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彼方より響く声に  作者: 秋月
二章 俺の身に起こった異変とエレインについて
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第十五話 エレイン

一応ヒロインが登場する回です。

 俺の爺に対する声は「ではこれで閉会とする!」という食い気味な言葉で遮られ、結局何一つ聞けなかった。増援だと? 今更か、という考えより先に余計な事を、という感情が浮かんできていた。婆様と俺が代々守ってきた土地だぞ。婆様は遠くに住んでいたから、こっちに来る機会は少なかったとはいえ、今更他の奴になぞ渡せるか。


 俺は憤慨しながら時間を確認した。今、朝一時四十分ぐらいか。その後、暫く声も出さずに(あまり出しすぎると両親に迷惑がかかる)憤慨した後、眠りにつくことにした。しかし、感情が昂ぶっていた為か、中々睡魔は訪れなかった。


 ただ、次の日になると、少し頭は冴えた。確かに、俺一人ではきつい。此処の所、悪魔のグレードも上がってきている。下級に遅れをとるような鍛え方はしていないが、それでも上級となるときつい事が殆どだ。名前付きなら負傷する事は確実。唯単に俺の技量が足りないのもあるが、殆どは魔力の問題だ。


 送られてくるのがどんな奴かによるが、まぁどうにかやっていくしかないか。そう思って、階段に足を掛けた。上着を羽織ながら階段を降りていくと、談笑している声がリビングからした。……父さんと母さんだけじゃないな。誰か来ているみたいだ。


 そっとドアを開けて中を見た。父さんと母さんと……誰だ、あれは。ゴシックアンドロリータという奴だろう、西洋のゴテゴテしたドレスの様な物を着た女が両親と談笑していた。三人とも笑顔だ。女の年は俺と同じかもしくは少し上ぐらいに見える。


「あ、銀二が降りてきましたよ」


 母さんが俺を見つけて言った。ええい、何て感の良い。その声で父さんと女も俺のほうに振り向いた。女は何故か目を輝かせている様にみえた。


「私達がそろそろ出かけなければならないので、お二人でごゆっくりね。ふふ」


 母さんがそういい、父さんもにこやかにその言葉に頷いた。何だ? 何か、いやな感じだ。二人はそろって玄関から出て行った。父さんが俺の横に来た時に


「お前、あんな美人な子と友達だったんだな。父さん嬉しいぞ」


 と言って、そのまま通り過ぎていった。友達ぃ? 怜奈じゃないし、そもそも友達がいない。言っていて悲しくなるが、ソレはソレとして、改めて部屋に入り女を確認した。


 まず特徴として、その黒いゴシックアンドロリータの服。ゴスロリと言った方が分りやすいのか? 柔和な笑みを浮かべるその顔に、キラリと光る怪しげな青い目。長い髪は綺麗に結ってあり、プラチナブロンドの髪を更に際立たせていた。まるで絵本の世界から飛び出してきたお嬢様、もしくは魔女と言った風貌である。


「ハイ、銀二。はじめまして、ネ?」

「……誰だ、お前は」


 思わず、そんな声が出た。女の声は鈴の音のようだったが、日本語が(見た目どおり)不得意なようで、語尾の抑揚はおかしかった。


「自己紹介したほうガいいかもネ。私ハ、エレイン。エレイン・コージェンス。魔法使いレンメーから来た魔法使いだヨ」

「……日本の東京護法士、上谷銀二だ」


 送るにしたって、こんな胡散臭いのを送らなくてもいいと思うのだが。俺はエレインと名乗った女の前の椅子に座り込んだ。それで、と俺から口を開いた。


「父さんと母さんから友達とか言う言葉が聞こえたが、お前どんな自己紹介をした?」

「友達だっテ言っただケ」


 ……気が遠くなりそうだ。こいつ、俺の情報とか聞いていないのだろうか? 盗み見た爺の俺の情報に「友達が皆無」と書いてあった筈なんだが。まぁそれはそれとして、幾らなんでも来るのが早過ぎやしないか? そう口に出したところ


「前かラ待機してただケ。オ爺様方にいわれテ」


 本当に、余計な事を。心配してくれるのは……まぁ、嬉しくないわけではないが。態々挨拶しに来たのを「いらん帰れ」で済ますのもいかがな物か。


「それデ、貴方の支援をする事になっているのだけれド」

「……その時になったら(からす)を送る。だが、今週は仕事はない。…はずだ。だから、もう帰れ」


 何となく気疲れし、エレインをとりあえず帰らせようとしたが、エレインは少しも動こうとはしなかった。ただ此方をじっと見つめているだけだ。いずれ帰るだろうと思って、台所に向かって朝飯を作る事にした。父さんも母さんも、朝飯を忘れていかなくてもいいのに。まぁ、たまには夫婦二人でもいいけどさ。


 とりあえず残り物の肉と野菜をいためることにした。胡椒は…切らしてるな。醤油でもいいか。野菜を軽く洗ってから全部をフライパンに乱雑に入れ、火をつける。大体中火ぐらいでそれなりにじっくりと言った感じの焼き方だ。キャベツはしゃきしゃきしている方がいいので、よくかき混ぜた。そうして出来上がった料理を机に運ぼうとして、エレインがまだ居る事に気付いた。


「まだ居たのか」

「貴方の事ヲ知りたくてネ」


 可笑しな奴だ。俺なんかじゃなく、もっと別の奴の事を知れば良い物を。俺は机に野菜炒めを置き、箸と米を追加で持ってきてさあ食べようとした時に、エレインが話しかけて来た。


「随分食べるのネ」

「……そりゃ、男子だからな」


 つっけんどんに返しても、エレインはニコニコ笑ったまま座っていた。何なんだ。遅めの朝食をとり終わり、食器を片付けてから、エレインの方に向いた。


「なんでまだ居るんだ」

「貴方ノ事を知りたイといったわヨ」

「十七歳高校生、日本在住魔法使い上谷銀二。それ以外に知る必要は?」


 早口でまくし立てるように言う。別に馴れ合いなど必要ないのだから、かえってほしい。素直な気持ちだったが、エレインには伝わらないようで、まだ座ったままだった。


「精霊は? エルシェイランってどんな精霊なの?」

「炎の精霊で悪戯好きだ。……何でそんな事を知りたがる?」


 貴方の事が知りたい、と。相変わらずそう言うエレインに、大きく溜め息をついた。


「どうしてだ? 別にずっとパートナーって訳じゃないんだから別に」

「エ? 後三年は同じジャないノ?」


 「は?」「エ?」と暫く言い合ってから、一旦落ち着いて情報を整理した。どうやらセリンテの爺の伝え忘れらしい。二人そろって糞爺への鬱憤をぶつけてから、エレインからの「明日またネ」の言葉でこの場は解散となった。


 ちなみに、セリンテの爺を二人で一発ずつぶん殴る事が決定したの、というのは蛇足だろう。これが俺とエレインの出会いだった。

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