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37・皇城の事情

「師匠!? いきなり苦しそうにもだえて、顔も異様に赤くなって……大丈夫ですか!!」


 ……はっ!


 だって用意した飲み物を、カイのちいさい舌がすくいとるあの仕草を思い出すと、もう信じられないほど愛らしくてかわいくてかわいくて……!!


「まさか喉でも詰まりましたか!?」


「ち、違うの。つい、いつもの癖で……」


 私を助けようと席を立ちかけたイザベラに、手を上げて平気だと伝える。


「そ、そういえば! さっき話していた魔術具店っておもしろそうだね。私も覗いてみようかな」


「本当ですか? 師匠と一緒に行けたら嬉しいです! いろいろなことを教えてもらえるし。師匠は皇城へ来るまで、どこで薬草学や魔術を学んだんですか?」


「それは……」


「師匠はすごくやさしいです。深い知識と技術も習得しています。どんなことを考えたり感じたりして、今の師匠になっていったのか気になります」


「私は欲張りなだけだよ。ただ自分の望むことをしてきただけ」


 それは前世からずっと変わらない。


「イザベラこそ、どうして皇城魔術師になったの?」


「私ですか……」


 今年十四歳になったイザベラは魔術学校を三学年飛び級で卒業して、昨年から皇城魔術師として勤めているらしい。


「それって、皇城魔術師としてはたぶん最年少だよね? しかも割合の少ない女性……相当優秀なんだね」


 でもイザベラは自分の才能をひけらかすどころか、自信なさげに視線を伏せた。


「学校や同年代の中では褒められても、魔術師になれば年齢は関係なく能力を求められますから」


 現在の帝国は平和すぎるため、魔獣も侵略者もほとんどいないとイザベラは説明する。


「だから最近の皇城魔術師の任務は防衛を兼ねて、待機ばかりしています」


 そういえば愛でられ係をしているとき、魔術師は余っているって話を耳にした。


 反対に皇城の下層にある施設が商業用として好評のため、清掃や店舗に入るメイドが全然足りていないって話もあった。


 力仕事を多めに担当した女性が無理をして体を壊してしまい、結局辞めてしまうこともあるらしい。


 男性を募集しても「メイドは女の仕事だから」って先入観で嫌がられたり。


 だから思ったように人数が集まらないって、ハーロルトさんが嘆いていた。


「我が帝国のディルベルト陛下は、近々皇城魔術師の削減を行うはずです」


「へぇ、ディ……じゃなくて。この国の魔帝陛下が」


「はい。とても恐ろしく強いことは、世界中で知られている通りです。しかし国内ではそれだけでありません。民のため、国をよりよく回す仕組みを考えていらっしゃる切れ者として敬われています」


 魔帝としてのディルの手腕は、国内でも評価が高いらしい。


 確かに記憶を失っている間でも、ディルが不在のまま順調に物事が進んでいたみたいだし。


 優秀なハーロルトさんや影武者を起用したり。


 自分が世界の脅威となって得られる平和のために、他にもたくさんのことをこなしているんだろうな。


「冷酷で有能な陛下ですから、このまま待機の多すぎる魔術師を放置することはないでしょう。そうなればきっと、私の実力では真っ先に……」


 イザベラのフォークを持つ手に力がこもった。


「最近は使っても使っても、思ったように魔力をコントロールできなくて……っ。お願いです、師匠! 師匠のような大魔術師の実力を身に付けるために、私を指導してください!」






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