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元勇者の嫁ですが、なにか?  作者: (=`ω´=)


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記者会見ですが、なにか?

 記者クラブでとある記者会見が開かれたのは、完爾の記事が週刊誌に載ってから数日後のことであった。

 多発するギミック類を使用した変身犯罪者に対して、警視庁から初めて公式に発せられる声明だという。


 巷に無差別に配布されたギミック類に関しては、前述の通り民間でも善悪両面においてそれなりの利用メソッドが固まってきた時期ではあるのだが、警視庁から改めて抜本的な対策が公表されるという触れ込みで、それなりの人数が集まっている。

 最初の数十分は、例のギミック類の種類やこれらが発見されてからこれまでの経緯について事務的に説明する、というかなり退屈な内容となった。

 それが一段落すると、一度、質疑応答を経て、本題である「抜本的な対策」についての説明の開始となる。

「本題に入る前に、皆様に紹介したい方がいます」

 司会役の警官がいった直後、そのすぐ隣に唐突に人影が出現した。

 細い覗き窓が開いているだけの丸兜に、胸当て、手甲、脛当てを身につけた、小柄な男性。

 会場内が、ざわめく。

「……グラスホッパー……」

 記者のうち、誰かが漏らした呟きが聞こえる。

 なにしろ、彼がマスメディアの前にはっきりと姿を現したのは、これが初めてのことである。

「ええ。

 すでにお気づきの向きもおらっしゃると思われますが、われわれは、彼のことを四号と呼称しております。

 接触当時こそ、幾分かの誤解や行き違いもありましたが、現在では、彼とわれわれは協力関係にあると思ってください。

 今回も、ギミック類に関する抜本的な対策を提案してくれたのはこの四号君です」

「その……抜本的な対策というのは、具体的にどんなものなのですか?」

 記者の一人が、質問を飛ばしてきた。

「そいつは、おれの口から直接説明させて貰いましょう」

 四号……グラスホッパーが、答える。

 頭部全体を覆う兜をかぶったままだったので、かなりくぐもった声であった。

 グラスホッパーはおもむろに兜に手をかけてそれを脱ぎ、素顔を晒す。

 以外と、若い。

 いや、幼くさえ見える、あどけない顔つきをしていた。

 外見だけで判断するなら、十六、七才くらいだろうか。

 どこからどう見ても、二十才以上には見えない。

「……とはいっても……実際に見て貰った方が、手っ取り早いかな……」

 グラスホッパーはそういうと、片手をあげてなにもない空中に手首を翻す。

 すると、そこからなにか小さな物体がいくつも飛び出した。

「……虫だ!」

 悲鳴のような声が、あがる。

「いや、これは、虫の形をしていますが虫そのものではありません。

 人体にとっては無害です」

 グラスホッパーが、よく通る声で説明をはじめる。

「こいつは、特定の術式……ギミック類とか通称されているものだけに反応して、そいつだけを食い散らかします。

 今も……ああ。

 どうやらこの場に、ギミック類を持ち込んでいる人がいるようですね」

 グラスホッパーの言葉通り、グラスホッパーがたった今解き放った飛蝗を呼び集めている記者が、何名か存在した。

「そのイナゴは、ギミック類だけに反応します。

 ギミック類を放棄すれば、それ以上襲われることはありません」

 飛蝗をたからせた記者のうち何名かは、慌てた様子でポケットや書類入れに手を入れて変身ギミックを床の上に放り出した。

 飛蝗が、羽音をたてながらギミック類に集まっていく。

 もう何名かは、ギミック類を放棄することではなくその場で使用することを選んだ。

 ギミックをその場で起動させ、みずからの身を異形の姿へと変化させる。

 しかし、変身したところでも飛蝗の餌食となることには変わりなく、そのまま全身に飛蝗を集らせてすぐに身動きを封じられる。

 飛蝗は、ギミック類に込められた特定の術式に反応して集まり、術式の組成を破壊しながらその周辺の魔力を自分の身に取り込んで繁殖する……よう、仕組まれた術式なのだ。

 しばらくすると、冷や汗をかいてその場にへたり込んだギミック類の使用者だけを残し、飛蝗は空中に散った。

「……ご覧のように、このイナゴは人間自体は襲いません。

 あくまで、ギミック類に関するものだけを襲い、食らい、繁殖します。

 特定の術式以外のモノには、極めて無害な代物です」

 グラスホッパーは、重ねて説明を続ける。

「こいつらを……これから、首都圏に散布します。

 都内の人工密集地からはじめますが、現在のギミック類の普及状況をかんがみると、あっという間に数を増やし、首都圏全域はおろか日本国内のギミック類を一掃するくらいの勢いになるはずです」

