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元勇者の嫁ですが、なにか?  作者: (=`ω´=)


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ギミック使い狩りですが、なにか?

 おおまかな機能については、術式の構成などを子細に調べれば、それなりに把握できる。

 いまだによく解らないのは……。

「……範囲や目標を指定する方法とか……」

 なのだった。

 例えばこれが既存の転移魔法であったら、転移する対象の大きさや転移先までの距離や方角を、あらかじめ明確に指定しておかなければ大きな事故に繋がってしまう。

 転移魔法が上級者向けの魔法であるとされるのは、必要とされる魔力が大きいから、というだけの理由ではなく、実際に使用するのにあたっての注意事項が多く、一歩間違えれば大惨事を招きかねないからでもあった。

 しかし、この魔剣バハムの術式には……。

「そうしたパラメータを設定する仕組みを、まるっきり欠いている……」

 異常、でしかない。

 それとも、まだ解析が済んでいない術式の部分に、ユエミュレム姫にとって未知の制御法が記されているというでもいうのだろうか?

 単純な転移魔法の制御だけでもあれほど複雑なのに、世界を跨いで移動する術式がこんなにシンプルなはずはないと思うのだが……。

 あるいは、今のユエミュレム姫には想像できないような、奇抜なアプローチによって制御されているのか?

「調べれば調べるほど、よくわからなくなりますねえ……この子は」

 よくわからないまま不用意に術式を起動させても、事故を招くだけ。

 ユエミュレム姫そう思い、いまだ解析が済んでいない術式を読み込み、その解析を急ぐ。


 一方、完爾の方はというと、相変わらず仕事、仕事の毎日であった。

 最初の狙撃事件以来、何度か襲撃にあってはいたが、そのすべてを一撃で沈めてきている。

 靱野が以前いっていた通り、外装式の変身ギミックにはプロテクターとしての機能もあるらしかった。変身をして襲いかかってきた連中については、あまり手加減せずに問答無用でぶちのめしてきたわけだが、少なくとも身体的な部分のみに注目すれば、命に関わるような負傷はしていないということだった。

 精神外傷的には、対人恐怖症その他の後遺症が認められたそうだが、相手ももともと殺す気で襲ってきているわけで、文句をいわれる筋合いでもない。

 命を狙われた代償が、踵落としで全身くまなくアスファルトの中に埋没したりボディに拳を入れたまま百メートルダッシュする程度で済ませているのだから、十分に正当防衛の範疇に入っているだろう……と、完爾はそのように判断している。

 完爾の判断を認めているのか、その手の騒動があるたびに馬鹿正直に届け出ている警察の人たちも、完爾を責めることはない。事務的に調書を取っただけで、すぐに解放してくれる。

 道路のアスファルトなど、公共物を破損したときは流石に少しばかり注意をされたものだが、すぐに完爾周りの損害に対しては特別予算が降りるようなり、それ以降はなにもいわれなくなった。

