殺して、生かして
「ねえねえ、大丈夫」
「……なあ、俺は今どうなっているんだ?」
ある程度予測はついていたが、聞かずにはいられない。
「死んでるよ」
「……そうか」
あっさりと言われたが、怒りは感じなかった。
驚きよりも納得の方が大きいからだ。
あのビルの上で、俺はやっぱり死んでいたのだ。
全身の感覚がないのも、何も見えないのもそのせいだろう。
「なんで、俺を殺したんだ」
「死にたいって思っていたからだよ」
「え?」
「死にたい死にたい。だけど死ねないって。そう願っていたでしょ。だからかなえてあげたんだよ」
無邪気ともいえる少女の声。
「じゃあ、俺はこれからどうなるんだ」
「死なないよ」
「……どういうことだ?」
「死にたくないって思ったでしょ。だから、生きているんだよ」
楽に死にたいってのが願いだったはずなのに。今の状態では、ただの生殺しではないか。
薬漬けにされて、ベッドに縛り付けられるよりもなお悪い。
「これから、どうなるんだ?」
「どうしたいの?」
逆に問い返してきた。
「………………何もなかった事に。時間を元通りに戻すって、できるか?」
「今は無理だよ。ずいぶんと力を使っちゃったもん」
「生き返らせるのは?」
「完全には無理だよ。ちょっとだけ戻すなら、大丈夫かな?」
「じゃあ、目が見えるようにできるか?」
「うん、分かった」
目の前が突然に明るくなって、オレは手で目元を隠そうとした。
しかし、光の強さは変わらず眩しいままだ。
目を凝らすと、白大理石の天井が見えた。
半透明になっている、自分の手の向こう側にだ。
「こいつは……」
改めて自分を見てみるとティーシャツとジーンズを着たまま、全身が半透明になっていた。
……なんてこった。
それじゃあ、アンデッド(死にぞこない)じゃないか。
ようやくゴーストにレベルアップってところか。
ゾンビ映画を見たときには、ああはなりたくない、って思った。
だけど、ゾンビのほうが肉体があるだけマシじゃないか。
「うまくいったかな?」
不安そうに問いかけてきたのは、物語から出てきたような容姿の少女だった。
年齢は10才くらいで、ギリシア神話に出てくる女性のような純白の服を着ていた。
現代で言うとヒダのついたロングスカートに、肩ヒモのワンピース。
店に売っていたら、目玉の飛び出る値フダが付いているだろう。
肩で切りそろえられた銀色の髪、透き通るような白い肌をしている。青色の瞳は宝石のように透き通っていた。
まるで映画の中から出てきたような美少女だ。
「君が、あの?」
声は間違いなく同じだ。
だけど、大きな目をパチパチさせながら聞いてくる少女と、ビルの屋上にいた黒い触手と球形が結びつかない。
「どの?」
「ええと、ビルの屋上にいたバケモノが君なのか?」
「うん。捕まえたり、殺したりするには一番いい格好だったんだ」
「そ、そうか」
宝石のような瞳と無邪気な声で言われると、更に違和感が増してゆく。




