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元勇者の嫁ですが、なにか?  作者: (=`ω´=)


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余波ですが、なにか?

「……はい。

 門脇ですが……」

『あ、どうも。

 クシナダの橋田です。

 さっそくですが、本日、三時間ほどご家族で行方不明になっていらっしゃいませんでしたか?』

 靱野と別れ、小田急線のホームで橋田管理部長からそんな電話を貰った。

「行方不明、って……ああ。

 靱野さんの魔法のせいかな?」

 おそらく、「他人の注意を引かないようにする魔法」とやらで、完爾たち一家を監視している人たちの目から一時的に隠れてしまったのだろう。

 ……というか、やはり常時監視されていたのか……。

『靱野? あの靱野ですか?

 また接触したんですか?』

「おれたちの交友関係まで、そちらに指図されるいわれはないのですが」

『あ、いや』

 完爾がきっぱりといい切ると、橋田管理部長は慌てた口調で前言を撤回してきた。

『けっして、指図しようとかそういう意図ではなく、ですね……。

 ただ、あの人はその、いろいろと剣呑な方でして、うっかり近づきすぎても皆さまに危険が……』

「そういうことは、おれたち自身で判断します」

 まだまだ長くなりそうな橋田管理部長のいいわけを、完爾は強引に遮る。

「それで、本日はどのようなご用件で?」

『ああ、そうでした。

 今し方入ってきた情報なのですが、アメリカの衛星が捕らえた映像の中に門脇さんらしき人物が写っているという噂が在日米軍経由で入ってきてまして。

 それが、その。

 太平洋上で起こった大規模落雷現象の原因を探るために周辺の海域を走査していたところ、グラスホッパーと一緒に写っていた、ということでして。

 門脇さんのところの製品は現代のオーパーツとして、今や各国の注目を浴びております。

 そこでマークされている門脇さんが、あのグラスホッパーと共闘しているようにしか見えない現場を押さえられてしまったわけでして、はい』

 橋田管理部長は、

「これで完爾は本格的に世界中のその手の機関から注目を浴びてしまう存在になってしまった」

 という意味のことを、長々と説明してくれた。


「……というようなことを、いわれたんだけど、さ」

 ロマンスカーに乗り込んでから、完爾は千種とユエミュレム姫に橋田管理部長からいわれてことを掻い摘んで説明する。翔太と暁は、ぐっすりと寝入っていた。

 もっとも、この二人も完爾が電話に出たときからすぐそばにいたわけで、はなしの内容自体はだいたいの予測がついていた。

「それって、お前が魔法を使っている現場を押さえられた、ってこと?

 でも、それって……今までと、なにか違うの?」

 というのが千種の反応であり、

「この国は、良民を外国の勢力に売り渡したりする国なのですか?」

 ユエミュレム姫は、そういって首を傾げた。

「ミンシュテキ、というのでしたっけ?

