☆▽†/優丘高校球技祭 ~イナズマトゥエルヴ~
〈 ☆▽† 〉
まず一回戦、しっかり勝った。二回戦、勝った。三回戦と決勝戦も勝った。球技大会は幕を閉じた。俺は「女子サッカー部門の響のチームより順位が低かった場合」に課される罰ゲームを受けず、ひとまず平穏が訪れるのであった。
という理想を現実にするために、俺はシュートを放つ。
男子サッカー部門、決勝戦。
だらだらと進行してきた球技祭も、終わりが近づいてきていた。
ここまで来るのに様々なことがあったな、と思い返す。負傷した山田。得点王荒井。「ちょっとトイレ」と校庭を出て行きそのまま戻ってこなかった河谷。キーパーなのにボールをかわすことに命をかけていた篠原が初めてボールを止めた時は、よくやったよくやったとみんなで泣いた。泣いたというよりは額から垂れた汗が目に入っただけだったけど、泣いたということにした。こうして青春の思い出は作られていくのだ。
そんな熱い記憶に思いを馳せながら放ったシュートは、確実にゴールの右隅を捉えていた。
入る、と確信したがしかし――
「ははっ!」
ボールは弾かれた。何者かにキックで妨害されたのだ。ゴールキーパーにではない。寝癖っぽい赤髪、スレンダーで高身長、耳にピアスの女子生徒……
「姉貴!?」
「宗一ィ、なんだ今のしょっぼいシュートは」
姉貴がそこに、飄々と立っていた。
「なんでここに……。男子のチーム同士の決勝戦に女子が入ってくんな! 審判!」
「あー、いーよいーよ、ひとときくん」
一番審判をやってはいけない性格の使野真桜先輩が、グラウンドに置かれた簡易ベッドの上で手を振る。
「まおが実行委員だから、球技大会はてきとーにすすんでくよお」
「え、なんで使野先輩もいるんですか」
「ソフテニ、力のかげんとボールのこんとろーるができなくて一回戦で負けちゃったあ」
脱力する俺をよそに、俺のチームと、相手の三年生チームが騒ぎ出す。「碑戸々木響先輩が三年チームに加担したぞ!」 「やべえ! 速くて高いシュートを脚で弾いた!」 「碑戸々木か! 我が三年チームにおまえがいれば百人力だ!」 「誰? そこらへんの男より格好いいけど」 「知らねーのか! なでしこジャパンのあの有名選手だよ!」 「サインもらってくる!」 などと喚いている。
相手チームは、姉貴という十二人目の選手が加わったことを歓迎するムードだ。当然だろう。スポーツ万能な姉貴はたまに男子サッカー部と混じって試合で遊んだりもしていて、その技術が並みのサッカー部員より高いことで有名だ。
「さあて、宗一」
姉貴がボールに足を乗せ、不敵に笑う。
「罰ゲームの話、覚えてるよな?」
「あ、そうだ、そっちの順位は?」
「女子の部なら優勝したぜ。おまえのチームも優勝して引き分け、ってのはつまんねーからな、おれが加わったこのチームに勝てれば罰ゲーム受けてやるよ。まあおまえがおれに勝てるわけがねえんだけどな?」
俺は姉貴を少しの間にらむと目を逸らし、「タイム」と使野先輩に告げてから小走りでフィールドを出た。そっちがその気なら、こっちにだってやりようはある。
〈 ☆▽† 〉
フィールドに戻ってきた俺のコーナーキックで試合が再開される。ゴール前まで飛んだボールを、相手の三年生が弾き返す。それをトラップしてドリブルで進んでいくのは姉貴だ。一年生たちをひょいひょいかわしながらゴールへと突き進んでいく。
このまま点を取るかと思われたが、姉貴がシュートを撃とうとした時に足元のボールが、消えた。
「なっ! ……チッ、返せ秘代!」
「ふわあああ、ごめんなさいごめんなさい!」
姉貴からボールを奪った秘姉こそが、俺が一旦抜け出して連れてきた、チームの十二人目。くノ一にとっては当たり前の高速移動で三年生たちをどんどん抜いていき、影分身の術でゴールキーパーを混乱させ、華麗にゴールネットを揺らした。
「なにィ!」 「アイエエエ!?」 「大した奴だ!」 「これが超次元サッカーだ!」
騒ぐ男共を横目に、俺は秘姉に駆け寄る。
「ありがと、秘姉」
「う、うん……でも、いいのかな……響おねえちゃん怖いよ……」
「大丈夫、勝っても負けても俺が被害受けるのはわかりきってるけど、秘姉には手出しさせないよ」
これで点数は一対一。
姉貴のほうを見ると、楽しそうに笑っていた。唖然とするチームメイトの背中を叩き、「ただ同点になっただけだ!」と鼓舞している。どん、と自分の薄い胸を叩いて言い放った。
「おれに任せとけ! おれはあいつらの姉だぜ? 姉に勝てる弟と妹なんて存在しねえってことを思い知らせてやるよ」
「☆▽/優丘高校球技祭 ~姉遁使いの赤髪くノ一~」に続きます。




