第二十三話 魔法使いの暗黙の了解
説明回です、ご注意
「それじゃあ……何から話す?」
近付いてきた全員に問いかける。俺もこういった事態は初めてなので、正直に言うと何から話そうか迷っている。すると、前川が言った。
「魔法使いの起源」
ボソリと呟かれたその案を頂く事にして、「ちと長話になりそうだから、楽にしろ」と皆に言った。そして、全員が思い思いの格好になったのを見て、話始めた。
「魔法使いの起源、っても、それは曖昧だ。有力なのは地球が初めの魔法使いだとする説だ」
曰く、地球の奥深くに、"自分の所に引き寄せる"の魔法を使える微粒子があったと。無自覚に発動させているうちに別の微粒子を引き寄せ、合体。そして、更に別の微粒子も引き寄せ、合体。そうして合体を繰り返し、星屑の様になり、小惑星になり、そこから小惑星との合体で地球になっていったという説だ。
今はなんらかの理由でその魔法の力が切れており、引き寄せる力こそ働いていないが、地球の奥底にその魔力を持った"始まりの石"があるのだと、その説は提唱している。
「ただ、これは魔法使い達の中での最有力説っていう認識で、一人一人違う解釈を持ってる」
「難しい話だな……上谷の解釈ってのは?」
岡田が俺の説明について言及した。俺はそちらを見つつ、ゆっくりと口を開いた。
「俺は……まぁ、宗教的な話じゃないが、イエス・キリストその人が最初の魔法使いだと思ってる」
「イエス・キリスト、って、聖人の?」
玲奈の問いにこっくりと頷いて返した。俺の意見では、彼こそ最初、というより、原初の魔法使いだと思っている。
「人間にはな。初めから、"願いの魔力"って言うのが混じってる。遺伝子の奥底に、カスみたいな量の奴がな」
遥か昔から存在した願いの魔力。それは、どんな天変地異ですら起こせる正に奇跡の力だ。ただ、唯一持つ人間にも味噌っかすレベルの量しかないので、そう簡単には起こせない。ソレこそ、数千万の人間が無心に願ってようやくといったレベルの量である。
「イエス・キリストは恐らく、生まれたときからその量が桁外れに多かった、と思われる。」
故に、石をパンに変え、水をワインへと変え。そして、一度死んで生き返る事すら可能であった、と考える。つまるところ、初めて奇跡を起こした魔法使いだからだ、というわけだ。
俺は説明を続けた。彼の力は凄まじく、周りの人間にすら影響を与えるほどだった。魔法使い、魔女達の誕生だ。原初に近しい彼、彼女らは、"真なる"魔法使いだといわれている。彼らもイエス・キリストと同じく、願いの魔力のみで魔法を行使しえたとされている。
地球ができた理由? 偶然だろ。多分
「――という訳で、魔法使い達の祖であり、奇跡を行使できた彼こそ、原初の魔法使いだと思う」
軽くパチパチという拍手が起こった。何故だ。次も人から聞くとしよう。
「それじゃあ、玲奈。次は何が聞きたい」
「え、私ですか?! え、えと、えぇと! あ、じゃあ銀二君が使う魔法はどうやっているんですか?」
現代魔法についてか。オーケー、話そう。まずは、俺と、その他の現代魔法使いに付いての説明が必要だな。
「俺達現代魔法使いは、願いの魔力の代わりに、純魔力と呼ばれる純粋なエネルギーが豊富だ」
この純魔力を使って、俺達は魔法を行使する。……訳だが、これが以外に難問だった訳だ。実は、俺達自身は幾ら純魔力を操作しても、魔法は使えっこない。マッチ程度の火を出したり、水を呼んだりなんて持っての他である。
そうして諦めかけていたとき、魔法使い達に声が降りた。"私が手伝おうか"ってな。
「声?」
と前川。
「そう。精霊と呼ばれる者達の声だ」
俺達の目に見えないだけで、確かにそこに存在する者達。彼らの好奇心を引けたからこそ、今の魔法がある訳だ。彼らは純魔力を持ち合わせてこそ居なかったが、ソレを糧として力を行使する術があった。つまるところ、人間の欠けた所と彼らの欠けた所が合致したわけだな。
俺は指先にエルシェイランを呼んだ。ポッと灯った火に、皆がざわめいた。
「これが、俺の契約した相棒。エルシェイランっていう炎の精霊だ」
「おぉー…」
初めての一目に、エルシェイランがやや恥ずかしそうにしているのを感じる。……ん? おかしいな。今は彼と同じになっていないのに、感情がなんとなくわかる。それに、彼に感情なんてあったのか? ……まぁ、とりあえずはいいか。
「まぁ、こいつが俺の魔力を食う事で、俺は魔法を使えるってわけだ」
「……ところで」
前川が唐突に声を出した。何か? と前川のほうを向くと、彼女は此方と目を合わせた。
「貴方が結ぶ印や、詠唱って必要なのか?」
「あー…」
……まぁ、魔法を説明する上では必要な事だしな。ソレに付いても語っておくか。俺が印を結んだり、ヴェルなんとかとか、エントとか言う必要は――
「――無いッ!」
ズコッ。周りの殆ど(意外な事に前川も含めて)がスッころんだ。いや、本当に必要はないのだ。実は、簡単な一動作で魔法は紡げる。まぁ"宇宙への呼びかけ"はあれが発動の鍵だから、やらない訳にはいかないが。
じゃあ、何故そんな事をしているのか。と、言われれば、答えは簡単だ。
「アレはあくまで、力を抑える為の鍵穴にして鍵だからな」
「鍵穴にして」
「鍵……?」
岡田、玲奈と続けていった。まぁな、と言ってから、俺は続けた。たとえば、やろうと思えば指をならすだけで俺の指先に火が灯るようにもできる。攻撃する事も、防御することも自在だ。設定というか、事前にエルシェイランに伝えておけば、色んな事ができる。
――だが。たとえば、それを。俺が、街を崩壊させるような魔法に設定すれば。どうなる。答えは簡単、俺が何かの弾みで指を鳴らしてしまったりした時に、街が滅ぶ。半狂乱になったりした際に、指を鳴らすだけで街を滅ぼせてしまったら、どうなる。これも、答えは同じだ。
つまるところ、無闇やたらに使用できないように。そして、万が一の時、"止められない"という事態を避ける為の印と詠唱なのだ。
「理解したか?」
「う…うん」
「だ、大体な」
魔法って言うものは、常に責任が伴う事を忘れない。これは、魔法使いの暗黙の了解だ。さて、説明会を続けるか。時間はまだあるようだし、エレインもまだ来ない。まだまだ続くだろう。にしても、遅いな。何をやっているんだろうか。エレイン。




