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○□☆◇▽♡■★/姉弟だからだ

〈 ☆★† 〉



「あっちが出口だよー。まおはもう少しここにいるね。ばいばい、そーいちくん、ひびきせんぱい、それとおかあさん」

「創造神。おまえとまた会いたい。我々の家へいつか訪問してきてくれ」

「さよなら、使野先輩」

「じゃな」


 俺と姉貴と母さんは、非常口のマークがついた妙に俗っぽい扉まで歩き、ドアノブに手をかける。

 そこで「少し待て」と腕を掴まれた。


「なに、母さん」

「その……あれだ。ここを開ければ、フミや、シャキロイアや、ニゴ、まゆら、秘代、それに愛香とも会うことになるのだろう?」

「そうだけど」

「一度に会うのは……その、恥ずかし……いや、うるさく喚かれて不愉快さを味わわされるわけであり、よって今はまだ行きたくないのだがちょっと待ておい開けるな響待て待ってくれうああ」






〈 ○□☆◇▽♡■★ 〉






 俺と姉貴と母さんはゲートをくぐって無事帰還した。


 時空のゆがみの中で過ごした数分間は、元の世界では三秒くらいでしかなかったらしい。つまり姉さんたちからすれば、俺たち二人がゲートに入って三秒後には母さんを連れて戻ってきていたということになるらしい。


 姉さんたちは皆一様に呆然としていたけれど、すぐに歓喜の声を上げて、それぞれ飛び跳ねたり抱きついてきたり胸をなで下ろしたりしていた。母さんは不機嫌そうな渋面をつくっていた。


 けれど、そんな母さんも、やがて優しい顔を自然と浮かべていた。

 ただいま。俺と姉貴だけに聞こえるように母さんが言うと、姉貴は滲んだ涙を隠しもせずにニカッと笑った。


「おかえり、母さん」


 そして、始まる。

 十八歳になった姉貴、碑戸々木響を祝うための――そう。

 地獄のバースデーパーティーが今、幕を開ける……!!






〈 ○□☆◇▽♡■★ 〉






 姉貴は、愛姉の贈るブレスレットを着けながら、シャロ姉の苺のショートケーキを食べながら、ニゴ姉の選んだチョーカーを着けながら、ゆら姉の用意したマンガを読みながら、秘姉の披露するお祝いの術を見せられながら、俺の買ってきたピアスを装着し、誕生日パーティーを楽しんでいた。


 賑やかなリビングダイニング。

 ワイワイやってるところから俺は少し離れて、庭側の窓際のソファに座る。

 そして隣に話しかけた。


「姉貴」

「ん?」


 姉貴は騒々しいのも好きな人だ。けれど、元来クールな奴なので、あまりキャイキャイした女子会に長居するようなたちじゃない。

 今も、赤髪長身痩躯の姉さんは紅茶のカップを鷲掴みするように持ちながら、盛り上がっている義姉さんたちや幼馴染や母さんたちのほうを眺めていた。


 俺は軽くもなく重くもない口調で言う。

「この前はごめん」


「んあ? 何だよ、この前って」

「ほら、一昨日の朝、競走したじゃん」

「あーあー、あれな。お姉さまがせっかく激励してやったのに尻込みしやがったあれな」

「ごめんって」

「謝るなよ。だいたい、今日、見せてもらったしな。ガッツ」

「いや、案外楽勝だったよ」

「ははっ、ゲートの先はこたつとみかんだったしな」


 言おうと思っていることがあった。


 世の中、姉弟は必ずしも仲がいいわけじゃない。俺たちみたいな例は稀有だろう。友達の中には、姉と一言も話さなくなって数ヶ月だわ~とか言ってる野郎もいる。

 でも、姉貴は違う。歳はふたつしか違わないけれど、人生の先輩として背中を押してくれた。もちろん、プロレス技とかの練習台にされる暴力の日々を忘れたわけじゃないけど、それ以上に尊敬できる奴なのだ。


 だから訊こうと思っていた。

 姉貴はどうしてこんなに良くしてくれるのか。


「なあ宗一」


 口を開きかけた俺より先に、姉貴が言った。


「どうして……おまえは、おまえたちは、おれにこんなに良くしてくれるんだ?」


 俺は姉貴の顔を見る。

 本気でわからないという表情をしていたので、思わず笑ってしまった。


 そっか。そうだよな。


「はっ? 何笑ってんだよ」

「いや、俺も姉貴も、バカだなと思ってさ」

「なんだよそれ。おれのどこがバカだよ」

「俺が姉貴に良くするのは、姉貴が俺の姉だからだよ」


 姉貴の、カップを口に運びかけていた手が止まる。

 それから楽しげにククッと声を漏らした。


「ああ、そうかよ。じゃあおれは――」

「ひびきィ、そうゥ、飲んでるかああああ」

「うっわ、母さん!? 酒くせえ!! なに酒飲んでんだよ!!」

「愛娘の生誕祭だ、飲まずにどうするってんでいいい」

「キャラ崩壊してやがる!」

「おらフミ~! 酒持ってこい酒!!」

「やだもーん、っていうかもうないしー」

「葉創さん。ニゴの取得したデータによればこれ以上の飲酒は危険かと」

「お母さん、ほら、あんまり飲み過ぎると気分悪くしちゃうわ? ……わたしも宗ちゃんに迷惑かけちゃったことあるし……」

「ふむ。お堅い系キャラが飲酒により人格を変えるということはままあるけれど、実際にいると楽しいものだね」

「お、おかあさん、風魔流酔い醒ましの術……する……?」

「ほらお母さん、お水持ってきたよ。響や弟くんにゲロゲロしちゃう前に飲んで飲んで!」


 ふたたび喧噪に巻き込まれていく俺と姉貴。お祭り騒ぎも悪くない。それに、姉貴が俺に良くしてくれる理由も、わかった気がする。本当に、シンプルな理由。


 俺たちが姉弟だからだ。

 これまでも、そしてこれからも。









読了ありがとうございました。

たびたび申し訳ありませんが、また休載期間に入らせていただきます。いろいろ事情があるので再開がいつになるかはわかりません。何度も休載してしまうのはひとえに僕の力不足ですが、もう少し頑張ろうと思います。

改めて、ここまで読んで下さりありがとうございました。続きを投稿する時もまた彼と彼女らをよろしくお願いします。

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