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49・ふたつだけ教えて

「レナは俺に気づいていたのか」


 隠す様子もないディルに、私は頷いた。


「私の白猫変身は魔術ではなくてカイ……ディルの魂がくっついている影響だけど、ディルは変化魔術を習得しているでしょう?」


「ああ。休憩中にお前が気になって……。魔帝の姿では目立つから、ついな」


 そう言って微笑む様子がかわいくて、私もなにかディルにしたくなる。


「ねぇディル、ふたつだけ教えてほしいんだけど」


「ふたつ? 俺は黒猫になってレナの様子を物陰で見守ってはいたが、魂剥離の癒しを受けない程度に距離を取っていた。魂の安定に関しては、建国祭も問題ないだろう……。だが、レナはそれ以外にも聞きたいことがあるのか?」


「ディルは長身だし足も長いでしょう? 自分に合うサイズの変化魔術用装備は持ってるの? ないなら私が手作りしようか?」


「従僕にそこまでの心づかいはありがたいが、俺はあの白タイツを着なくても変化できる」


「それでも高度な魔術を使ったら、魂に負担がかからない?」


「無暗に魔術を使うのは控えている。意外かもしれないが、俺は多少なら魔力もあるし、魔術もそこまで負担なく使える」


 意外どころか最強と名高い魔帝がいたずらっぽく笑うので、私もつられた。


 私はカウチに座る彼に手を伸ばして、その肩を撫でる。


 彼に流れる魔力は、よどみがないことを確認した。


 よかった、体調は安定している。


 もう会ったころのような、あんなつらい思いはしてほしくないし。


 私の思いが伝わったのか、ディルは困ったように微笑んだ。


「心配をかけてすまない。しかしレナは皇城へ来てから今日はじめて、ひとりで過ごしただろう。どうしてもお前の様子が気になって、黒猫の姿で見ていた。杞憂だったが」


「杞憂……心配してくれたの?」


 猫が嫌いなのに。


 その姿になってまで、私のこと……。


「見守ってくれていたのね」


「皇城は人の出入りも多いからな。妙な者がレナに近づくことも考えられるだろう」


「確かに変わった女の人と会ったけど、自分で撃退できたよ。見ていてくれた?」


「ああ。お前は自分の望むことを全力で叶えに行くが……すべて自分で引き受けようとするその潔さが時折危うく思える。俺では頼りにらないか?」


 真摯な眼差しが私を見つめている。


 そんな風に思ってたんだ。


「私ね、特別なことをしてもらわなくても、ディルが隣にいるだけで安心できるよ」


「そうか……そうだったな。お前の望みはいつもささやかだから」


 ディルは相変わらず微笑んでいたけど、でもちょっとさみしそうな複雑な表情になる。


「しかしすまない。もしも黒猫があいつだったら、レナも喜んだのだろうが」


 あいつってカイのことだよね。


「確かに会えたら、すっごく嬉しいよ。だけどね」


 イザベラから黒猫がいると教えてもらったとき、よぎったのは別のことだった。







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