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元勇者の嫁ですが、なにか?  作者: (=`ω´=)


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通常業務ですが、なにか?

 持参した弁当を食べて小休止してから、お茶を飲んで少休止……する間もなく、電話がかかってくる。

 スマホではなく、会社名義の固定電話だ。

「はい。門脇インダストリィですが」

『あ、どうも。

 社長ですか?』

「はい。社長の門脇です」

 今のところ、この電話に出る者は完爾自身しかいない。

『営業の篠崎です。

 折り入ってお願いがあるのですが……』

「なんでしょうが?」

『MKBHのGとS、今、在庫状況みたら二十ずつしかありませんよねえ?』

「そうですね。

 金とか銀の製品は最初から数がでないだろうと踏んで、あまり用意できませんでした」

『それ、あと五十ずつ追加して欲しいんですが、用意できますか?』

「五十ずつ、ですか?」

 完爾は篠崎の申し出を不審に思った。

 高額な商品であり、なにより、数が多すぎる。

「明日とかなら、なんとか可能ですが……。

 用意するのはいいですけど、完全に買い切りか精算が終了するまで営業さんから相応の預り金をいただくことになりますが……」

 持ち逃げ対策として、そうした規則をあえて設けていた。

 貴金属などを使用した製品を営業に預ける際には、原価分に少し足した程度の金額を会社に入れて貰うことになっている。

 製品としての標準売価はその十倍以上だから、無事に取引が終了しさえすれば、営業に預り金を差し引いた販売報酬を支払うし、なんらかの理由で持ち出した製品を紛失した場合にはその営業に売価で買い取って貰う形にしていた。

 煩雑なようだが、高額な商品を預ける以上、そうした部分はあらかじめ明瞭にしておく必要があった。

『もちろん、それで結構です。

 製品の用意ができ次第、会社に取りに行かせて貰います』

 篠崎は、きっぱりとした口調で断言した。

『すべて、売りさばいて見せます。

 明日の早いうちに……そうですね。朝一で、用意できますか』

「できるかできないかでいったら、用意することは可能です」

 完爾も、そう断言する。

「明日の朝一に、会社に引き渡しでいいんですね?」

 篠崎は、面接した時はさほど強い印象を受けなかったのだが……。

『はい、お願いします』


 受話器を置いてから、完爾は白い手袋をはめてから金庫を開け、別の世界から持ち出した硬貨をいくつか取り出す。

「……こんなに早く、こいつを使うことになるとは思わなかったなあ……」

 とはいえ、高額な商品が捌けること自体は、素直に歓迎したいところではある。

「ええっと……。

 MKBH、MKBH……と」

 完爾は各種術式が書いているノートを開いて目的のページを開き、そこにある術式を読みながら、掌の中の硬貨に魔力を流し込んでいく。

 完爾の手袋の中の硬貨が、ほどけて変形する。

「これを、五十回繰り返せ……っと」

 あとは放置しておいても、完爾の魔力を使用して術式が駆動し、金貨や銀貨を自動的に製品に変えてくれる。

 型番MKBHは、意外に複雑な形状だ。

 肘から手首までを細い鎖状の繊維ですっぽりと覆うような形状なのだが、よくみるとその編み目が竜のような怪物に立ち向かう騎士の模様になっている。

 これはユエミュレム姫の家に伝わるとかいうある英雄譚を編み込んだものだのだが、あまり女性向けの意匠ではないとして見本となる数個しか製造していなかった。

 どちらかというと、売り上げを期待するよりはこちらの技術力をアピールするための製品だ。

 それを、金素材と銀素材、五十個ずつとか……。

「なにが売れるのか、読めないもんだなあ……」

 というのが、完爾の感想だった。

 それと、

「……あるところにはあるもんだなあ……金」


 ものの十数分ほどで篠崎に注文された品を製造し終えると、その途端にまた電話が鳴った。

「はい。門脇……」

『あ、社長ー!』

 いきなり大声で叫ばれたので、完爾はとっさに受話器を耳から遠ざけた。

「えっと……宇津木さん……かな?」

『ああ、はい! そうです、宇津木です!

 すごいですよ、売り上げ。

 今浅草に来ているんですけど、外人さんの食いつきがよくてですね……』

 そういえば宇津木は、今日は浅草の店頭で実演販売をやってくるとかいっていた。

 なんでも、店に置いてくれと頼んだ某お店で、「そんなにいうのなら、お前が売って見ろ」みたいな売り言葉を買ってしまったそうで……。

「そうすると、追加注文ってことなのかな?」

 宇津木が話しはじめると長くなることはわかっていたので、完爾は先回りして結論を促す。

『そうです、そうです!

