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○☆/何百回目かの喧嘩

〈 ○☆ 〉



 土曜の昼下がりのことだった。


「ふふっ、ヒビちゃんのほんのりお胸。こうしたら育つんじゃないかしら?」

「んぁっ……だから触んなっ……」


 俺がリビングルームで見たのは、シャロ姉に背後からわしゃわしゃと襲われている下着姿のアネキだった。


「うわ……なにやってんだよ姉貴……気持ちわる……」

「なっ!? おいシャロ! やめろ!」 「宗ちゃんひどいわ~。小ぶりなおっぱいも可愛いじゃない」


 俺はゲロ吐きそうな顔をする。

「小さかろうが大きかろうが、普通、姉の下着姿なんて見たくないよ……。貧乳なら尚更……」


「宗一てめえ……! 誰が貧乳だって? あ?」

「事実じゃん」

「おまえ、女に向かってその言葉がどれだけの侮辱かわかって言ってんのか?」

「姉貴は女じゃねーよ、姉だよ」


「宗一ィ!」

 ぽかんとするシャロ姉にも構わず、姉貴は怒鳴る。


「なっ……大声出すなよ、うるさいな!」

「お姉様にふざけたこと言ってんじゃねえ! おまえいつもどっかでおれのこと舐めやがって!」

「そういう性格なんだよ! 実姉譲りのな! 姉貴こそ俺をただの下僕だって思ってるとこあるだろ!」

「はあ!? おまえが朝寝坊しそうな時にちゃんと起こしてやってんだろ! 弟思いだろうが!」

「エレキギターの爆音でな! 鼓膜が破れるわ! だいたい姉貴、普段は朝弱い癖に、休日の七時に起こす必要がどこにあるってんだよ!」

「あーはいはいもう起こしてやんねー! おまえはある日寝坊して気付くんだ! 大切な三文を失ったことと、姉の偉大さにな!」

「遅起きで三文損しても俺にとって二度寝の幸福は三文より価値あるんだよ! 今度からおまえが起こそうとしてきたら六十円投げつけるからせいぜい拾っとけホームレスのようにな!」


「あ?」

 姉貴が俺の胸倉を掴む。

「てめえ、もう一回言ってみろよ」


「ま、まあまあヒビちゃん、弟の言うことなんだから、許してあげ――」

「シャロは黙ってろ」 「シャロ姉は口出さないで」

「……うん……」






〈 ○☆ 〉






 姉貴と俺の口論は続いた。四人の姉さんたちが集まってきて心配そうに見守る中、取っ組み合いになりそうな雰囲気になりすらしたけれど、俺は自分の部屋にこもり、ひとまず怒号は家から消え去った。


 俺はベッドに寝転がり、少し反省することにした。

 どうしてあんなことで喧嘩になったのだろう。


 姉貴の横暴に辟易していた頃もあったけれど、最近は姉貴も大人っぽくなり俺に優しくなったような気もする。それに多少の迷惑に耐えなければ弟などやっていけない。俺にはなにをされてもスルーしたりいなしたりする能力は人一倍備わっている。

 だから、今回の喧嘩は、日頃の不満が爆発したとも言い難いのではないか。むしろ楽しい気分ですらあった。暴言を吐き侮辱をされる、そんな気兼ねのなさが心地よかったのだ。


 いや待てよ、と思う。

 姉貴は俺を侮辱しただろうか。

 口調こそ荒かったが、姉貴は悪いことをしたり自分の言うことを聞かなかったりする弟を叱っているだけではなかったか。


 それに対して俺はどれくらい侮蔑の言葉を吐いてしまったのか。


 姉貴は意外と俺のことを考えてくれている。

 俺も、もっと姉貴のことを考えなければいけない。


 急いで起き上がり、部屋から出て階段を駆け下りる。

 くだらないことで喧嘩して、適当な感じに仲直りする。それが姉弟だ。でも目だけは合わせて、心でハイタッチする。それが俺と姉貴のあり方だ。

「○□☆◇▽/懐かし恥ずかしビデオ観賞会」に続きます。

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