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3・白猫デビュー

 白猫の私は自分で張った魔術防壁や結界をすり抜けると、悠々と夜空を滑空しながら、近くの街へと向かっていた。


 原因不明の猫変身だけど、この姿のまま魔術も使える。


 飛行移動しながら人と猫、自在になれることを確認したし、着ている服や髪型もそのままだった。


 気持ちよく寝ていただけなのに、とても便利な力を手に入れてしまったらしい。


 猫の姿なら、司教たちやユリウス殿下の手下に見つかっても、私だってわからないだろうし。


 もちろん見つかって追われたら返り討ちにするけれど、自分から人に危害を加えたくはなかった。


 どちらかといえば若くして処刑された前世とは違う方向で、これからは気ままに長生きできたらいいな。


 いつだって一度きりの人生だから。


 私は私の望みを叶え続けたい。


 そうだそうだと、私のお腹の音も賛成している。


 辿り着いた街にそびえる時計塔の文字盤は、淡く発光しながら22の刻を告げていた。


 この時間でも開いているお店、見つけられるかな。


 私は繁華街の路地裏に降り立った。


 ここでこっそり人の姿に戻ろう。


「おい、白猫がいるぞ!」


 私は思わず跳ねて、機敏に後ろを振り返る。


 警備中らしき騎士たちが3人、私に気づいて取り囲んできた。


 すでに王国や教会が、大聖堂を抜け出した私を警戒していたのかもしれない。


 私はいつでも駆けだせるように四つ足でしっかり立つと、彼らの顔を見上げた。


「おーい、白ふわにゃんこ。首輪もしないで、野良だな? お、こっち見てるぞ」


「赤い目の色が変わってるけど、かわいい顔してるな」


 騎士たちは目じりを下げて、私に話しかけてくる。


「おいおい、緊張しているのか? 大丈夫だ、俺たちは怖い人間じゃないから。大聖堂で暴れた聖女が街に来ていないか警備しているんだ」


「それは建前だろ。聖女レナーテは王太子と司教をぶっ飛ばして、国内の魔術師や解呪師では破れない強固な結界と防壁を張ったまま、今も大聖堂に立てこもっているんだから」


「はは。そんな最強聖女が教会にいたなんて知らなかったな。爽快なことしてくれるよ」


「おい、気をつけろ。たいていのやつらが王太子と司教たちに不満があったとしても、どこで誰が聞いてるかわからないだろ」


 どうやら私のしたことを騎士たちは喜んでくれているらしいけれど、今一番関わりたくない話題なので、静かにその場を離れることにする。


「だけど聖女レナーテは、魔術を使えたってことだ。もしかして猫にでも変身して、夕食でも食べに出かけているかもしれないよな」


「ん、白ふわにゃんこ、どうした。立ち去ろうとする背中をぎくっと跳ねさせたりして」


 そ、そうだったかな……。


「確かに聖女だって腹が減る。こんな場所に、首輪もつけないきれいな野良猫……まさかとは思うが、怪しいな」


 真顔の騎士3人に、じいっと見つめられる。


 どうしよう。


 今、私にできることは……。


「に、にゃーん」


 全力で普通の猫を装ってみた。


 すると騎士たちの真顔が、あっという間に破顔して大笑いする。


「なんだよそれ! そんな下手な鳴き声、かわいすぎるだろ!」


「はははっ、希少猫だな!」


「疑って悪かった! たとえ人間の聖女が変身しているにしても、お前よりは上手く鳴くさ!」


 そして腹を抱えて大笑いしながら、楽しそうに去っていく。


 よし、疑問は多々あるけれど上手くいった。


 その後も人とすれ違うたび、気軽に声をかけられる。


 怪しくない猫の振る舞いとは、どうすればいいのかしら……。


 わからないのでとりあえず猫語を真似て挨拶すると、なぜか鳴き方が好評だった。


 そうしながら路地を駆けまわり、訳ありの品も売買してくれそうな店の看板を見つける。


 私は物陰で人の姿に戻るとその店へ入り、仕方なく身に着けていたあれをようやく手放すことができた。


 受付をしてくれた陽気なおじいさんも、笑いながら買い取りをしてくれる。






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