 社長、よくわかりましたねー!』

「それで、どの製品がいくつ欲しいの?

 型番と個数をいって」

 メモ用紙とボールペンを引き寄せながら、完爾は宇津木に確認した。

『はい。

 もういっていいですか?』

「はい、どうぞ」

『型番は、GHMLのCが二百の……』

 宇津木は、五千円以下の低価格帯の製品を何種類か、二百とか三百個ずつ追加注文した。

 単価が安くても、それだけの数が動けばこちらも助かる。

「……それだけの数になると在庫だけでは揃えられないと思うけど……。

 とりあえず、今ある分だけそっちに送って、残りは手配ができ次第、ってことでいいのかな?」

『あ、はい。

 よろしくお願いします』

 受話器を置いてから完爾はノートパソコンを操作して在庫を確認し、あるだけをすべて宇津木が担当している店に送るように操作する。

 ついでに、先ほどの篠崎から受けた分も含めて伝票と送り状を発行する。


 篠崎から要求された製品と伝票を持って作業所に入り、完爾は、

「休んでいるところ悪いんだけど」

 と、前置きした上で、宇津木の分を夕方までに、篠崎の分を明日の朝までに梱包してくれ、と頼んだ。

「昼の休憩が終わったら、お願いします」

「GHMLとかHCLEシリーズ、在庫がほとんどなくなっちゃいますね」

 伝票を見ながら、作業員の一人が指摘してきた。

「ええ、そうですね」

 完爾も、うなずく。

「できるだけ早いうちに補充します。

 まだ立ち上げたばかりで、どの製品がどれくらい動くのか読めないところがあって……」


 基本、急ぎでない限り、営業からの発注作業はネットのフォームで受けることにしているので、これ以降、完爾が営業からの電話を受けることはなかった。とはいえ、在庫の減り具合をパソコンの画面でチェックすると予想以上に早いペースで消化されている。

 これは、少々気を入れて製造数を増やしておかなければな、と、完爾は思った。

 今後もこのペースで商品が捌けていくのなら、この倉庫兼作業所だけはどうにも手狭になってくる。もう少し様子を見てから、別の場所にもう少し広めの作業所を確保した方がいいのか。ああ、また金がかかるな……。


 それから、梱包材や製品の原材料を注文したり、店内の様子や商品の動きをカメラ越しにチェックしたり、手持ちの材料で在庫が不足しそうな製品を作ったりしている間に時間はあっという間に過ぎていく。

 夕方から入ってくる学生バイトが作業所に入り、入れ替わりに主婦のパートが帰っていく。

 入り口の付近に山積みになっている、梱包されて発送の準備が終わった製品を宅配の業者が引き取り来る。今のところは、午前中に一回、夕方に一回の二回、引き取りに来ていた。

 完爾は動きの早い製品を社長室内で製造し、さりげなく何度か在庫が置いてあるスチール棚のところに補充しておいたのだが、それでも棚の中の製品は目に見えて減っているように見えた。

 ……製品の補充は、もう少し考えなくちゃあならないか……と、改めて、完爾は思う。

「社長、今、よろしいでしょうか?」

 そんなことを考えていると、店員の柏原に声をかけられた。

「ああ、はい。

 なんでしょうか?」

「いくつかの商品が店頭から消えそうなんで、早めに補充したいのですが……」

 こっちでも、か。

 カメラの映像ではそんなに盛況にも見えなかったのだが、商品自体は予想以上に動いていたらしい。

「……かなり多めに用意して置いたのだけどな……」

「そうですね。

 初日とはいえ、予想以上に買ってくださったもので……」

 柏原から品番が書かれたメモを受け取ると、完爾は白手袋をはめてスチール棚からいくつかの商品を取り出し、数を数えながら頑丈なプラスチックの箱に入れていく。

「とりあえず、裸のまんま渡す形になるけどいいかな?

 見てのとおり、作業所も手一杯なんで」

「そうですね。

 梱包は、バックヤードでこっちの子にやらせます」

 初日という事もあり、店員はかなり余裕を持って人数を増やしていた。

「ごめんなあ。

 まだまだ売れる数が読めなくてさあ。

 明日以降の分はもう少し余裕を見て用意するから」

「いえいえ」

 これ、重いから、とかいいながら、完爾がそのまま製品を店の裏口まで運びこみ、あとは店員たちに任せた。

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― 新着の感想 ―
製造販売会社なのですよね。地金を購入して加工しているならともかく。個人利用ならまだしも企業として異世界から持ち込んだものを利用するのはまずいと思うのですが。この話の描写以外の金属加工品は、きちんと地金…
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