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□☆/ニゴと響と一緒にデート~お誘い(物理)~

〈 □☆ 〉



「とうきょうすかいつりー、ですか」

「ああ。東京スカイツリー」


 ある休日。

 俺がリビングにあるテレビゲームで壮大な草原を旅していると、テーブルのほうからアネキとニゴねえの会話が聞こえてきた。


「今度りっちゃんたちとスカイツリーの下のソラマチ行こうぜって話になったんだけどさ、ニゴも一緒にどうだ?」


 姉貴の言う『りっちゃん』は、姉貴にとっての親友だ。姉貴は彼女と高校で出会い、よく遊んでいるらしい。


「聞いたことがあります。東京スカイツリー」

 ニゴ姉が相変わらずの穏やかな表情で言う。

「詳細なデータは集めていませんが、六三四メートルの高さを誇るタワーで、二〇一一年十一月十七日には世界一高い自立式電波塔として認定されたとか」


「ああ、それ嘘な」


 俺は思わず姉貴のほうを見る。

 普段通りのまま、ポーカーフェイスを保ったまま、姉貴はニゴ姉に吹き込み始めた。


「まず、六三四メートルってのが嘘なんだ。あれは地上から測ってるわけじゃない。地下深くまで届く、タワーの根っこともいうべき柱……まあ有り体に言えば耐震性強化のための設備だな、それも合わせて六三四メートルなんだよ。あれをもし含めずに地上から測定すれば、スカイツリーの高さはだいたい四〇〇メートルだ」


「そうなのですか。現代の建築工法はよくわかりませんが、地震大国である日本らしさがありますね」


「ああ。で、四〇〇メートルでも高いじゃねーかって思うだろ? 実際に見てみるとそうでもないんだな、これが。実はあのタワー、地上二〇〇メートルから先は針みたいに細いアンテナしかないんだ。近所から見たとしても細すぎてほとんど見えず、二〇〇メートルのタワーにしか見えねーってわけ」


「ふむふむ」


「しかも、ある位置から見ると二〇〇メートルよりもっと低く見えるんだ。『ソウナ・カッマの法則』って知ってるか? 物体の傾斜とその物体を見るときの角度との関係がある条件を満たすと、物体は本来の大きさより遥かに小さく見えるんだよ。その法則に従えば、実質的なスカイツリーの高さは……七〇メートルだ」


「ふむふむ……」

 ニゴ姉は少しも疑う様子なく、真剣な面持ちで頷く。

「では、東京スカイツリーを見てもあまり感動はないのかもしれませんね」


 俺はゲームでせっせとレベル上げをしながら、ニゴ姉は純粋だなあ、と思う。

 姉貴やゆら姉あたりがたまにこうしてニゴ姉に嘘を吹き込んだりしている。今のところその嘘でニゴ姉が不利益を被ったことはないし、別にいいのかなとも思う。


 ただ、ニゴ姉が騙されるのを見るのは弟として心苦しい気もする。本人は真面目に信じているのだ。それを笑うのはどうなのか。


 とはいえ、今回の嘘は姉貴なりの思いやりが感じられた。

 きっと姉貴はニゴ姉を驚かせたいのだ。驚かせて、楽しい思い出を作ってあげたいのだ。

 姉貴は昔からサプライズが好きで、俺もその恩恵(あるいは被害)を受けたことが多々ある。誕生日パーティで姉貴が小遣いで買ってくれた大きなケーキ、嬉しいと思いながらナイフを入れたらスポンジの中で爆竹が弾けたときは本当、なにが起きたのかわからなかったな……


「ツリーは低いかもしんねーけど、ソラマチにはいろんな店が集まってるし、買い物自体は楽しいぜ? ニゴもたまには外に出ないと、なまっちまうだろ?」

「ニゴの体は関節部分も含めて万能金属ジェラッケ鋼で造られているので問題ありません」

「心が、ってことだよ。もっと外に出ていろんなものを見ねーと精神的にやられるぜ」


 ニゴ姉は「一理あります」と呟いて、おかっぱの銀髪をさらりと揺らしてこくんと頷いた。


 その瞬間、姉貴が凶悪な顔でにやりと笑ったのを俺は見逃さない。

 たぶん、あの邪悪な笑顔の姉貴にセリフを言わせるなら、『かかったな! おまえはスカイツリーに圧倒され、驚愕してすごい顔になってる姿をこのおれにバッチリと写真に収められるのだ! ヒャーッハッハッハ!』という感じだと思う。


「というわけで」

 姉貴がこちらを向いた。

「宗一、おまえも一緒に来いよな」


「え?」

「聞いてただろ? おまえもおれたちと一緒にスカイツリー行くんだよ。デートな、デート」

「いや、俺も予定埋まってんだけど」


「キャンセルしろって。お姉様の言うことが聞けねーのか?」

 挑発するように不敵な笑みを浮かべる姉貴。

「それに、美少女のおれと、美幼女のニゴと、やっぱり美少女のりっちゃんたちと一緒だぜ? 楽しい楽しいハーレムデートってわけだ」


 ハーレムはハーレムでも、年上ハーレムだ。年上の女性に囲まれると疲れるということは経験からわかっている。


 俺も一年と少し前、姉が五人になる以前はハーレムに夢を感じていた。しかし、いざ姉五人と一緒に食卓を囲んだりしていると、けっこうな頻度でいじられる。俺はいじられ続けて、むしろ――これは絶対に他言しないけど――いじられるのがちょっと、少し、若干快感に結びつき始めてしまってきている。

 これは男として由々しき問題だ。できるだけ症状を抑えなければ将来の人生設計に狂いが出る。


 更に言えば、年上の女性とは話が合わない。姉ならともかく、りっちゃんさんたちとは興味のある話題なども違うだろう。

 結果、複数の女性と一緒にいても蚊帳の外。せいぜい荷物を持たされるときに一言会話があるだけだ。


「俺は行かないよ。なにがハーレムデートだ、どうせいじられるか蚊帳の外かのどちらかなんだろ痛い痛い腕が折れる折れる痛い痛い、行きます行きます行きます」


 行くことになった。

「ニゴと響と一緒にデート~同じこと思ってたなんて運命だね(?)~」に続きます。

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