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□☆/ニゴと響と一緒にデート~同じこと思ってたなんて運命だね(?)~

「ニゴと響と一緒にデート~お誘い(物理)~」の続きです。

〈 □☆ 〉



 そういうわけで、アネキとニゴねえとおまけの俺は今、東京ソラマチを目指して駅を歩いている。


 デートだとか言って連れ回されている理由は姉貴に脅迫されたからというのもあるが、他にもあった。

 ニゴ姉が「宗一さんも一緒にどうですか」とやたらグイグイ誘ってきて断れなかったのだ。


 弟の俺にはわかるが、あの目は『寂しいです』と語っていた。たぶん、姉貴と二人では寂しいという意味ではなく、姉貴が友達と話しこんでしまい仲間外れになってしまったら寂しいと言いたかったのだろう。姉貴の友達と馴染みのない俺なら、いつでもニゴ姉を見守っていられるはずだ。

 寂しいときに俺を頼りにしてくれるというのはありがたい。尊敬するニゴ姉に頼られるというのはとても名誉なことだ。


 シャロ姉とゆら姉と秘姉も誘うはずだったが、大人数になりすぎても困るから、またの機会にしようということになった。


 そして今、姉貴を先頭にした三人はエスカレーターを上がり、ソラマチへ足を踏み入れようとしていた。


「言い忘れてたけどな、ニゴ」

 姉貴がエスカレーターに乗ったまま後ろのニゴのほうを向く。


「はい、なんでしょう」

 ニゴ姉は浮遊を使えないので、響を見上げるのが苦しそうだ。


「今からおれたちが向かうソラマチだけど、そこの出口は少し高いところにあるんだ。だからそこから見た場合、スカイツリーの高さは実質的に六〇メートルになるな」

「ふむふむ。……さすがに低すぎるような気がするのですが」

「いや、そんなもんだって。万里の長城だって、月からも見えるっていう迷信が信じられてたりしただろ? それと同じで、スカイツリーは過大評価されてんだよ。なあ宗一」

「ニゴ姉は万里の長城知らないだろ」


「いいか、ニゴ。この世界は嘘で塗れているんだ」

 姉貴がニゴ姉を指差し、ちょんちょんと突く。

「万里の長城しかり、政治家の演説しかり、シドの代表曲しかり。そんな嘘たちの中から真実を選び取るのが現代社会では必要なスキルなわけだ」


 いや、一番嘘つきなのはおまえだろ……

 とは言わないでおく。俺も実はニゴ姉の驚く姿が見てみたいからだ。それとニゴ姉の私服も珍しいし、ソラマチに行くのが楽しみになってくる。


 ニゴ姉はもちろん今はメイド服ではない。

 白の地に猫がプリントされたシャツに、ピンクと白のチェックのフリフリスカート。シャロ姉が選んだものだ。おかっぱの銀髪にはピンク色のカチューシャ。ゴシックな感じのニゴ姉に慣れすぎて、今のこの小さな姉さんは倍かわいらしく見える。背中の大きなゼンマイだけは変わらないけれど。


 また、姉貴はいつもの私服だが、おしゃれにうるさい姉貴はいつも気合が入った私服だ。

 俺にはファッションのことはよくわからないが、体のラインがくっきり浮かぶ黒いシャツに、脚にぴったりフィットしたデニムパンツで、スレンダーな体という姉貴の武器を最大限活かしている感じがする。耳のピアスやボサボサ気味の赤いショートヘアもバッチリ決まっていて、少し、格好いい。


「なんだよ、おれの体をジロジロ見やがって」

「別に」


 姉貴が――この二人の姉さんが集めている視線は、俺のだけではない。

 それぞれ雰囲気が異質な美少女だから自然と目立つのだ。


 俺たちがカップルだと思われていたらどうしよう、と自意識過剰な思いが芽生えもしたが、それはないなと一瞬で打ち消す。ニゴ姉はどう見ても小さな妹だし、姉貴は俺並みに背が高かったり俺とは外見の雰囲気がまるで違ったりして、恋人という感じには見えないはずだ。


 姉貴がどう見えるかといえば、やはり『そこの冴えない男子高校生の姉』だろう。

 俺も姉弟として見られていたほうが居心地がいい。姉弟のほうが、なんか、いい。


「よし、送信っと」

 冴えない男子高校生の姉が、エスカレーターに揺られつつスマフォをいじっている。

「おまえのこと、りっちゃんたちにラインで教えといたから」


「俺のこと? まさか変なこと書いてないだろうな」

「書いてない書いてない。ほら」


 姉貴が見せてきたスマフォの画面には、送られたメッセージの欄に明らかに変なことが書いてあった。


「『超絶イケメンと一緒に行くから覚悟しとけ』……どういうことだよ」

「はははっ! ハードルを下げるのに飽きたから、今度はおまえのハードルを上げてやったぜ」

「理解できます。ニゴも、宗一さんはいわゆるイケメンだと思います」

「俺がイケメンとか、姉さんたち以外に言われたことねえよ……」


「でも満更でもねーんだろ?」

 姉貴がからかうときの顔で俺の額を指で弾く。

「おっ、てことは、おれは周りに『超絶イケメンと超越美少女の凄絶カップル』って思われてんのかな?」


 凄絶って言葉はあんまりいい意味じゃ使われなくないか、とツッコミを入れる。それに、冗談とはいえ自分を美少女と称する姉貴とカップルだなんて気持ち悪い。そういう俺も、イケメンと言われたことについては確かに満更でもなかったけど。


 自分のことをよく美少女と呼べるよな、とからかおうとしたその時、姉貴が「けど」と言った。

 カタンと靴で床を鳴らす姉貴。

 向こう側、エスカレーターの出口のほうを見上げる。


「けど、おれと宗一はさ……やっぱ姉弟として見られてたほうが、なんか、いいよな。綺麗で」


 俺は黙って、姉貴の後ろ姿をじっと見る。

 冴えない弟の姉が「ん?」と振り返った。


「どした? 宗一」

「いや、別に」

「なんだよ。お、ほらニゴ、ソラマチ商店街に着くぜ」


 ソラマチ商店街に着いた。

「ニゴと響と一緒にデート~スカイツリー(6000m)~」に続きます。

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