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☆◇▽♡†/優丘高校球技祭 ~決着は紫とともに~

「☆▽/優丘高校球技祭 ~姉遁使いの赤髪くノ一~」の続きです。

〈 ☆◇▽♡† 〉



 1-B男子チームfeat.秘代ひめよ vs. 3-A男子チームfeat.ひびき

 ――俺たちの戦いは同点のまま終盤に差し掛かっていた。


 秘姉と姉貴の直接対決はあれから起きていない。三年のサッカー部員が意地を見せたり、そこを我がチームのサッカー部員と陸上部員と元ジュニアサッカーきょうしつ経験者がギリギリで止めたりしていた。三人目は別にいらない気がした。


 俺もマークした先輩にプレッシャーを与えつつ、フィールドに目を光らせる。

 そこへ、聞き慣れた声が届いてきた。


「弟くーん! 秘代ちゃーん! あと響も頑張れー!」


 愛姉が手を突き上げ、その横でゆら姉も優雅さを台無しにして手をぶんぶん振っている。


「おっ、ジョブズ! まゆらも! そっち終わったのか?」

「うん、バレー負けちゃったよー」

「まゆらは来んの遅かったな、宗一の試合なのに。バスケ長引いたのか?」

「三回戦まで勝ち進んでしまったのさ。決勝戦は相手が突然分身の術を使い始めて歯が立たなかったけれど、それはどうでもいい。早く宗くんの勇姿が見たいのにおあずけをされるのは我慢がならなかった……! 宗くん! 頑張って!」


 ゆら姉がとてもはしゃいでいる。らしくもないけど、ある意味、らしいのだろうか。俺は二人の姉さんの応援に、軽く手を挙げて応える。あまり構うと仲間に茶化されるのでできるだけ気にしないようにした。


 秘姉も控えめに手を振っていたが、姉貴がその肩をぱんぱんと叩く。


「実はな、秘代が一点入れたんだぜ」

「ひ、響おねえちゃんん……」

「ふむ。それは凄い」 「すごいじゃん! って、どうして秘代ちゃんが男子と、というかなんで響も!?」

「ま、説明は後だな。よし三年の男ども、一点返すぞ!」


 仲間を激励しながら秘姉の頭をわしゃわしゃ撫でる姉貴。

 そこに俺が、

「さっき失点したのにずいぶん嬉しそうだな」

 と声をかけると、

「はははっ、ちげーよ、強者の余裕ってやつだ。先に謝っとくけど、おまえにおぞましい罰ゲームさせることになってごめんな」

 俺の頬を片手で掴んでくるので、

「勝つのが決定事項かよ、覆してやるさ」

 と言い返すが、頬を押さえられているため声が変になり威圧感もなにもあったものじゃない。


 フィールドでは割と熱い気迫がそれなりにぶつかり合い、ちょっとした戦場の空気を作り出している。頂上決戦という感じはしなかったけれど、ここまで来たら仕方ないから勝ちを狙うかー、というだらけた闘志が一人ひとりに宿っていた。


 しかし。


「うあー、わすれてたあ」

 簡易ベッドの上で使野つかの真桜まお先輩が時計を掲げる。

「あと十五秒くらいで試合おわるよおー。時間の都合で延長はなしだからあ」


 生徒たちは「えー」「マジかよ」などと言いながら最後の力をそこそこ振り絞って走り出す。俺のチームのゴール前で三年生のサッカー部員がシュートを撃とうとするが、秘姉が奪い、その場で蹴りの体勢に入った。


 相手ゴールは遥か遠い。

 まさか、そんなところからロングシュートを決める気か!?


 そう思った時には、ボールは物凄い速さで飛んでいっていた。

 激しい衝撃による風圧でグラウンドに土埃が舞い、俺のところまで風が吹きつける。

 まるで映画か何かのワンシーンみたいな光景に、心奪われた。


「すげえ……」 「ああ……すごすぎるな……」 「マジかよ……」


 シュートが過ぎ去った後、味方も相手も感嘆の溜め息を漏らした。

 圧倒的な選手への畏敬。それは敵味方関係なく芽生える、静かで潔い感情。

 しかし、それは必ずしも、サッカーが強い相手に向けられるものではない。


「ふやあ……は、はずかしい……」


 秘姉を気遣って口には出さないが、みんな、思いは同じだった。


 “まさかボールが校舎を飛び越えるなんて……”


 秘姉のロングシュートはゴールネットを(風圧で)揺らした。ボール自体は高く飛んでいき、四階ある教室棟を飛び越えていってしまった。

 試合の時間は、残り僅か。


「ど、ドンマイ碑戸々木さん!」 「十分頑張ってくれたじゃん!」 「引き分けに持ち込めたのは碑戸々木さんのお陰だもんな!」


 1-Bの奴らに慰められつつも、姉さんはその場に縮こまってしまう。目立ってしまっても力を尽くすことを選んだというのに、と俺はかわいそうに思ったが励ますくらいしかできない。


 使野先輩が残り数秒のカウントダウンをしている。新しいボールはフィールドに投入されてはいたが、三年生も秘姉に見とれていたので反応が遅れ、シュートをこの短時間で撃てる人はいない。


 あと一秒。


 俺は脱力する。結局引き分けか、そう思っていると、誰かの足音が迫ってくるのが聞こえた。

 誰かがボールに向かっていく。


 あと数瞬。


 ボールに向かっていくのは、姉貴ではない。クラスメートでも、相手の三年生でもない。

 おい、まさか――


「宗くんに罰ゲームであんなことやこんなことをするのは」


 紫色の長髪をなびかせて、欲求不満のゆら姉は蹴りを放つ。


「――この私だ」


 初夏の太陽が見下ろすグラウンドに、ホイッスルが鳴り響いた。

球技祭の試合はここまでです。

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