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○▽/シャロと秘代と一緒にデート~三人同士で××××~

「○▽/シャロと秘代と一緒にデート~安心安全冒険譚~」の続きです。

〈 ○▽ 〉



 土曜日、昼。

 シャロねえひめ姉、俺。

 カフェ・ティアラミスを目指す道中はそれなりに人も多い。休日なだけあってスーツ姿の人は少なく、どこか街全体が優しい感じがした。


 そして今、俺の右手にも優しい感じのものがある。


「……シャロ姉」

「なあに?」

「あまりに自然でしばらく気づかなかったけど、いつの間に俺と手を繋いでたの」


 右側を歩くシャロ姉の手は確かに俺の手を握っている。手のひらの、ふにゅりとした感触と、きゅっとした丁度いい強さの握力が安心させてくれる。


「いいじゃない、今日は宗ちゃんとひめちゃんとのデートですもの。お姉ちゃんと弟妹で、お手手くらい繋ぐわよね?」

 シャロ姉は俺を見上げて、笑みを送ってくる。

「男の人の手ってもっとごつごつしてるのかと思ってたけど、宗ちゃんの手はすべすべね。ふふっ、可愛いわ宗ちゃん」


「俺はかっこいいって言われたいんだよ」

「そ、そうちゃん……っ」

「ん?」


 秘姉が震える手で、俺の左手をぎゅっと掴んだ。

「ぼ、ぼくにとってそうちゃんは、その……かっこいい、よ……?」


 シャロ姉と俺だけが手を繋いでいて、寂しかったのだろうか。ただ、秘姉はシャロ姉に対抗するような言動だ。寂しいだけでは説明できない何かを感じる。


「あら、これで三人デートの完成ねっ! やっぱり仲良しきょうだいはこうでなくっちゃ」

 シャロ姉は更にご機嫌になり、横からくっついてきて俺と秘姉の顔を交互に見る。

「だいじょうぶ、宗ちゃんは可愛いけど、きっとクラスの女の子にはかっこいいって思われてるわ。お姉ちゃんが保証しますっ」


 その後は居心地の悪さを感じながら、二人の姉さんに挟まれ、二人の姉さんに掴まれて歩いた。

 道行く人に見られ、たまにぎょっとされているような気がして少しつらい。けれどそれ以上に、二人が手を繋いでくれるのは嬉しかった。嬉しすぎてドキドキしてくる。ドキドキしすぎて息が苦しくなってくる。やっぱりつらい。


「デートといえば、ひめちゃんに今度ヒールを貸してあげようと思ってたの」

「ひ、ひいる!? で、でもぼく、ああいうの竹馬しか乗れない……」

「たけうま? それはなあに?」

「竹馬ってのはバランス感覚が要求される昔の日本の遊具」

「ふうん、じゃあそのたけうまに乗れるならヒールくらい簡単に履きこなせるんじゃないかしら?」

「でも……」

「おしゃれは大事よ~。それにひめちゃんには、もっと可愛いお服が似合うと思うの。暗い色だけがひめちゃんらしさではないわ?」

「そ……そうかな……」

「あ! あんなところにお洋服屋さんがあるわ。帰りに寄ってみましょうか」

「そうちゃんは……どう思う……?」

「秘姉は何を着ても可愛いと思う」

「ふぇぇ!?」

「ラブラブね~。どう? ひめちゃん」

「……変装は……くノ一の、得意分野、だから」

「は~い。寄り道決まりね!」


 そんなふうに会話をしながら、カフェに着いた。

 大きめのカフェだ。先に注文をしてケーキとかをもらう。シャロ姉のご所望により、場所はテラスになった。


 こげ茶色の丸テーブルを、これもまた茶色い椅子に座って囲む。客もちらほらといて、笑い声も聞こえてきたりする。


「それにしても……」

 お金はシャロ姉が出してくれたとはいえ。

「秘姉、それ、多すぎじゃない?」


 秘姉の近くにだけケーキが五個くらい鎮座している。それもおいしそうだが、どれもかなり甘そうだ。


 指摘された秘姉は顔を真っ赤にする。

「や、やっぱり、あげる……」


「いいのよひめちゃん。食いしん坊な女の子、可愛いじゃない? お姉ちゃんもいっぱい食べるひめちゃんを見るのが幸せなんだからっ」

「いいのかな……」

「まあ秘姉はもっと食べないとってくらいに痩せてるし、秘姉がたくさん食べてると安心するんだよね。じゃあ、いただきます」


「いただきまーす!」 「い、いただきます……」


 ティラミスを一口。おいしい。

 秘姉を見ると、俺が一口食べる間に三口食べていた。がっついている感じでもないのに早いし、忍術を使っているしか思えない。その速度で食べるのが普通だと思っているのもくノ一ゆえか。


 そう思っていると、シャロ姉が「宗ちゃん」と呼んでくる。

「これ、おいしいわ。食べさせてあげる。はい、あーん」


 ケーキを乗せたフォークを差し伸べてくるシャロ姉。

 デートとか言ってる時点でこうなることはだいたい予想がついていた。

 ポーカーフェイスを保つ。恥ずかしがるとシャロ姉が可愛い可愛いとうるさいからだ。

 可愛いのではなくあくまで『かっこいい』を目指す俺はペースを乱さないよう、自然な動きでシャロ姉のフォークにぱくつく。


「どーお? 宗ちゃん」

「うん、おいしい」

「ふふっ、よかった。はい、ひめちゃんも。あーん」 「あ、えと、あーん……」


 秘姉がシャロ姉のフォークに、みずみずしい唇を滑らせる。「おいしい……」という感想に、嬉しそうに頷くシャロ姉。自分でもケーキを口に入れ、フォークの生クリームを舐め取った。


 待てよ……

 これ、三人で間接キスをし合ったってことなんじゃ……


「いや、違う。それを言ったら閉め切った屋内で誰かが吐いた息を否応なく吸い込んでしまう人間というのは日常的にアレであって」

「ん? どうしたの、宗ちゃん?」

「いや、別に」


「あら? 顔が赤いわ、宗ちゃん。風邪かしら?」

 シャロ姉が俺の顔を覗き込んできて、そして笑った。

「それとも~、お姉ちゃんにあーんしてもらったのがそんなに恥ずかしかった?」


「そっ、そんなんじゃ……!」


 慌てて否定して、気づいた。恥ずかしがる弟と、からかう姉。これでは完全に最悪のシナリオじゃないか。

 満面の笑みになっているであろうシャロ姉の顔を見たくないから、秘姉を見やる。ぱくぱくと一心不乱にケーキを食べていた。小動物みたいなその姿を見て、気分を落ち着ける。

「○▽/シャロと秘代と一緒にデート~お姉ちゃんだって拗ねるもん~」に続きます。

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