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彼方より響く声に  作者: 秋月
二章 俺の身に起こった異変とエレインについて
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第二十四話 雨を迎える

 さて、何処まで話したか。あ、いや。どの話を聞きたいかだったな。


「精霊について」


 前川が言う。あ、あぁ。精霊ね。さっき軽く話したけど、もっと掘り下げて、って事だよな。


 精霊って言うのは、第四~第十一上位者までに区分される、上位者の一種だ。上位者って言うのは、別次元、つまり三次元に住む俺達とは違い、四次元以上の次元に住む者達の事だ。


「別次元、ってのは……異世界じゃない、よな?」


 岡田が呟く。そういう解釈もあるが、ちと違うな。と、説明する。別次元って言うのは、同じ場所にあるけど、違う場所にある。矛盾の存在だ。なんていうかなぁ。説明しにくいんだが。


 そう、だな。この世界をテナントビルとして、次元を階層、って喩えたほうがいいか。こういえば、俺は分りやすかたんだが。


「び、微妙…に? 分るような……」

「分らない様な……?」

「あー。まぁ、そんな物よな」


 もっと掘り下げて言うと、この世界、っていうビルがあるだろ? そこは、大体十一階あって、一階と二階は空きな訳だ(平面と線だからな)。そこの、三階っていう場所に俺達は居る訳だ。まぁ、このビル滅茶苦茶だけどな。三階から上にも下にもいけないし。んで、精霊達は、四階以上に住んでる訳だよ。


 四階は雑居、五階は精霊専用の階層で、六七八は天使とか悪魔。九、十、十一階に神とか概念精霊が居る訳だ。どうだ、簡単だろ。……な、訳無いか。とりあえず、次元って言うのは人間が上にも下にも行けないビルの階層だと覚えといてくれ。んで、何か聞きたい事は?


「悪魔、天使って、その、いるのかい?」


 とは、オタクトリオの平凡顔がいったことだ。後で聞いた話だが、上月(こうづき)という名前らしい。


「ん、あぁ。居るぞ。わんさかいる。むしろ、現在進行系で増えてってるからな」


 そういうと、皆驚いているような顔をした。何、考えてみれば当たり前な事だ。「願いの魔力は今の人間にも残っている」という話はしたよな。つまるところ、"数億、数十億の人が願えば"奇跡は起こるんだよ。この場合願いっていうのは、居ればいいのにでも構わん訳だな。


 たとえば、思った事はないか。悪魔がいて、誰それを貶めてくれればいいのに、とか。あ? そんな事無い? んじゃ天使だ。天使が来て助けに来てくれればいいとか、思った事あるだろ。そういう願いが集まって集まって、天使や悪魔ができた。


 つまるところ、人が賛辞するもの(天使)批判するもの(悪魔)も人その物がつくり出したって事だ。皮肉だな。ただ、それだけじゃ終わらない辺りがタチがわるいんだがな


 最近、小説って増えてきてるだろ。悪魔とかもさ、そういうので出てくる……ん、だろ? 俺は読んでないからしらないが。話を戻すぞ。そういう作品に出てくる悪魔が、いればいいと思う奴が何処かに居る訳だ。そして、それが悪魔として出てくる。単純だろ。


「そ、そんな事が起こるのか?!」

「声を荒げるな煩い。まぁ、ありえなくは無い事だ」


 特に、最近は多いな。因みに、そういうのを作れるカリスマ作家達は"語り手"って呼ばれてる。おっと、話がそれてきた。


「それで、他に聞きたいこ」

「あ、あのっ」


 玲奈が俺の言葉に食い気味に割り込んできた。何だ? 俺は玲奈のほうを向いた。


「さっき言ってた、概念精霊、って……?」


 概念精霊か。これもまた、ちょっと説明がむずかしいが。なんていうんだろうな。法則の精霊、とでも言うべきか。たとえば、概念精霊には時間、空間、意識、記憶なんていう、実際には目に見えない事を司る奴らの事だ。


 そのほかにも感情とか、生命とか、死とか、認識とか。そういう、決して見る事ができない物を司る奴ら。つまり概念を司っている奴らの事をそのまま概念精霊って呼ぶ。一応最高位に位置していて、契約される事は極稀だ。


「空気とかは? 概念精霊なのか? 見えないだろ?」

「馬鹿が。常に見てるだろうが」


 さて、大体出切ったか? と思ったが、トリオのデブ、は言い過ぎか。太り気味の(佐菩(さぼ)というらしい)が俺に聞いてきた。


「そ、その、いい、かな?」

「まだあるのか? いや、構わん。いいぞ、言ってみろ」

「そ、の。魔法、って、僕らも、使える、の?」


 そういえば、どいつもこいつもすっかりちゃんとした事聞いてくるから、その説明を忘れていたな。いや、皆悪くはないんだがな。まぁ、結果から言えば


「段階を踏めば使えるぞ」


 という事だ。……嬉しいのか知らんが、踊り始めるのはやめてほしいな。冷ややかな視線があちこちから向かっていた。気付かぬ様子で踊る三人をどうにか視界から追い出し、周りのメンバーを見た。質問は無い様だった。


「ただ、正直に言う。魔法使いは辛いぞ」


 トリオがビシリ、と固まった。言ってしまえば、一人対軍勢で戦わなければならないのが基本なのだ。一人軍隊(ワンマンアーミー)である。いや、一人で立ち向かうのは俺だけだと聞いたが、その実大差ないんだろう。魔法使いが多く居るのだから、悪魔も多く居るのが道理というもの。大なり小なり同じだ。


「……だから、まぁ。なるというのなら、覚悟だけはしておけ。軽い気持ちでやるのなら、悪魔より先に俺が殺す」


 ごくり、と生唾を飲む音。誰から発されたのかも分らないが、まぁ良いだろう。脅しはこのくらいで。それに、そもそも精霊に気に入られるかも分らん。どちらにせよ、魔法使いに夢を馳せて、辛さで押しつぶれるよりかはましだろう。


「殺す……って……」


 玲奈が、怯えたような声色で言った。岡田がその前に出てきた。俺を警戒しているのか。だが、おかしな事じゃない(・・・・・・・・・)。今までも、何人かは殺してきた。……知った顔相手でも、容赦はしない。魔法使いってそういう物だろう。


 と言ったところで、外から何かが落ちる音がしてきた。いや、そういうほどたいした物ではないか。これは水滴か。パラパラパラパラ、という音が体育館の中に響く。雨がふって来たらしい。


「…雨」


 前川が言った。その言葉で全員が気付いたようで、少し暗い雰囲気の中で俺達は雨を迎えることとなった。……俺のせいか。そうだよな。躊躇なく殺すとか言われたら、そりゃ怯えもするよな。段々、日も暮れてきた様で。体育館の外は暗くなってきていた。


 ごめん、とか。すまん、とか。言える様な気分でも、雰囲気でもなく。俺は、現実逃避をするような気持ちで、外を眺めていた。


「……エレイン、遅いな」


 思わず零れた言葉は、雨の音でかすれて消えていった。

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