第百七十八話　模擬戦　（エリ目線）

「モモ、受ける事、かわす事だけに集中して」

　まずは、モモがどれだけやれるか確かめる。どうもまだモモはドラゴンの巨体に怯んでるみたいだ。能力はモモの方が高いけど、やっぱり慣れないと厳しいわね。

　砂浜で巨大な暗黒竜と翼を広げた天使が追っかけっこしてる。明らかにモモの方が動きは早いんだけどビビって無駄な動きが多くて押されがちだ。

「そろそろ一回受けてみてー」

　モモの耐久を実際確かめないと。

「無理無理無理無理、あんなん食らったら死んでまいますよー」

　死なんて。ステータス高いんだから。まあ、けど、ビビるのもしょうがないか。パンドラが化けてるって言ってもまごうことなきドラゴンだし。めっちゃデカいし。

「しょうがないわねー」

　あたしは加速してモモとドラゴンの間に割り込む。

「グワッ」

　ドラゴンは唸ると前足で引っ掻いてくる。あたしはそれを前に出て爪から逃れながら力を受け流しながら受け止める。

「げっ、雌ゴリラ」

「モモっ。あんたの方が耐久高いんだからこれくらいは出来るわよ！」

　あたしの耐久では真っ向から受けると吹っ飛ばされる。今のはギリギリだ。あたしは素早くドラゴンから離れる。

「でいやぁっ！」

　後ろからアイが突撃してくる。けど、アイは見当違いの方向に走り抜ける。ダメだこりゃ。自分の運動能力に振り回されている。スピードや力が上がってもそれを扱う器用さが無いと宝の持ち腐れだ。

「フェイントよ。とったわ！　ネイルッ！」

　えっ、まじか。アイ、力技で方向に転換してドラゴンにタッチしてる。

「ほらほら、見てみて、ドラゴンの爪、花柄になったわ。これでモモもやりやすくなったでしょ」

　うん、花柄。緑にピンクのお花が映えてる。

「アイ、何遊んでるのよ」

「ありがとう、アイ。これで爪が怖くなくなりましたっ！」

　ドラゴンが振るった爪をモモがガシッと受け止めてる。うん、十分。モモにはドラゴンの攻撃は通らない。けど、まじでネイルの魔法が役立ったのか？

「はぁああああーーっ」

　あたしは気合いを入れながらドラゴンに突っ込む。斜めに飛び上がりながら思いっきりぶん殴る。ふと思ったけど、なんであたしドラゴンを素手で殴ってるんだろ？　武器使えば良かった。手には確かな感触。あたしは拳を振り抜く。ドラゴンが大きく仰け反る。

「オラオラオラオラオラオラオラッ！」

　あたしは着地すると、両手で何も考えず殴りまくる。殴ったとこの鱗が凹み爆ぜる。

「グゥアアアアアアッ！」

　ドラゴンが呻きながら吹っ飛ぶ。やったわ！　けど、これでいいのか？　女の子として。そうだわ。アイの美容魔法で色々可愛くカスタマイズしてもらわないとハルトがドン引きするかも。もしかしてアイはこういうのを見越して美容魔法のスキルを手に入れたのかも？　そんな訳ないか。額に書いてる『性悪』の文字をさする。吹っ飛んだドラゴンが弾けると妖精の姿になって飛んでくる。

「お前たち。強くなったわね。今のとこは一応合格よ。けど、連携が悪いからしっかり訓練するように」

　妖精はそう言うとどっかに飛んで行った。合格って事はもし実戦だったらドラゴンを倒せたって言う事だろう。