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○□☆◇▽/その闘いは阿修羅の如く! スマブラ・デスマッチ!

〈 ○□☆◇▽ 〉



 球技祭を終えた日の夜、九時頃。

 碑戸々木家では未だにテレビゲームをしていた。


 とはいえシャロ姉とニゴ姉は強すぎるという理由で追放されているし、愛姉は「夜更かしするといけないから」と早々に隣の縛阿木しばらき宅へ帰ってしまっている。メンバーはアネキ、ゆら姉、ひめ姉、俺だ。ちょうど四人なのでやりやすかったけどマリカーには飽き、今度は対戦格闘ゲームのスマブラを起動していた。


「ああ、くそっ! ゼロサムのマユーラ・ファントム・シュートつええ!」

「そんな技は存在しないよ!? 精神攻撃はやめてくれるかな響姉さん!?」


 四人の中ではゆら姉が飛びぬけて強く、姉貴と秘姉と俺はチームを組んで三人がかりでゆら姉のゼロサムと戦う場合が多い。姉貴のアイクもけっこう強いほうだし、俺のファルコも何気にウザいと評判だし、最初の方はステージから落ちるゲームだと勘違いしていた秘姉のカービィも落ちなくはなってきたので、勝率は五分五分といったところだ。


 俺はそこまで思って、横の大きなテーブルに目をやる。椅子に座ったシャロ姉が、不機嫌そうな顔のニゴ姉を膝の上に乗せ、幸せそうに妹の頭を撫でていた。

 こんだけ強いゆら姉も敵わないシャロ姉とニゴ姉っていったい何者なんだろう。古代超文明人と超高性能ガイノイドだった。強くないほうがおかしかった。


 二人のファンタジーな姉さんに見守られつつ、姉貴がステージ選択画面でカーソルをうろつかせる。


「そういえばさ、まゆら」

「なにかな?」

「おれ今日、蘭子に会いそびれたんだけど、おまえは会ったか?」

「蘭子先輩にかい?」


 三年の衣留いとま蘭子らんこ先輩は、愛姉と同じクラスで、姉貴とも友達関係だ。さらに漫研仲間であるゆら姉とも仲が良いらしい。姉貴はゆら姉なら衣留先輩が球技祭でどうしていたか知っているかもしれないと思ったのだろう。


「蘭子先輩とは球技祭が終わってから会ったけれど、同好会のメンバーと打ち上げに行くと言っていたね」

「同好会? ああ、なんかごちゃごちゃしたアレな」


 姉貴は『特設リング』のステージを選んだ。バトルが始まる。笑いと怒声とやっぱり笑いが飛び交う。終わる。響連合の辛勝だった。


 俺はキャラクター選択画面でゲムウォの色を変えながら、

「さっきの、ごちゃごちゃしたアレ、って何?」


「忍者同好会兼宇宙同好会兼古代文明同好会兼色々同好会。まとめて通称S(すこし)Fふしぎ同好会だとさ。蘭子が立ち上げたらしいぜ。漫研も掛け持ちして更に生徒会役員もしてるみてーだけど、あいつホント頑張り屋だよな」

「そうだね。それにいつも元気いっぱいだ。高校生活が楽しくてたまらないんだろうね」

「忍者……同好会……。見学、いってみよう、かな……」


 次にステージを選ぶのは順番的に秘姉。『オネット』。バトルが始まる。「やめろバカこいつ!」「やっべ」「ひぁぁ」「ふぅ……まだまだだね」。終わる。ゆら姉の辛勝だった。


「古代文明の同好会もあるの?」

 シャロ姉がニゴ姉の頬をつまんでむにむにとさせる。

「わたしたちのいた時代を知っているのかしらね~」


「シャキロイア姉ひゃん、ひゃめてくらひゃい」

「あら、ごめんねニゴちゃん」

「蘭子はシャロたちのことは知らないだろ。『どうせならいろいろ混ぜたほうが楽しいやろ?』っつってテキトーに考えただけだろうし。あいつは基本、ノリで生きてるよ。あのエセ関西弁も、来週にはエセ東北訛りになってるかもしれねえ」


 スマブラの画面ではゆら姉のカーソルがステージを選んでいる。それを眺めつつ「ふうん……」と思案顔をしていたシャロ姉が突然、「あ、そうだ~!」と乙女風に両手を合わせた。


「わたし、その蘭子ちゃんにも会いたいわ! あと、使野真桜ちゃんにも! だから、わたしたち家族と、お隣さんの愛ちゃんたちと一緒に旅行に誘わない?」


 使野先輩を呼ぶとなると夜光院先輩も同行するだろう。そして愛姉のお父さんは少し先の夏休みは忙しいらしいから行けないかもしれない。それらを踏まえると、六人+二人+三人で、十一人の団体ご一行になる。


「おっ、いいんじゃね?」 「た、たのしそう……」 「ふむ。楽しそうだね。場所はひとけのない海水浴場か、混浴温泉にしよう」 「ニゴも賛成です。日本の世界遺産を回るというのはどうでしょう」


「ちょ、ちょっと待って」

 俺は手を挙げる。

「でもそれだと、男が俺だけになるんだけど」


 姉さんたちは俺を見た。


 一瞬きょとんとしてから、何でもないように笑った。


「宗ちゃん、気にすることないのよ。女の子がいっぱいいる中で男の子ひとりが自信なさげにしてるのって、可愛いわよね~」

「荷物運びに関してはニゴが引き受けますので、宗一さんには負担をかけません」

「別にいいじゃねえか。おまえ男っていうより、弟だしな」

「フフ……私の水着姿や浴衣姿を想像して恥ずかしくなってしまったのかな?」

「そ、そうちゃん、ぼく……そうちゃんと一緒に、行きたい……」


 姉さんたちの反応を見てあんまりいい顔をしていない俺に構わず、テレビ画面がスマブラの戦闘開始を合図した。決戦の火蓋が落とされる。俺はなんとなく、今だけは、安全圏から飛び道具を撃つだけでいたくなっていた。

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