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○□☆◇▽♡/碑戸々木家の七夕 ~見えないものを見ようとして~

〈 ○□☆◇▽♡ 〉



 俺が無難に“焼き肉を食べたい”と短冊に書いていると、どこかへ行っていたアネキと愛姉が帰ってきた。


 姉貴はなにやら望遠鏡を担ぎ、愛姉はなにやらそれ関係の道具箱を持っている。


「あら、ヒビちゃん、愛ちゃん。天体観測かしら?」


 シャロ姉が乙女っぽく手を合わせると、姉貴が「まあな」と返し、愛姉が「ちょっと響、まだホコリ取り終わってないのにぃ」と追いかける。俺は一瞬どちらの荷物を持つか迷ったけれど、愛姉の道具箱を受け取って代わりに運んだ。「ありがと」と微笑んでくれる愛姉。


 窓際にいたひめ姉が大窓を開け、姉貴と俺が通れるようにしてくれる。そう広くない庭に出た姉貴はさっそく望遠鏡をセッティングし始めた。


「懐かしいな、姉貴」

「ああ」

「ちょうどいいわ。みんな外に出て、書けた短冊を飾りながらお星様を見ましょう?」


 シャロ姉の提案に、ニゴ姉、秘姉、愛姉も庭に出てくる。ゆら姉は「も、もう少し待ってはくれないか」とまだ短冊にペンを走らせていた。


 笹に短冊を飾り付けていく姉さんたちを横目に、姉貴は無言で職人みたいにファインダーをのぞき込んだりつまみを回したりしている。


 俺の隣には愛姉。

「これ、弟くんのお父さんの望遠鏡だよね?」


「うん。買った当時はなかなか高性能って言われてたらしい。で、愛姉はなに書いたの?」

「ああ、わたし? わたしはね……」


 愛姉は手に持っていた短冊を俺に見せた。


「“弟くんがかっこいい大人になれますように”?」

「うん! 弟くん、もうかっこいい子に育ってるけど、わたしの願い事でもっと背中を押してあげるね!」

「今の時点で全然かっこよくないけど」

「そんなことないよ? わたしもみんなも、弟くんのことをクールでやるときはやる子だって思ってるからね。ね、響?」


「おー来た来た。見える見える。月のクレーターがくっきりだ」

 姉貴は望遠鏡に夢中だった。

「ほら、見てみろよ宗一」


 見る。きれいだ。少ししてから接眼レンズから目を遠ざけ、肉眼で空を見上げてみる。


「これで覗いた後に肉眼で月を見ると、一瞬だけ宇宙に行って帰ってきたみたいな感覚するよな」

「姉貴はなに書いたの、短冊」

「おれか? “今日たなぼたって言った奴スクワット千回”」

「なんだそれ」


 姉貴はハッとすると、“たなぼた”の部分を消してその上に“なんだそれ”と書いた。数分後になって愛姉に止められた俺は五十回やるだけで済んだ。姉貴は終始ゲラゲラ笑っていた。






〈 ○□☆◇▽♡ 〉






 俺は大窓のへりに座り、天体観測にはしゃぐ六人の姉さんたちを眺めていた。


 メイド服のニゴ姉と、忍装束の秘姉を除けば、みんなが夏らしい軽装だ。シャロ姉のスカートと愛姉のワンピースは普通の長さだけれど、ゆら姉のミニスカートは姉貴のホットパンツ並みに太ももが露出していて、見ているとからかわれるのであまり見たくない。


 あと何週間かすれば夏休み。このいつもの感じなら、去年みたく楽しい休みになりそうだ。

 山や、夏祭りや、去年は悪天候で行けなかった海水浴にも行きたい。姉さんたちと海水浴に行ったなんて言ったら男友達にはキレられるだろうけど。


 あと、そういえばいろいろ気になることがあったような。なんだったかな。

 湿気て使えない花火にぶうたれる姉貴たちを見つつ、ぼんやりする。


「……あぁ」


 そうだ、道端で会ったフミという小さい女の子が何か言っていた気がする。水色の髪の、和服を着た幼女だ。何と言っていたか……確か……


「宗一ィ、何たそがれてんだ?」


 姉貴の声に顔を上げると、六人の姉さんが俺を見つめていた。花火は諦めたのか、天体観測セットをそれぞれ手に持っていた。


「宗ちゃん♪」シャロ姉が耳にかかった金色の長髪を払う。


「宗一さん」ニゴ姉が五歳児くらいの小さな体を浮遊させながら無表情。


「宗くん……」ゆら姉が妖艶に笑みを浮かべて豊満な胸を強調する。


「そ、そうちゃん……」秘姉がおどおどしながらも前髪の隙間から優しい視線をくれる。


 愛姉が「弟くん、一緒に星、見よっ!」と首を傾げて笑い、手を差し伸べてくれた。


 うん、と答えて、俺は立ち上がる。

 再び談笑し始める姉さんたち。俺はその輪に入る前に、笹に短冊を飾り付けた。

 新しく書いた願い事だ。我ながらクサいなと思う。後で自分で外して捨ててしまおう。


 ざざあ、と笹の葉が擦れ合う音。

 飾られた短冊が風に揺れる。

 改めてそれを読んでから、踵を返した。


「ほら宗一、さっさと来いよ」

「わかってる」

「宗一さん、ニゴと一緒に未発見の小惑星を見つけて名前を付けましょう」

「だめだよニゴ姉さん、宗くんは私と一緒に愛の星座をなぞるのだから」

「ああっ、二人ともそんなしたら望遠鏡壊れちゃうよ……シャロお姉ちゃん、なんか言ってあげて?」

「ふふっ、いいのよ愛ちゃん。二人とも可愛いんだからっ」

「そ、そうちゃん……ぼくといっしょに……あぅぅ……」


 俺は姉さんたちと一緒に、星空を眺める。

 こうして同じ方向を見つめていられるのが、とても嬉しい。


 姉さんたちの願い事が全部叶いますように、なんて書かなくたって、叶ってしまったかもしれないな。

 そんな思いを抱かせる、七夕の夜だ。

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