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元勇者の嫁ですが、なにか?  作者: (=`ω´=)


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教材制作事始めですが、なにか?

 完爾の本業である「ピンクフィッシュ」ブランドの製造販売業の方はどうかというと、一言でいってしまえば「堅調」ということになる。

 依然として、製造すればしただけ売れている状態であり、完爾が魔法を使用できることを秘匿していた時期よりも若干、生産量が拡大したため、総売上もその分あがっている形となっている。

 とはいえ、魔法を使用できる者が完爾とユエミュレム姫の二名しかおらず、このうちユエミュレム姫は多忙であり、それがなくとも元勇者である完爾とは比較にならないほど体内保有魔力量が少ないので生産工程に関してはこれ以上の貢献は望めず……といった状態にあるため、結局のところ、総生産量は現在程度で頭打ちなのであった。

 となれば、限られた生産力というリソースをいかに有効に換金していくのかという判断が、今後の経営戦略には重要となってくる。

 これについては、完爾個人の判断だけではなく、過去の売り上げから割り出した統計や問屋、店員、営業の意見なども参考にし、熟考の上で舵取りをしなくてはならなかった。当然のことながら、この際に意見をくれる側にはそれぞれの立場や意見というものがあり、最終的な決定権を持つ完爾は、その一つ一つに真摯に耳を傾けた上で最終的な判断を下さねばならない。

 完爾にとっては、これが、割合に「きつい」仕事であった。

 扱っている商品の関係もあり、そうした意見をいう者のほとんどは女性である。純粋に状況を分析した上での意見をくれることがほとんどであったが、その採択に際し、不平不満が出てくることは日常茶飯事となった。

 それがきっかけとなり従業員間の関係に亀裂が入ることもあり、このあたりの仲裁については完爾の神経を無駄にすり減らした。

 俗に「人が三人集まれば派閥ができる」などいうが、純粋に客観的な判断を下したつもりであってもあとになってから、

「誰それの意見が優遇されている」

 などという陰口がいつの間にか広められていたりする。

 さほど人数が多い企業でもなし、それなりに厚遇するように心がけてはいるものの、経営者である完爾を覗けばこの会社の構成員はパートやバイト、契約社員など、いわゆる非正規従業員ばかりなのだ。

 そんな中で、反目し合ったり足を引っ張り合ったり……といった賃金が発生しない労働にまともに取り組もうという気持ちが、完爾にはまるで理解できなかった。

 これについて完爾は、

「人が集まるのは、そういうことなのだ」

 と思って、一種の諦観とともに、極力、割り切ることにしている。


 そうした本業の合間に、完爾は千種などとも意見を交換した上で、本格的に牧村女史の研究室への資金援助を行うための準備を開始した。

 とはいえ、実際にやったことといえば城南大学に問い合わせて明確に自分の目的を伝え、

「しかじかの理由で牧村女史の研究に資金を提供したい」

 と申し込んで必要な手続きをするだけなのであったが。

 すでにクシナダグループからの資金援助を受けていることからもわかるとおり、城南大学は企業との協同や資金を提供されることについては豊富な前例を持っている大学だった。

 手続きや必要書類についてもすでに定型化したものがあり、手続き自体はかなりスムースに完了した。

 牧村女史を通さずに直接大学の事務局に問い合わせをしたのは、あとで調べられたときに不審に思われないように、という配慮があった。

 税務関係もそうだが、その他の意味でも身辺は……少なくとも、叩かれても埃がたたない程度の清潔さを保っておきたかった。


 一方、ユエミュレム姫の方はというと、牧村女史の研究室の面々と綿密な相談の上、本格的な撮影開始のための準備に余念がない。

 相談の結果、具体的な撮影場所は城南大学内の教室を使用し、撮影に必要な機材や人員は研究室で手配する。ユエミュレム姫自身の身の回りの準備については完全に自前で揃えることに決まったようだ。

 週末のたびに千種と出かけては服や靴、化粧品やその他の小物などを買ってきているようだった。

 これまでユエミュレム姫は、完爾が経営する会社から支払われた給金をほとんど使わずに貯金しており、必要な資金には事欠かなかった。

 これまで、量販店のラフでリーズナブルな服ばかりを選んで着ていたことに一抹の物足りなさも感じていた完爾は、こうした動きもどちらかといえば歓迎するところだった。


 むろん、ユエミュレム姫とて、そうした表層の準備ばかりに勤しんでいたわけではなく、それ以上の熱意を持って、実際に撮影する内容について、牧村女史と綿密な打ち合わせを続けた。

 牧村女史によって、「エリリスタル王国語」と仮称された言語は、ユエミュレム姫にいわせれば「北ボゲルゲノ大陸語の北西方言」に過ぎず、ほぼ同じ言語を使用する地域はエリリスタル王国以外にも周辺に五カ国はあり、多少の訛化したものも含めれば、その言語の使用する地域はさらに広汎なものとなる、という。

 とにかく、その言語をいかに習得しやすいプログラムに分解して落とし込むのか、ということについて、ユエミュレム姫と牧村女史は、日々、入念な打ち合わせを繰り返した。

 そのプログラムは、城南大学のサイト内にある「エリリスタル王国語解説サイト」に付属する形で、一回につき十分からせいぜい二十分くらいの動画としてアップロードされる予定だった。


 その他に、牧村女史は「エリリスタル王国語会話入門」の出版を予定している出版社と相談し、プロモーション的なことを展開してくれるようにも頼んでいた。

 出版社としてもそれで売り上げが伸びるのであれば、と、それなりに乗り気になっており、ユエミュレム姫の写真や動画を観せると、さらに乗り気になった。

 牧村女史が提案する前に、

「いっそのこと、ビデオDVD付属版も出版しましょう」

 などと提案してくる始末である。

 人目を引くユエミュレム姫の風貌もさることながら、城南大学の告知ページからの予約や問い合わせがそれなりにあるようで、

「この手の書籍としては」という但し書きつきではあったが、今の時点でも予想外の手応えを感じている……そうだ。


 準備がおおかた整い、ユエミュレム姫は数日ごとに城南大学へと通いはじめた。

 週末や休日などは千種に暁を預け、そうでない平日にはベビーシッターに預けての「出勤」だった。

 聞くところによると、メイクやヘアスタイリストなども千種に紹介してもらい、現地に集合してからお世話をして貰っているようだった。 

 それを聞いた完爾は、

「……思ったよりも本格的にやるんだな」

 と関心した。

 出勤日数を少なくするため、一日あたりの撮影時間は長めに取った。

 つまり、朝早くから夜遅くまで、長時間、城南大学に詰める形となったわけだが、育児や家事に専念していたとはいえ、これまでのユエミュレム姫の活動範囲がむしろ狭すぎたという面もある。

 帰宅してから、疲労の色は濃いものの、それなりに表情をしているユエミュレム姫の顔をみると、

「これはこれで、いいのか」

 と、完爾はそのように思ってしまう。

 なにより、水をむけるとユエミュレム姫は撮影現場で出会った人たち、撮影スタッフや牧村研究室の学生や研究者たちのことについて、活き活きと語り出すのだから、どちらかといえばいい影響を与えているのだろう、と、完爾は判断する。

 ユエはもともと、社交的で人の中にいる方が生き生きしてくるタイプだものな、と。


 そんな感じで、「エリリスタル王国語会話入門」の出版とその周辺の事業は、かなり順調に推移していた。


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