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◇▽/碑戸々木家の七夕 ~星に願いと欲望と純情を~

〈 ◇▽ 〉



 シャロ姉とニゴ姉の願い事が決まったようなので、俺も短冊に何を書くか考えていると、「宗くん」と呼ばれたので振り向いた。

 紫髪の姉さん、ゆら姉が、俺に短冊を問題のある方法で差し出していた。


「ほら、宗くん。宗くんも願い事を書かなくてはね」

「………………うん……じゃあいただくかな……」


 俺はゆら姉の柔らかそうな胸の谷間に挟まれた短冊を受け取った。姉さんから少し距離をとり、ひめ姉の隣のソファに座る。ゆら姉は「なんだか反応が悪くないかな……?」としょげた。


 たくさんの短冊に願いを書いているゆら姉と、まだ一枚も書いていないらしい秘姉。対照的な二人を見ながら、俺は訊ねた。

「二人はどんな願い事あんの?」


「あっ……ぼくは……えっとね……」

秘代ひめよちゃんはさっき、目にも留まらぬ速さで何かを書いて、すぐに隠してしまったようだけれど……」

「そうなの?」


 黒髪ポニーテールで忍装束の姉さんは、体を縮こまらせて「そ、そんなこと……ない……」とか細い声を出す。


「気になるなあ……。ゆら姉は? どんなふざけたこと書いたの?」

「ふざけたこととは心外だね宗くん。宗くんへの求愛のどこがふざけているというのかな?」

「昔は七夕が終わったら笹と短冊は燃やしてたんだよね。燃やすの楽しみだなー」


 ゆら姉は悲しそうな表情をしながら短冊に“宗くんが素直になってくれますように”と書いた。見ると、姉さんの書いた短冊はほとんどが俺関連の願い事だった。“宗くんがSMプレイに応じてくれますように”はさすがにやめてほしい。


「ゆら姉は放っといて、じゃあ秘姉は何書くの?」


 俺が訊ねると、秘姉は「ん……」と考え込んでから、小さく口を動かす。

「ぼくは……やっぱり、そうちゃんに尊敬されるお姉ちゃんに……」


「秘姉……」

「ぁ……うぅ……は、恥ずか……しい……」

「立派なお願い事じゃないか、秘代ちゃん。でも、既に叶っている願いを願われても、織姫は困るのではないかな?」

「ぇ……?」


「物静かで、気配りができて、動物に好かれていて、時に格好いい忍術を使う……」

 ゆら姉は目を細めて、秘姉の頬を撫でる。

「秘代ちゃんは、もうとっくに、宗くんに尊敬されるお姉ちゃんになっているはずだよ」


「ま、まゆらおねえちゃん……」

「そうだろう、宗くん?」

「うん。俺、秘姉のこと好きだし、いつも凄いって思ってるよ」

「ふぇ!? す、すす……!?」

「宗くん宗くん、私は?」

「変態だと思ってる」


 ゆら姉は悲しそうな顔をしながら“宗くんへのこのpure loveがいつか真っ直ぐ届きますように”と書いた。十一枚目の短冊だった。


「そ、そういうわけだから、秘代ちゃんももっと様々な欲望を解き放たないともったいない。どんどん書こうじゃないか!」

「わわ、うん……!」


 ゆら姉と一緒に短冊を書き始める秘姉。仲睦まじいその様子を眺めながら、俺はふと床に落ちている短冊に気づく。

 拾って裏返すと、そこにはもう文字が書かれていた。


 “織姫さまと彦星さまがちゃんと会えますように”


 俺は秘姉を見た。

 ゆら姉にアドバイスされながら、一生懸命鉛筆で字を書いている。

 俺は短冊を床に戻すと、「俺も書くかー」と七夕行事に参戦した。

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