考察、再開人
ちょっと短いですがお楽しみください
今、めちゃくちゃなことを聞いた気がするのだが…流石に待ち一つ跡形もなく消えるという事はないだろう。どうか聞き間違いであることを祈りつつ、俺は聞き返した。
「えっと、消えた?街が?」
「ええ」
「跡形もなく?」
「ええ」
「…なんで?」
「さっぱり消え去ったあとだから本当の原因は分からないわ。けど仮説なら立てているけど、聞く?」
「そりゃもちろん、街一つ消し飛ぶなんていくら魔族でも簡単に出来ることじゃないだろうからな、正直理由がわからん。」
そうよね、普通の事ではないからねと前置きし、イリスさんが語り出す。
「ダンジョン内は特殊な魔力が充満しているの。人体に害はないし、普通に魔力として扱える。けれどダンジョンの外には持ち出せない。ダンジョンの壁にも流れていて、ダンジョンを維持する為に使われている魔力でもあるの。」
確かに、ダンジョンには固有の魔獣や魔物が沸いたりするというし、ボスは一定時間でリポップ(再発生)するらしい。それを維持し、生み出すための魔力がその特殊な魔力なのだろう。
「そして、ダンジョンの最奥にはダンジョンコア…別名、迷宮核があると言われているわ。これを手に入れさえすれば、ダンジョン内の魔力を自由に扱えるようになると言われている核が、ね」
「ふむ、なるほどなるほどだいたいわかってきた。つまり大方魔族かその辺が、そのコアとやらを手に入れて、ダンジョン内の特殊な魔力を使って街一つ消し飛ばせるぐらいの魔法を使ったと」
葵は自分の考えている仮説は、恐らくイリスさんが考えているものとそう外れてはないのだろうと思い口にする。途端、イリスの目は大きく見開かれ
「あなた…頭の回転が早いのね。よく魔族と結び付けられたわね」
「そんな事をしそうなの、魔族ぐらいしか思い浮かばないからな。それで、その街が消えて危ないから行くなって言いに来たのか?」
「そんなわけないじゃない。ここからが本番よ」
だろうな、と葵は思う。俺達がダンジョンに行くという話がイリスさんに伝わっているはずがない。
「ずばり、あなたに手伝って欲しいのよ。魔族だって理由もなく街一つ消し飛ばしはしないでしょう?それに、魔族が潜伏している可能性だってある。正直な話、うちの国の騎士団や神官たちでは魔族には勝てないの。だから、魔族を倒したことのあるあなたに協力して欲しい」
「カルスさんは?あの人なら、並大抵の魔族に勝てるだろう?」
そもそも俺の剣術は元はカルスさんのものだ。俺がコピーして勝てているのだから、こと剣術や戦闘歴から来る先読み能力はオリジナルの方が上だろう。そのカルスさんなら、俺が行く必要はないと思う。そう思って聞いてみたのだが…
「ああ、あいつなら別件で王都にいるわよ。これは言えないのだけれど、ちょっと王都でも事件があって、あいつが離れる訳には行かないのです」
ちらっと、バレないようにリアの方を覗き見る。どうやら嘘ではないらしい。
正直な話、かなり怪しいのだが魔族が関わっている可能性がある以上、行かないという選択肢は無い。けれど俺の見解だけではどうも怪しさが払拭しきれない…だからここはリアにも聞いてみよう
「んー……リア、どう思う?」
「正直、葵くんには危ないことをして欲しくないです。けど、葵くんしか解決出来る人が居ないのは…多分、事実です。ですから…行って欲しい、と、思います」
「イリスさん、リアも付いてきていいんだろ?」
「ええ、1人ぐらいならば同行者がいても問題はありませんよ」
「なら、リア。俺と一緒に来てくれ。その…」
「私がいないと無茶しますもんね、葵くん。分かりました、いてあげますっ」
そう言って、笑顔になるリア。さっきまで暗い雰囲気だったのは、俺に危ないことをして欲しくないのか…もしくは、消えた人達のことを思ってか。とにかく早めに解決しないと不味いことになりそうだし。
「お熱いことで。出発は明日の朝、一応最大限の戦闘準備をしておいてね」
その言葉で思わずリアに見とれていた状態から抜け出し、さっさと自分の部屋に戻り刀と杖のメンテナンスに入る俺がいた。恥ずかしい。




