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元勇者の嫁ですが、なにか?  作者: (=`ω´=)


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夜中の雑談ですが、なにか?

 帰宅途中、自宅付近の道路上にまたパトカーが停まっていた。深夜の住宅街には不釣り合いな車両であるが、ここ最近はよく停車している。

 ユエミュレム姫に確認してみたところ、昼間の監視だか警護だかをしている人数も、それなりに増えているそうだ。

 完爾が例の委員会とやらと本格的に交渉しだしたことで、どうやら日本国政府は、ユエミュレム姫や完爾を公的に要監視対象者として扱うことに決めたようだ。彼らも別に白昼から堂々と姿をさらし、四六時中、ユエミュレム姫たちにつきまとっているわけではなく、むしろ遠くからそれとなく見張っているような風であるのだが、末席とはいえ王族の一員として多くの使用人にかしずかれてきた生活を体験しているユエミュレム姫は、そうした気配の変化をかなり敏感に感じ取っていた。

 一番の目的はユエミュレム姫など完爾の家族を警護することなのだろうが、それ以外にやはり、海外勢力に対する姿勢を誇示する意味合いもあるのではないか、と、完爾は思っている。

 以前、ユエミュレム姫に大使館だか亡命政権だかを作らせたがったように、日本政府は、魔法という未知の知識を持つユエミュレム姫たちを囲い込みたいと思っているはずなのだ。

 それが無理となった今、次善の策として完爾たちに取り入ったり公然と警護を増やしたりし、対外的に「日本政府と門脇家との結びつきは強い」という印象を与え、諸外国を牽制しておきたいのではないだろうか?

 そうした完爾の予想が正鵠を射ているかかどうかはともかく、どんな理由や動機であれ、家族の安全性がより確実に強化されるのであれば、完爾としても歓迎すべきところではある。

 結果として、完爾は地元警察だか橋田管理部長だかの動員を黙認することにしている。


「……バタバタやているうちに、勝手に育っているもんだなあ……」

 完爾が呟くと、

「起こさないでくださいよー」

 と、ユエミュレム姫にいわれてしまった。

 ベビーベッドの中で熟睡している暁を見ての発言であった。

 完爾は相変わらず、帰宅が遅い生活を送っている。

 当然のことながら、乳幼児である暁が起きて活発に動いている時間には、居合わせたことがない。

 ユエミュレム姫が写真や動画を撮って見せてくれるので、完爾も暁の成長具合は確認しているのだが……。

 その暁は、順調に成長してそろそろ離乳食を必要とする時期になっていた。

「親がなくとも子は育つっていうのは、本当だねー」

「アキラは、両親ともに健在ですよー」

 夜食の準備をしながら、ユエミュレム姫が完爾の軽口に応じていた。

 ユエミュレム姫が簡素な夜食を用意している間に、完爾は部屋着に着替える。


「そっちはどう?」

 食卓を挟んで、会話を続けた。

「進展はありますけど、変化はありませんね」

 白湯の入ったマグカップを両手で包みながら、ユエミュレム姫が答える。

「魔剣バハムの解析とか新しく発行することになった本の監修など、順調に進んでいることは進んでいるのでが……」

「まだまだ目立った成果が得られる段階ではない、ってことか」

 完爾は、頷く。

「まあ、そう焦る必要もないしな」

「時間に追われていないので、まだしも気が楽ですね」

 そういってユエミュレム姫は、白湯を啜った。

 まだ暁に授乳をしている関係で、ユエミュレム姫は自主的にカフェイン含有物などの刺激物を摂取しないようにしているのだった。

「こっちも同じようなもんだ。

 すぐには結果がでないよ」

 漬け物をかじりながら、完爾はいった。

「会社の方は、まあ、かなりうまくいっていると思うけど、委員会とやらの方は、どうもな。

 参加者の人たちの間でも、いったいなにを目的に動いているのかっていう点について、合意が取れていない気がする」

 完爾が「はなしやすい」と思ったのは、まず第一に学者の先生方で、次に役人や官僚の人々。

 一番やりにくいと感じたのは、いわゆる財界人と呼ばれる人種だった。

 前の二種類は目的や目指している方向性がはっきりしている分、こちらの意見も伝えやすいのだ。

 今後、魔法という存在がこの世界に与える影響について考察するのが委員会の目的であり、従って今の時点で完爾が接触する機会があるのは法学者と呼ばれる人たちなのだが、この法学者さんたちは魔法という突飛な存在を一度受け入れてしまえば、実に柔軟に「その存在を前提とした法体系」について考察したり意見をいったりしてくれる。

 官僚たちも、あくまで自分の専門分野についてのみ話題を限定してくれるので、ある意味では気楽であった。

 が、自分で事業をし、なおかつ一定以上の業績をあげてきた人たちは少し我が強く、加えて目的意識が不明瞭で魔法に関する感心もあまり強くない気がした。

 特に、完爾が唱える「現代社会に魔法知識を解放しない方がいい」という慎重論を、建前ではなく本音で語っているのだと理解するにつれ、対応が悪くなってくる。

「でも、あなたの会社はそれで儲けているんでしょう?」

 と露骨な嫌味をいってくる者も少なくはなかった。

 完爾の会社だけで魔法を独占し続けるのはけしからん、というわけである。

「でも、カンジも楽をして魔法を身につけてきたわけではありませんし、それに、こちらの世界にも、ええと、キギョウヒミツといいましたか?

