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○□☆◇▽/懐かし恥ずかしビデオ観賞会

「○☆/何百回目かの喧嘩」の続きです。

〈 ○□☆◇▽ 〉



「じゃーん! こんな時のために見つけておいた、宗ちゃんとヒビちゃんの幼少期ビデオー!」


 一階のリビングに下りてくると、シャロ姉の声と、ニゴ姉・ゆら姉・ひめ姉の拍手の音が聞こえてきた。


「うっわ、シャロ、そんなもんどっから」

 アネキが焦ったような声を出し、目を泳がせると、俺と一瞬目が合う。俺はすぐに目を逸らし、仏頂面になる。たぶん、姉貴も同じだ。


「シャロ姉さん、そんなものがあるんだったらもっと早く教えておくれよ」

 ゆら姉が目を輝かせている。

「ショタっ子な私のお婿さん……胸が熱くなるな……」


 ビデオの再生が始まり、六人がテレビに注目する。

 地面が映った画面がぐらぐらと揺れ、次に女の子が映し出された。幼少の頃の姉貴だ。


「きゃー! ヒビちゃーん」

「響姉さんも可愛いなあ。ぷにぷにしてそうだよ」

「ビデオのタイトルによると、これは響さんが八歳の頃の映像なようです」


 セミのうるさい夏の映像だ。

 画面の姉貴は水鉄砲を持っており、既に服はびしょ濡れだった。近くで父さんの声が聞こえ、撮影者は父さんだとわかる。


《響、涼しいかー?》

《うん! おとーさんもやるー?》

《お父さんに水鉄砲を持たせたら怖いぞー》

《きゃはは!》


「はは……なんかくすぐったいな」

 ソファに座った姉貴が癖のある髪をいじる。


《ほら、宗一。おまえも撃ちまくっていいんだぞ》

《で、でも……》


 幼い少年が画面に現れる。俺だ。水鉄砲を持っているが、なぜかそれを構える気はなさそうに見える。


「小っちゃい宗ちゃんも可愛いわねえ」

「宗くんだ……! ふむ、時間を戻してショタな宗くんを見下ろして頭をなでなでしてあげたいね」

「まゆらさん、宗一さんが引いています」


《宗一、なんで撃たないんだ? 撃たないから響は自分でホース使って水浴びしてるんだぞ》


《だって、ぼく……おねえちゃんを傷つけるおとこにはなりたくない!》

 画面の俺は姉貴に駆け寄り、抱きつく。

《ぼく、おねえちゃんとけっこんするんだもん!》


 ゆら姉が至福の表情で気絶しそうになり、シャロ姉が「あらあら」と微笑み、ニゴ姉が「久しぶりに赤面機能が発動しました」と呟き、秘姉が「そうちゃん……かわいい……」とうっとりとする。


「へー、宗一ィ、ずいぶんと格好いいこと言うじゃねえか」

 いたずらっぽい表情で俺に話しかけてくる姉貴。


「うっ……うるさいな……」

「んー? 顔が真っ赤だぜ? ほらほら、大好きなおねえちゃんがここにいるぞー? 時を超えたプロポーズしてみろよ」

「やめてくれ……本当に……」


《きゃはは、そーいち、おれとけっこんしたいならおれを倒すくらいじゃないとだめだぞ!》

《そうだぞ宗一。お父さんだって、お母さんを倒したから結婚できたんだ》

《そうなの?》


《だからえんりょはいらないぜ! こっちも本気だ! しね、そーいち! と見せかけて》

 幼い姉貴が撮影者の父さんに銃口を向ける。

《おとーさんを倒しておれはさいきょうになる!》


《ぐあっ! 響ぃ、やったなあ! いいだろう、お父さん参戦だ!》

《やばい! ホースまじんがあらわれた! そーいち、いっしょにあいつを倒すぞ!》

《え、えっ》


 八歳の姉貴は、六歳の俺があたふたするのを見て、頬にキスをした。そして、満面の笑顔になる。

《だいじょうぶ。そーいちは、おれが守るぜ!》


 ゆら姉が硬直してから震える。シャロ姉が「うふふっ、可愛い」と頬に手をやり、ニゴ姉が「響さんはこの頃から格好良かったのですね」と呟き、秘姉が「はわわ……響おねえちゃん、だいたん……」と両手の指を合わせる。


「そうかそうか、姉貴もこんな恥ずかしいこと言ってたんだな」

 腕を組んで頷き、にやつく。


「……うるせーぞ宗一」

「あれ? さっきまで余裕ぶっこいてたのに今は思いっきり赤面してるじゃんか、あっれー」

「それはおまえもだろ! 耳まで真っ赤な癖して!」

「あ……姉貴だって目が泳ぎまくってんじゃねえか!」


「あ? やんのか?」 「姉貴こそ」

 姉貴が近寄ってきて、お互い顔を近づけ、にらみ合う。


 近くで見ると、よりわかる。あの頃より姉貴はとても大人びている。

 だが変わらないものがあった。にらんでくる、その目つき。一点の曇りもない瞳。


 懐かしくなった。

 こんな目をした姉貴だから、俺はついていくって決めたんだ。


 姉貴と俺は、不機嫌に視線を突き刺しあった後――タガが外れたかのように吹き出し、声を上げて笑った。

 シャロ姉たちも楽しげに微笑み、俺は姉さんたちの温かいまなざしを感じる。


「さっきはごめん、姉貴!」

「こっちこそな、宗一っ」


 土曜の昼下がりのことだった。

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