見据えている筈なのに、気がつけば消えてしまう気すらする。


 薄気味悪い。幽霊が居るのなら、多分こんな感じなのだろう


「冷たいなぁ。まぁ折角だから教えてあげるよ。僕の名前は『――」


 ギャリ。脳漿を石で削られたような感覚。


「ギッ――!?」


 要するに、激痛が走った。男の名を聞くのを頭全体で拒否している様な痛みだった。剣を取り落としそうになったのを、何とか盛大にしかめっ面をするだけで留めた。今のは、一体?


「』だよ。聞こえなかった? まぁ、外なる者の名だし」

「何だと……?」


 外なる者? ……"上位者"? 馬鹿な。実体を持って顕現するなんてありえない。しかし、今の声は何だ。聞き取れない所の話ではなかった。


「まぁ、そんな事はどうでもいいんだよ。少し話をしにきただけなんだ」


 話。話だと。ふざけるなよ。グッと剣を持つ手に力を込めようとしたが、ふと気付くと周囲をドーム状のバリアが覆っているのに気付いた。召還した筈の剣は一切動かない。いや、違う。俺の手首が空間に固定されていた。


「あ、忘れてた。話をする為に、結界を張らせてもらったよ」


 つまり、空間固定じゃなく、俺の体の周囲に物理結界を張ったのか。何時の間に……? 光の塔がまだ見えていると言う事は、今も魔力を見る事ができる筈だ。その動きすら一切感じさせずに、だと?


「大体察したみたいだから、話をしよっか」


 位階が違う、か。クソッたれだな、おい。




「僕はさっき言ったとおり……と言っても、君には聞こえなかったか。そうだね、ニドホグとでも呼んでくれ」


 ニドホグ。どこかで聞いたような気がするのだが。まぁどうでもいい。


「それで、何の用だ」

「つれないなぁ。まぁ、簡単に言ってしまえばちょっとした雑談だよ」


 はぁ? と、思わず声が漏れた。聞き間違えだと、良かったのだが。かと思えば、本当に雑談を始めやがった。好きな物は何かとか、趣味は、好きな人は居るの? 俺は一切答え無かった。


 ギリッと、歯軋りして男を睨み付けたが、「恐い恐い」と適当に流された。警戒こそしていたものの、こいつが手を出してきたとき何かできるか、と聞かれれば怪しい所だった。




「うーん。嫌われてるみたいだし、僕はここらで退散するよ」


 男はそういってクルリと踵を返した。が、ふと思い出した様に振り向くと、ニヤニヤとした顔で言った。


「新しい魔法使いが、来たんだっけ?」


 何がおかしい。睨みだけでそう伝えても、やはりニドホグは何処か飄々とした態度で、口を開いた。


「お仕事、奪われないように、ね」


 結界が解除された瞬間にクレイモアを全力で投擲したが、もはやニドホグの姿は無く、俺のクレイモアがコンクリートの壁に突き刺さっただけだった。


 仕事を奪われないように、だと。百も承知だ。それに、あいつらはまだまだ見習い。俺の仕事が奪われる、何て事は無いはず。無い、はずだ。


 頭のどこかで、声がする。決して奪われるなと。百も承知だと、自分に言い聞かせるように呟いた。俺は、東京を守らないといけないんだから。


 この使命、奪われてたまるものか。


 悪魔、殺すべし……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