 商売上、秘匿しておいた方が有利になる情報を外部に漏らさないでおく権利が、認められていたと思いますが……」

「だから、さ。

 こういったらなんだけど、詰まらない嫉妬だよ」

 完爾は、憮然とした顔でそういって、味噌汁を啜った。

「魔法を利用すればいくらでも画期的な製品や商品ができるのに、おれのところがそれを独占していて、しかもあまり有効に活用していない、って思いがあるんだろう。

 あちらさんにしてみれば」

「わかりやすいといえばわかりやすいですが……そうした人たちを、無視して動くことはできないのですか?」

「役所や学会だけで主導しても、いざというときに世論を動かせないって説明されたな。

 実際、今、この世界を動かしている一番大きな力は……」

「利益、ですか?」

「そ。

 資本主義マンセーな世の中だからねえ、良くも悪くも」

 完爾は、軽くため息をつく。

「今後、どういう風に事態が動こうとも、財界の理解を得なておかないとどうにもならないってさ」

「コレエダさんは、まだしもはなしが通用する人物だったのですね」

 ユエミュレム姫が、そんなことを呟く。

「あの方も、その、ザイカイジン、ですか?

 その一員だったと記憶しているのですが……」

「ああいう人は、どちらかというと例外だったな。

 ほとんどは、目先の利益を追うことしか考えていない様子だったし……」


「……たっだいまー……」

 そんな会話をしているうちに、千種が帰宅してくる。

「なんだ、完爾。

 今夜は帰ってたのか」

 挨拶もそこそこに千種は冷蔵庫を開けて、缶ビールを取りだす。

「お前も飲むか? というか、飲め」

 そういいながら、千種はグラスを取り出して完爾の前に置き、缶ビールのプルトップを開けて中身を注いだ。

「いや、飲んでも酔えないんだけど、おれ。

 前にも説明したと思うけど」

「いいから、つき合え。

 ひとりで飲んでも面白くないんだよ」

「とりあえず、おつまみに冷や奴を置いておきますね」

「あー。

 ありがとー、義妹ちゃん。

 毎晩すまないねー」

「そう思うんなら、毎晩飲むなよ」

「数少ない楽しみなんだから、それくらい大目にみろよー」

 いいながらも、千種はビールの缶に直接を口をつけ、喉を鳴らして中身を飲みはじめる。

 そんな雑談から、自然と、完爾やユエミュレム姫の周辺に起こった最近の変化についての話題に移っていった。

「それで、例の剣の制御法はまだわからないの?」

 千種が、根本的な部分を訊ねてくる。

「残念なことに、まだです。

 どうも、肝心の制御法が、よくわからなくって……」

「スイッチやハンドルがどこにも見あたらないし、どうやって動かしているのかわからないってわけか……」

 千種は、小さい声で呟いた。

「……周辺にいる人の願望を勝手に読みこんで勝手に叶える、とかだったら、目もあてられないな」

「……そんなことが、ありえるのですか?」

「大昔の旧ソ連のSFに、そんなはなしがあったぞ。

 あるところに宇宙人がやってきたらしい土地があって、そこに未知の遺物がいっぱい残っている。

 でも、人類にとっては用途も作動原理もまるっきり理解不能だったから、その地域は閉鎖されて立ち入り禁止になっている。

 主人公はその地域からオーパーツを取ってきて研究者に売りつけるアウトローなんだけど、関係者の間では、その場所のどこかには人間の願望を勝手に読んで勝手に叶える機械がどこかにあるってことになっていて……最後には、主人公が、おれの願いを叶えてみろ、おれが誰かを不幸にする願いを持っているはずがない、って叫んで終わる。

 長くて退屈で、とても眠い映画にもなったはずだけど……」

「でもそりゃ、フィクションのはなしだろ?」

 口をへの字型に曲げた完爾が、口を挟む。

「脳波とかを読んで自動で動く義肢とかも、最近では開発されているからな。

 なんだかよくわからない魔法なら、もっとなんでもありになるんじゃないのか?」

 千種は、平然とした顔をして、そう答えた。

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