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○□/碑戸々木家の七夕 ~星をください~

〈 ○□ 〉



「みんな、短冊書いてんの?」


 七月七日、七夕の日。

 我が家のリビングには四人の姉さんが集まっていた。


 ゆら姉とひめ姉はソファに、シャロ姉とニゴ姉はテーブルに座っている。四人とも紙と向き合って何かを書いたりにらめっこしたりしていた。

 アネキはトイレにでも行っているのか知らないけど今はいない。愛姉も「ちょっと響呼んでくるね」と言って廊下を歩いていったきりだ。


 長い金髪を揺らして、シャロ姉が答える。

「んふふー、そうなの。宗ちゃんも書きましょう?」


 俺は姉貴がリビングを去る時「あーはいはいロマンチックだな」と声が聞こえたのを思い出しながら、

「うん。でも姉貴にだいぶ茶化されたんじゃない?」


「ヒビちゃんには『ロマンチックだな♡』って褒められちゃった~♪」

「シャキロイア姉さん」

「……そうだよニゴ姉、言ってやって」

「褒められたからってにこにこしすぎです」


 褒められたわけではない。


「シャロ姉……ニゴ姉……」

「ふふっ、なんちゃって。でも、ヒビちゃんの茶化しはちょっと照れ隠しも混じってるんじゃないかしら? かわいいわよね~」

「ああ、わかってたんだ。でもそれはどうかなあ」

「シャキロイア姉さん、茶化しとは」

「ニゴちゃんもかわいいわよね~っ!」


 よくわかっていなかった銀髪ちびメイド姿のニゴ姉を、お人形さんみたいなんだから~、と抱きしめて頬ずりするシャロ姉。俺はそのいつもの光景になんとなく安らぎを覚えながら、二人が書いていた短冊を見る。


 ニゴ姉の短冊はまっさらだったが、シャロ姉の短冊には既に“弟妹たちみんなが健やかに育ちますように♡”と丸っこい字で書かれていた。


「シャロ姉、これ」

「ああ、そうなのよ~。ふふ……ちょっと恥ずかしいな」

「シャロ姉らしくていいんじゃない? 文字の横の星マークとかも可愛いし」

「シャキロイア姉さんらしさ……」

「ニゴちゃん?」


「シャキロイア姉さんらしい願い事がそういったものなら、ニゴらしい願い事とは何なのでしょう?」

 ニゴ姉が無表情のまま小首を傾げる。

「ニゴはあまりいい願いを思いつけないのです」


「ニゴ姉らしさ? えー、身長が伸びますようにとか?」

「ニゴはパーツを加えなければ身体的成長といえる現象は発生しませんが」

「別に、自分らしい願い事を考えようとしなくてもいいんじゃないかしら?」

「どういうことでしょうか?」


「ニゴちゃんは、願い事という漠然としたものをどうすればいいのか迷っているのよね?」

 シャロ姉が妹へ優しい眼差し。

「それで自分らしさに答えを見つけようとしたんでしょう? 真面目なニゴちゃんらしいわ。でもね」


「でも?」

「短冊にはどんなお願いでも書いていいのよ。考えすぎず、がんばりすぎず。自分らしさを見つけてからじゃなく、自分らしさを見つけるためにお願い事を書くの」


 ニゴ姉は生真面目な姉さんだ。「なんとなく」というものの処理が苦手なのかもしれない。俺はペンを拾って、ニゴ姉に渡す。

 受け取った姉さんは、ありがとうございます、と呟くと真剣な面持ちで短冊に文字を書き始めた。

 俺とシャロ姉はそれを静かに見守っている。


 ペンを置く音。


「……書けました」


 シャロ姉と二人で短冊をのぞき込む。

 そこには、“無病息災”と書かれていた。


 ニゴ姉らしい、真面目で、ちょっと抜けてる願い事だ。


「あら」「へえ」

「どうでしょうか」


 唇を閉じ、僅かに緊張の表情をするニゴ姉。俺が「ニゴ姉、ガイノイドなんだから病気にならないじゃん」と突っ込むと、姉さんはハッとして短冊に目を落とす。“家族全員”という字を付け足していた。それをシャロ姉が慈愛のオーラを漂わせながら優しく見つめている。

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