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68・やって来たのは

「はい。ちょっと強引ではありますが、ユリウス殿下の体内に、雷撃に変換されていた魔力を戻しました」


「なぜそんなことをした!」


「もちろんあの雷撃がリタさんに当たったら、危ないからです」


 使った魔石に魔力を戻すこともできるけれど、それを使用すれば再び雷撃を発現させることができる。


 それでリタさんがまた攻撃されるのは、どうしても避けたかった。


 ただ彼の魔力許容量は予想以上に少なすぎる。


 だから思ったほど魔力に変換できなくて、入りきらなかった雷が身体から溢れてパチパチ鳴っていた。


「ご安心ください。その雷は他の人が触れてもばちっとする程度です。ユリウス殿下に害はありません。命に別状もありません。今の状態なら」


「今の状態なら?」


 ユリウス殿下が不安そうに聞き返すと、少し離れたところで声が聞こえる。


「こっちのようだぞ」


 庭園に続く小道の奥から、騒ぎを聞きつけたらしい数人の警備騎士が現れた。


 彼らは私たちを見回すと、ただならぬ様子を感じ取ったのか表情を引き締める。


「こちらの方で悲鳴や揉めるような声がしました。何事ですか?」


 騎士たちの背後には騒ぎを聞きつけて覗き込んでくる人々もいて、私たちはいつの間にか注目の的になっていた。


「あの……」


「助けてくれえっ!」


 ユリウス殿下はリタさんの言葉を遮る。


 そして地面に膝をついたまま、警備騎士たちへ叫んだ。


「そこのメイドが俺の護衛騎士たちを、邪悪な魔術で眠らせてきた! 挙句に俺の侍女も雷で攻撃されて、貴重な魔石を奪われた!」


 警備騎士たちの視線が自然と、私の握った手さげかばんに集まる。


 そういえば魔石の入ったかばん、リタさんに返しそびれていた。


 ユリウス殿下はさらに言い募る。


「しかもそのメイドの姿をした女は、我がテセルニア聖国のお尋ね者として逃亡していた女だ。この会場に置いておくのは危険すぎる。テセルニア聖国の王太子である俺が、これから連れて帰ることにする!」


「違うんです! レナさんは……っ」


 ユリウス殿下を睨みつけたリタさんは、彼の背景にある空に目を留めると、怯えた様子で言いよどんだ。


 凶事の占いのような不吉さで、晴れた空が黒く陰る。


 不穏な風が流れてきた。


 恐ろしい引力に引き寄せられるように、人々はその先に目を向ける。


 ただならない強者の気配が、こちらへ向かってきた。


 その威圧感に、集まっていた者たちが恭しく道を開ける。


 闇色の髪と瞳を持つ、ひとりの男性が歩いてきた。


 漆黒の衣装に身を包んだ魔帝は、余裕すら感じられる動きで私たちのそばまで来る。


「そこにいたのか、テセルニア聖国の王太子。ずいぶんさがしたぞ」





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