 かなり「上」の方、おそらく、完爾たちが以前霞ヶ関で会談した人たちがいろいろと手を回してくれているらしい。

 最近では、中の人たちも完爾の扱いに慣れてきたのか、調書の取り方も事務的で、スピーディになってきたような気がする。


「……たとえばですねえ、門脇さん」

 そうした調書取りのとき、すっかり顔見知りになった県警の男から、あるとき完爾はこんなことをいわれた。

「ここから三駅ばかりいったところに、ギミック使いが集まる場所がありまして。

 今、うちで内偵を進めているところなんですが。

 あ。これは、民間の方には公開できない情報なんですけどね。実は。

 そちら関連の資料をうちの若い者がどこかで紛失しまして。

 まあその、それらしい書類を見かけたとしても、決して中を見たり写真に撮ったりしないでくださいね。

 そのまま、こちらにお知らせください」

 この直後に、取り調べ室を出てすぐのところで意味ありげな封筒を拾ったりするのは、もちろん偶然なのであろう。

 完爾は封筒の中身を素早くスマホで撮影してからその警察署の受付に、

「これ、落ちていましたよ」

 といって差し出した。

 公務員もいろいろ制約があって動きづらいんだろうなあ、とか思いつつ、完爾はそのまま自転車で「三駅ばかりいった」ところにある某所へ移動。

 そこは、今は営業していないキャバクラかなにかの跡地で、もう営業していないのにも関わらずなぜか大勢の人たちがたむろしていた。

 完爾が中に入ると、その人たちはたいそう驚いた様子で一斉にスイッチだのメモリーだのカードだのを使用して変身、靱野のいう「仮装状態」になる。

 三十名以上はいただろうが、超人的な身体機能と各種攻撃魔法を使いこなす完爾の敵ではなく、五分も立たないうちに鎮圧される。

 完爾にしてみれば、室内ということで建物にあまり被害を出さないように手加減する方が難しいくらいだった。

 その場にいる全員が床に転がって反応しなくなったのを確認してから外に出て公衆電話を探し、匿名で百十番に通報してからその場を離れた。

 有効な戦力を持たない地元警察にしてみれば完爾の存在をいいように利用している形であるが、完爾の方にしてもこれ以上今の生活を乱されたくはないという希望があり、お互いの利害がたまたま一致したわけである。少なくとも、完爾自身はそのように解釈している。


 こうしたことが何度か繰り返され、完爾は、ふたつのことに気づいた。

 ひとつは、いわゆる外装ギミック類が意外に広範にばらまかれていること。

 もうひとつは、少なくともこの周辺でそれら外装ギミックを使用しているのは、思想とか深慮とかとはあまり縁がなさそうな、軽薄なチンピラが多いということ。

 おそらく、本当に重要なのはそうしたギミックを実際に使っている連中ではなくて、ギミックを製造したりばらまいている連中なんだろうな、と、完爾は思う。

 完爾がこれまでに対面してきたギミック使いたちの様子を見る限り、どうにも変身している間は、全能感に支配され気分が高揚するようだ。それでいて、身体機能は全般に底上げされ、頑丈に、怪我をしにくくなるというのだから始末に悪い。

 直接的な暴力行為の行使が容易になるという意味で、有害性でいったらある種の薬物依存症患者よりも上かも知れない。

 こいつらに対処しなければならない靱野や警察は大変なんだろうな、と、完爾は他人事のように同情したものだ。

 こういった関連の事件は、少なくとも完爾が知る限りにおいては、あまり大ぴらに報道されていない。外装ギミック類の存在も、おそらく普通に生活している分には、知る機会もないのだろう。

 あるいは……本来、ギミック使いたちはそんなに多くものではなく、完爾の周囲に限り、最近急速に増えた……ということなのだろうか?

 靱野や警察に確認する気もないのだが、いずれにせよ完爾としては、自分たちの生活を乱すかも知れない要因を放置しておくつもりはないのであった。

 同時に、

「それはいいんだが……際限がないよなあ」

 という気もするのだが。


 完爾が仕事の合間にそんな狩りを続けているうちにも、月日は流れていく。

 ユエミュレム姫と靱野は、かなりいいところまで魔剣バハムの機能を解析できているようだった。

 しかし、術式のうちの一番肝心な部分が、今ひとつ解析しきれていないらしい。

 どうやればその術式が正確に作動するのか、というスイッチが、いまだにわからない状態だというはなしだった。

「……というわけで、うかつに実験もできやしません」

 その夜も完爾たちの自宅に立ち寄った靱野は、いかにも申し訳がなさそうな顔をしてそう説明してくれる。

「万が一、事故でもあったらどんなことになるのやら……って術式ですからね」

「まあ、世界をどうこうする術式ですからね」

 完爾も、もっともらしい顔をして答えた。

「確かに、事故は怖いし……。

 ここは焦らずに、慎重にいきましょう」

 実のところ、完爾は、魔剣バハムの調査に関してはユエミュレム姫と靱野へ丸投げしていることもあり、いくぶんの後ろめたささえ感じていたりする。

「ところで、靱野さん。

 ギミック使いたちって、割と多いんですか?」

「え?」

 完爾が話題を変えると、靱野は少し驚いた顔になった。

「そんなに多いはずはない、ですけど。

 もともと、秘密結社的な組織の内部だけで流通しているものがほとんどのはずですし……」

「そりゃあ……おかしいなあ。

 辻褄があわない」

 完爾は、軽く眉根を寄せる。

「おれ、この一月だけでも何十人もギミック使いを捕まえてますよ。

 ひょっとして……誰かが、無分別にばらまいたりしている?」

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