「……ちょっと待ってくれ!」

 記者のひとりが、手をあげて発言した。

「ギミックは……今では、犯罪行為にだけ使われているわけではない!

 君は……体の不自由なお年寄りや身体障害者からも、希望を奪おうとしている!」

「確かに、そういう側面はあるかも知れませんね」

 グラスホッパーの口調は、冷淡だった。

「だけど……それって、元の状態に戻るだけのはなしでしょう?

 もともとギミック類は、どこの誰とも知れない者が勝手にばらまいた、得体の知れない代物です。

 そんなものに頼るしかない状態が、本当に幸せといえるでしょうか?

 皆さんの医療技術は、日々進歩しているはずです。

 あんな怪しいアイテムに頼らずともやっていける日は、そう遠くない未来にまで迫っているのではないですか。

 いずれにせよ……おれの仕事は、ああいう怪しい代物を、この地表から駆逐することです。

 誰からどのように反対されましても、手を止めるつもりはありません。

 ただそのことだけを目的として、おれはこの場にいます」

「いったい……そのイナゴを、いつから散布する予定なのですか?」

 別の記者が、疑問の声を投げてきた。

「たった今から。

 警察や関係省庁の皆様には、通達が届いているはずです。

 報道機関の皆様も、いつまでもこんなところにいるよりは外に行って前代未聞の状況を見聞して報道した方が身のためだと思いますが……」


 その日の未明、丸の内、秋葉原、巣鴨、池袋、新宿、六本木、渋谷……など、都内数カ所の上空に突如黒雲のごとき羽虫の大群が出現した。

 テレビやラジオでは、それら飛蝗の群は人間にとっては無害なものであると繰り返し報道した。

 車両などを運転中に飛蝗に襲われた場合は速やかに路肩によせて停止し、所持しているギミック類を捨てるようにとアナウンスされる。

 飛蝗群は、職場に、学校に、工場に、役所に、病院に、警察署に、工事現場に、家庭に……ありとあらゆる場所に出現して、そこにあるギミック類を使用不可能にしていった。

 その飛蝗群が集まるところには、ギミック類が存在する……という事実は、瞬く間に広まり、認知されるようになった。

 結果をいってしまえば、多少の事故の原因にはなったものの、例えばギミック類を使用した変身犯罪者による直接的な被害と比較すると、かなり軽微なものといえた。 

 都内のギミック類をほぼ一掃したあと、飛蝗群はさらなる餌を求めて外部へ、郊外のベッドタウンと移動していく。

 数多くのギミック類から魔力を奪い取った飛蝗群は、その数も当初の数倍以上に増やしていた。

 このペースをこのまま保持できれば、日本中からギミック類を駆逐するのにもそんなに長い時間は必要としないだろう。 


「おお、来た来た」

 夕日を塗りつぶすような勢いでこちらに飛んでくる飛蝗群を眺めながら、完爾は関心した声をあげる。

 仕事場でつけっぱなしにしているラジオから、完爾も今回の騒ぎについては聞きつけていた。

 そのラジオは、もう何度も、

「ギミック類を所持している人は、それを外の、できるだけ人がいない場所へ放棄してください」

 と繰り返し訴えかけていた。


 完爾は以前より、靱野からだいたいの予定を以前より聞き及んでいたわけだが……。

「しかしまあ、こうしてみてみると、実に派手なもんだなあ」

 今や、マスメディアは、この大掃除の報道一色に塗りつぶされている。

 これだけ派手なことをやってもらえると、数日前に週刊誌に載った程度の完爾の事情など、すぐに風化して気まぐれな大衆には忘却されてしまうことだろう。


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