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47・黒猫

 私はとっさに通路を振り返る。


 でもいくら見回しても、黒猫は見当たらなかった。


「あれ、また見失いました」


 イザベラも不思議そうに首をかしげる。


「黒猫ちゃん、さっきもいた子ですよね? 師匠のこと見て……懐かれているみたいですね」


 さっきの猫、やっぱり……。


「師匠、あの黒猫が気になるんですか?」


「うん、ちょっとね。でも大丈夫。大体わかっているから」


「?」


「イザベラはこのあと魔導具店へ行くんだよね。私も連れていってくれる?」


「師匠と一緒に行けたら嬉しいです! ほしいものでもあるんですか?」


「そうなの。私の大切な人に持って行きたいなって」


「大切な人……」


 私の言葉に、イザベラの瞳が好奇心に輝いた。


「それって、師匠の特別な方ですよね! 素敵な予感だらけで気になります!! 一体どんな方ですか!?」


「どんな……見た目は百九十セトルくらいの大きさで。目の色は青で、毛色は黒で」


「予想を上回るくらい、師匠とお似合いな感じが伝わってきます!」


「得意なのは剣技と魔術かな」


「すごっ、師匠が認める実力!!」


「それに言い付けたことはきちんと聞くし、撫で心地がすっごくいいよ!」


「!? 師匠、最後ので全然想像できなくなったんですけど!!」


 え、そうなの?


 最高にかわいいのに、残念だなぁ。






 *


「という感じで過ごして、楽しい一日だったよ」


 執務を終えたディルが私室に戻ってきたので、いつものカウチに座らせて休んでもらう。


 半日会わなかっただけなのに、すごく久々に再会したような気持ちになった。


 私は彼の横顔をまじまじと見つめる。


 頬にかかった黒い髪も、澄んだ青い瞳も、いつも通り隙がないほど整っていた。


 見ているだけでうっとりするほどかわいい、やっぱりかわいい、本当にかわいい!


「その様子だと、ずいぶん楽しかったようだな」


「うん! でも一番嬉しいのは、今ディルに会えたことだよ」


 予想していなかった言葉なのか、ディルは不思議そうにぱちぱちと瞬きをしてる。


「実はまつげがふさふさで長いところも、かわいいんだよね」


「……レナがそう判断するのなら、そういうことにしておく」


「あとこの制服、プレゼントしてくれてありがとう。はじめは試着のつもりだったんだけど、着心地がいいから今日は一日中これだったの」


「気に入ってもらえたのなら、なによりだ。それと主に言うことではないかもしれないが、その帝国の制服はレナによく似合っている」


 ディルはメイド服を着たままの私を見つめて、幸せそうに目を細めた。


「いや……レナはなにを着ても、自分の美しさを損なわないだろうな」


「本当? 実は今日歩き回って、魔術師の衣とか騎士の全身鎧とか牢屋にいた人の囚人服とか、いろいろ自分で着てみたい衣装があったんだよね。似合うかな?」


「似合わない方がいい物もあるが、おそらくお前は着こなすだろう」


 よし、今度挑戦してみよう。


「でも皇城の制服って、私は割とサイズも合っているけれど、小柄過ぎてぶかぶかの人がいるのはもったいない気がするな。せっかく素敵な制服なんだから、ぴったり着こなせた方が見た目もいいのに」


「なるほど。帝国の印象作りとしても、仕える者の容姿や雰囲気は重要……レナの指摘は的確だな。それにこれからの帝国には、さまざまな人材が増えるだろう。制服はサイズ選択だけでなく、オーダーメイドについても検討しておく」


「本当? 楽しみにしてるね。それと、こちらをどうぞ! 私からディルへ心をこめて、おみやげだよ」







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