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 第九十九話 薬


「ねぇ、これ何の薬かしら」


 アイがエリのとこに小瓶を持ってくる。ドロップアイテムか?


「うっ、大して役立つ薬ではないわ。あとでギルドで売り払っとくわ」


 エリは小瓶をとってポケットにしまう。多分エリは鑑定したんだと思う。けど、なんか歯切れ悪いな。


「それ、何の薬なの?」


「そうねー。栄養剤のようなものよ」


 エリの顔が赤い。恥ずかしがってる。恥ずかしがる、栄養剤、この言葉を結びつけるものと言えば、精力剤か。たまにオークが落とすって聞いた事がある。冒険で役立つ事は無いけど、高額で売れるそうだ。エリが恥じらってるのが可愛らしい。エリは下ネタ系NGだもんな。


「そっかー」


 あんまり触れないどこう。セクハラになっちまう。


「あんた、どさくさに紛れてネコババするつもりでしょ。ちゃんと共用の袋に入れてしっかり私たちの目の前で売却しなさいよ」


 アイが何故かエリにさらに絡む。なんでだろ。たかだか精力剤。売れると言っても一万ゴールドいかなかったと思う。という事は、あれは精力剤じゃない。もっとヤバい薬の可能性がある。麻薬? 媚薬? 買い取ってくれると言う事は麻薬じゃないな。媚薬なんて事は無いはずだ。こんな初心者用迷宮でドロップするようなものじゃないし。


「分かったわよ」


 エリはしぶしぶと薬をポケットから出して、僕の背負ってる荷物の中の戦利品用の袋に入れる。ビンを布で大事そうに包んでいれた。やっぱり怪しい。かまかけるか。


「ねぇ、エリ、その薬、害が無いなら僕が飲んでみてもいい?」


 エリは僕に近づき耳打ちしてくる。近い近い。一瞬ビクンとなる。恐怖で。


「ダメよハルト……他の人が居ない時……そう……デートで……2人っきりの時に……」


 エリが途切れ途切れ言う。どうしたんだろう? やっぱりただの栄養剤なのか。エリは僕なんかに友人以上の興味は無いから媚薬とか精力剤なら2人っきりの時に飲んでいいって言う訳が無いな。けど、他に人が居ない時ってどういう事だろう? もしかしてハイになって踊ったり脱いだりするような、人前じゃ恥ずかしい事をするかもしれない薬なのか? それよりデートは確定なのか?

 どうでもいいけど、こういう時にウザ絡みしてくるモモはこっちに背を向けて座ってお腹をつまんだり軽く叩いたりしてる。気にしてるみたいだな。全く見苦しく無いのに。


「何、内緒話してるのよ。ムッツリなエリの事だから、2人っきりの時に飲めって言ったんでしょ。ハルト、言っとくけど、それ多分媚薬よ。既成事実を作ってハルトを囲おうとしてんのよ」


「何言ってるのよ。そんな訳ないじゃない。栄養剤よ」


「じゃ、あんた今すぐここで飲みなさいよ」


「なっ、何言ってるのよ。そんな勿体ない事出来るはずないじゃない!」


 おお、アイ凄い。エリを口で押している。勿体ない。そうだよね。そんな謎薬より美味しいものでも食べたがいいしね。


「まあ、そうだよね僕が飲むより、売った方がいいよね」


「そ、そうだよね……」


 エリが悲しそうな声を出す。何だったのか分かんないけど、まあ、女の子の考えてる事を理解するのは難しいって事だよね。

 僕らはオークナイトの鎧をはいで紐でまとめて、オークナイトを解体してから迷宮の最奥へと進む。


 読んでいただきありがとうございます。


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