 コクミンの主権を認め、コクミンを守るために国家が存在している、と規定されているはずですが」

「そういう建前の上で各種制度が機能しているはずなんだけど、この国より強い国に強権を発動されたら、どうなるかわからんね」

 完爾は、肩を竦める。

「この国より強い国、というと?」

 ユエミュレム姫が、さらに問いかける。

「まあ、アメリカになるな。

 五十年以上の同盟国だし、強い態度ででられたら、きっぱりと断ることができるかどうか……」

「いや、基本的人権って建前があるんだから、本人の意思を無視してそう簡単にどうこうもできんでしょう。

 間際先生のとこにも、改めて相談しておいた方がいいし」

 千種は、そんなことをいう。

「……そうなのか?」

 完爾は、千種に聞き返した。

「一応は、法治国家なわけだし。

 これといった大義名分もなしに自国民を拘束したり、身柄を他の国に渡したりはできないはずだ」

「……そういわれてみれば、そうか」

「でも、わたくしはまだこの国の国民にはなっていないはずですが?」

 ユエミュレム姫が、そう指摘してきた。

「……そういや、そうだった……」

 先ほどから完爾は、千種やユエミュレム姫に一方的につっこまれるばかりであった。

「たとえ国籍がなくても、基本的人権を簡単に無視できるわけがないだろう」

 千種が、勝手にしょぼくれている完爾にさらにつっこみをいれる。

「ただ、法規的な面を無視して拉致とかをしてくるやつらも、今後出てこないとも限らないな。

 順番としては、まずは、映像を残してしまったお前が真っ先に狙われると思うが」

「ならば、問題はない」

 完爾は、ここぞとばかりに胸を張る。

「たとえどこかの軍隊が攻めてきても、どうとでも切り抜けられる自信はある」

「……よく考えてみると、結構危ないやつだな、お前……」

「それは、十分に自覚している」

 完爾は、頷く。

「その上で、できるだけ無害な存在でいようとしているわけだが……状況の方が、それを許してくれなくなるのかなあ?」

「いや、だから、それはないって。

 靱野さんもさっきいってたろ。

 エリア51のやつらも結構普通の公務員ですよ、とかなんとか……」

「銃器で完全武装していている公務員とはつき合いたくないけどな」

 完爾は、軽くため息をつく。

「まさか。この日本でいきなりドンパチとかははじめないと思うけど……」

「そんなハリウッドのB級映画みたいなことにはならんだろう。いくらなんでも」

 千種も、完爾の意見に賛同する。

「……ならんと思うんだけどな。

 常識的に考えて。

 今の社会状況で、そこまで差し迫って魔法を欲しがる国ってのも、そんなにないと思うし……」

「こちらの世界は、魔法を使わなくても十分に発展していますものね」

 ユエミュレム姫も、千種の言葉に頷いていた。

「だけどまあ、万が一ってこともある。

 どっかのイカレタのが暴発してこっちに飛び火してくる可能性もあるから、警戒だけはしておかなけりゃあな」

 千種が、そう結論をくだす。

 完爾としても異論はなかった。それ以外の対処法が思いつかなかったのだ。


 翌朝からは、通常業務が待っていた。

 実際には丸一日休んだ分、在庫の欠損状態が激しくなっているから通常よりも多忙となったわけだが。

 完爾は自宅で在庫状況を確認してから出勤時間を午前三時と決定、ユエミュレム姫には「つき合わなくていい。そのまま寝ていて」と念を押して、まだ深夜と呼べる時間帯に自転車で職場へと向かう。

 魔法を使えば瞬時に、あるいは大幅に移動時間も短縮できるのだが、普段から目立たないようにと心がけている完爾はあくまで常識の範囲内に収まる移動方法と速度にこだわっていた。

 倉庫と作業所に順番に寄ってそれぞれ数時間ずつかけて商品を補充し、それから社長室に籠もって必要な各種書類や伝言、売り上げ状況を確認して目を通す。

 店の周辺を掃き掃除し、コンビニで買ったお茶とおにぎりで簡単な朝食を済ませる。

 やがて作業所の人々が、ついで、店員たちが出勤してきて、いつも通りの一日がはじまった。


『社長。

 どうしても社長に面会したい、という方がいらしているんですが……』

 午前中に、少し離れている事務所から、そんな電話が来た。

「誰? 用件は?」

 完爾は、短く事務員に確認する。

 そうしたぶしつけな連絡をシャットアウトするのも、事務員たちの仕事のうちなのである。

『それが……会えばわかるとしか、おっしゃってくださらなくて……』

「その電話、今、来ているの?」

 完爾は、少し苛ついた声をだした。

「だったら、こっちに回して。

 直接断るから」

『あ、はい。

 それでは、電話、そちらに回します』

『……門脇さん、ですか?』

 そういう声は、少々アクセントに癖があったが、かなり流暢な日本語ではあった。

「はい。門脇ですが」

 完爾は、平静な声で応じる。

「失礼ですが、お名前とご用件をお願いします」

『名前は、勘弁してください。

 用件は、あなたが持つ特殊能力を提供していただき……』

「お断りします」

 完爾は、きっぱりと答える。

「用件はそれだけですか?

 それでは、もうお断りしましたから、電話、切りますね」

『待て!』

 声が、強い調子で完爾の行動を静止する。

『いいのか? お前の姉や甥がどうなっても……』

「ご自由にどうぞ」

 あっさりと完爾はそういって、受話器を置く。

 ただでさえ仕事が溜まっているというのに、そんな戯言につき合っている暇はないのだった。

 

『……あー。

 完爾ぃ?』

 昼過ぎに、千種から電話があった。

『少し前に不審者に襲われたんだけどさ、効くねー。あの、義妹ちゃんのお守り。

 ずばっていってばしゅって来て、ずばばばばーんとハジケてたよ。

 警察には、不審者です。まったく心当たりはありません、ってマヤっておいたけど。

 なんかねえ、翔太の方でも似たようなことがあったみたいよ。

 今、義妹ちゃんに確認したところなんだけど……』

 王族専用の護身魔法の性能は、折り紙付きなのである。

 完爾は、最初から心配さえしていなかった。


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