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39・魔術師とメイド

 イザベラは一瞬、メイドたちのテーブルにいるヨルクさんを見たけど、すぐ視線を落とした。


「……そう、思ってました。だから彼に『皇城魔術師の仕事は皇城で待機すること。でも魔力量が多いだけで給料が破格にいい。他のメイドたちも不満に思っている』って言われてショックでした。それで私、自分が役立たずになったような気がして……」


「そんなことはないけどね。皇城にいるたくさんの人を守るためにも、待機魔術師は必要だよ」


 でもそのことがきっかけで、イザベラはメイドをよく思っていなかったのかな。


 高度な魔術にこだわりすぎて、スランプを引き起こしている気もするし。


「でもあの男の人、ちょっと変だったね」


「変? ヨルクですか? 男性のメイドは珍しいですけど、足が長いのでボトムもすっきりはきこなしているし、ブロンドの髪もきれいで素敵だと思いますが……」


「見た目のことじゃなくて。あの人はイザベラに気づいたとき、すごく悲しそうにしていたから」


「そ……そうですか? さっきだって、私と目が合って嫌そうにしていました」


 でもイザベラに気づいた無意識の一瞬は、悪口を言ってしまって後悔しているというよりも、突き放されて傷ついているような表情だった気がする。


「あら、魔力を持たないメイドのみなさん」


 聞き覚えのある女の子の声がした。


 頭にすっぽりと魔術衣のフードをかぶった人だ。


 彼女は皇城魔術師の制服をひるがえしながら、メイドたちのテーブル席の前で立ち止まる。


 私のいる席からは小柄な後ろ姿しか見えないけれど、意地悪そうな笑い声はよく聞こえた。


「メイドって食事をとるのも忙しそうね。でも私は強い魔力を持って生まれたから、簡単に皇城魔術師になれたの。そのおかげで待機中はずっと仮眠をとってるだけでお給金もらえるしね。羨ましいでしょ? だってあなたたちには無理だもの」


 先ほどまで和やかに話していたメイドたちは無言になると、なにも聞こえていないかのように淡々と食事を進めている。


 無視も慣れてるようだし、あの皇城魔術師にいつも嫌がらせのようなことを言われてるのかな。


 あれ、だけどあの人……?


「魔術が使えない人は、薄給のために忙しく働いてかわいそう。本当、メイドだけにはなりたくないわ」


 イザベラが席を立った。


 そして気付いたときには、あの無礼な魔術師のそばまで行って大声を張っている。


「あんた、さっきからなんなのよ! メイドの仕事をしたこともないくせに、自分勝手な理屈で侮辱するなんて卑怯者! 皇城魔術師の恥さらし! 一体何様のつもりで……っ!」


「私?」


 振り返ったその人を見て、イザベラの顔がひきつった。


「う、嘘……」


「嘘じゃないわ。私はラグガレド帝国、皇城魔術師のイザベラよ」


 その言葉の通り、彼女はイザベラと同じ姿をしていた。








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