○□☆◇▽♡■/波乱の予兆
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姉貴の誕生日、当日。
俺と、姉貴を除く五人の姉さんは玄関に集まっていた。
各々が、クラッカーを持って待機中だ。
姉貴はりっちゃんさん(姉貴の親友)に誘われて遊びに行っていて、夕方になった今、帰ってくるところだった。
「ニゴ姉さん、響姉さんはまだ到着しないのかな?」
とゆら姉が訊ねれば、
「そろそろです。生体反応/登録信号δ/響さんが自宅に接近しています」
とニゴ姉が返す。
「ふふっ、楽しみね。ぜったいヒビちゃん、びっくりするわ♪」
シャロ姉が笑いを漏らすと、
「……ぉ、おこられたり……しない、かな……」
秘姉が不安げに呟く。
俺は愛姉の「んっふっふ、あの子風に言えば『吠え面拝むのが楽しみだぜ』かな?」という言葉に、「それすごい言いそう」と笑いつつ、じきに開くだろう玄関扉を見つめた。
姉貴と微妙な関係になって、二日経つ。
今日は素直になろう。対等でいたいって言おう。
あいつがそれでも怒ったままなら、いくらでも謝ればいい。
俺のそんな思考を、ニゴ姉の声が途切れさせた。
「皆さん、注意してください。ニゴのレーダーが不審な反応を感知しました」
「ニゴちゃん?」
「ニゴに搭載されたあらゆる種類の対ステルス・レーダーをかいくぐる、高度な偽装技術を持ったなにかが飛来しています。対象の偽装が揺らいだ際の0.002秒間で入手した情報を元に解析したところ……」
全員の視線がニゴ姉に集まる中、その小さな姉さんは、ハッとした。
「対象は……登録信号β。推定現在位置は」
俺たちは息をのむ。
「ニゴたちの目の前です」
インターホンが鳴った。
鍵は開けてある。
扉が、キィッと少し開いて、隙間からひょっこり現れたのは。
薄青色の髪をツーサイドアップにまとめた、幼い少女の小さな顔だった。
「うぅ……シャロちゃん……ニゴちゃあん……」
と、なぜか涙声で言いながら玄関に入ってきた和服の幼女の姿に、俺は記憶をたぐり寄せる。
会ったことがある。
確か六月頃……この子と同じ、あやめの柄をした青い和服を着た子と……“フミ”と名乗る女の子と、俺は、会っている。
そして、なんと言われた?
“いつか、また、家族が――――”
「ドレキアちゃーん!」
シャロ姉の声に顔を上げると、ちょうど姉さんが水色の髪の女の子を抱き上げて頬ずりしているところだった。ニゴ姉も歩み寄り、穏やかな表情をしている。
「やっと宗ちゃんたちに教えてもよくなったのね! これでようやく可愛い妹をみんなに紹介できるわ! よかった♪」
一方、俺とゆら姉、秘姉、愛姉はきょとんとするばかりだ。突然ニゴ姉のレーダーをかいくぐる猛者が現れたかと思えばその正体は女の子で、そして少女とシャロ姉は姉妹関係……
「シャロお姉ちゃん、その子、だれ?」
「もしかして、新しいアンドロイド、いや、ガイノイドを造ったのかい?」
「教えてもよくなった……って……?」
シャロ姉はこちらを向いて、少し困ったような顔をする。
「んー、そうねえ、なにから話そうかしら。古代世界まで遡るとややこしいわよね……」
「シャロちゃんっ!」
和服の女の子は悲鳴に近い大声を上げると、シャロ姉に抱きついた。
その光景は親子のような趣を一瞬感じさせたけれど、すぐにこの場の誰もが違和感に気づいた。
「ど、どうしたのドレキアちゃん?」
「ドレキア姉さん、その震えは一体」
「シャロちゃん、ニゴちゃん、みんなも、聞いて!」
ドレキア、あるいはフミという女の子は、今にも泣き出しそうな声を発して、シャロ姉にしがみついた。
「はーちゃんが……葉創ちゃんが……宗一くんと響ちゃんのおかあさんが、大変なの!!」
俺は目を見開いた。
葉創。
一年と少し前にこの世を去った、大切な母さん。
なぜその名前が、ここで出てくる……?




