偽物?
短いですがどうぞ
「うわ、これは酷いな……」
眼下の光景に思わずそう口にする。ここはかつて、この国で1番大きなダンジョンがあり、そこそこ栄えていた街だった。
それがある日突然無くなったのだ。原因を探るため、魔族との因果を確かめるため、俺達はここに来たのだが…。
「なんにもありませんね…綺麗さっぱり平地です」
「逆に珍しいよな、でかい魔法を使っただろうけど、それにしては後がない。クレーターでも出来ていたのならまだ納得できるんだが。」
そう言って、ふと前の女性を見る。イリス、それが彼女の名前。
「行きましょう。それを探るのが目標です。」
そう言って俺たちは街に向かう。着くまでは何も無く、着いたあとも何も無く、その後2日ほどに渡って調査は困難を極めた。
「今日も収穫はなし…っと」
「えぇ、本当に綺麗さっぱり何もないですね。ダンジョンの跡地ぐらいはあるかと思ってたんですけど…」
「それすらもないとは、困りましたね。これは諦める方が良さそうです。王都も大変ですし」
「そうか、なら、先に帰っててくれるか?俺はあと1日探し回ってみる。」
「分かりました、何かわかったら直ぐに連絡を。」
そう言ってイリスさんは帰っていった。近くに魔力反応もない。
「葵くん、何か宛があるんですか?」
「おう、ここの地面を砕けば…っと!」
そう言いながら、手に魔力を込めて地面をぶん殴る。さながらパイルバンカーのように。
「えっ…これって…」
「そう、ダンジョンだ。ダンジョンは消えてないんだよ」
そう、ダンジョン自体は消えてなかった。あくまで、ダンジョンの入口が失われていただけである。では、何故それを知っていてイリスに隠したか?
答えは簡単だ。俺はイリスを信用していない。前にあった時のイリスの目は清らかで淀みがなく、純粋な目だった。たいして今回のはどうか?明らかに人を利用する気だった目だ。実際、俺達が寝たあと行われていた定期通信では
「で、首尾はどうだイリス。」
「思ったより使えないわね、この子。聖杯の行方はわかりそうにないわ。」
「そうか。まあ魔族を倒したのは偶然だろうしな、使えないのなら仕方ない。早く帰ってこい、こっちも少し厄介なことになっている。」
「分かったわ、直ぐに引き上げる。」
と言うやり取りがあった。まるで別人のようだ。魔族でも化けていそうだってぐらい。
「俺を利用するとはいい度胸だ…。あそこまで露骨に利用しようとしたんだ、出し抜かれても文句言うなよイリス。」
「…やっぱり葵くんはわかっていたんですね、イリスさんがおかしい、って」
「知らん。興味もない。ただ目が濁っていたし、態度が前と違うし、リアの顔も元気がない。と言うわけで出し抜いてやろうってな」
「もう…それで、下に行くんですか?」
「それしかないだろうよ。ダンジョンの構造が変わってなければ100近く必要になるが…魔族は恐らく、ここの魔力を使ってなにかしたいはず。維持に魔力がかかるのも極力へらしたいだろうからすぐ再深層につくとおもうぞ」
「そうですか…それは助かりますね」
そういうリアの顔に元気はない。イリスのことを気にしているのだろうか?
「あの…葵くん」
「どうした?」
とても言いにくそうにしているリア。なのでなるべく優しく聞き、話しやすいようにする。
「その…こんな事いって、変だと思うかもしれませんが」
気にしないから、と目で続きを勧める。1つ頷き、決心したリアは…
「あのイリスさんは、恐らく、本物では…ありません」
と言う一言を発した。




