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元勇者の嫁ですが、なにか?  作者: (=`ω´=)


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デートですが、なにか?

 その後、ショッピングモール内のパスタ屋で軽食を摂る。

 昼近くということもあって満席に近い状態だったが、待たずに座ることができた。

 ランチセットを二人前、適当に注文する。

「そういや、暁、あんまり泣かないな」

「最近は、だいぶ落ち着いていますね」

 買い物中も頻繁に授乳したりおしめを換えたりしていたのだが、むずがったり突如泣き出したりということはなかった。

 そのおかげで、完爾もバツの悪い思いをせずにすんでいるわけだであるが……。

「昼間はいつも、こんなもんなの?」

「そうですね。たいていは。

 落ち着かない日は、なかなか泣きやんでくれませんが」

 日によって、機嫌がいい日と悪い日があるらしい。

「でも、こちらに来たばかりの頃にと比べると、最近はかなり落ち着いています」

「……環境の変化に、慣れてきたのかなあ……」

「この子が成長して、心身が丈夫になってきたからかも知れません」

 その両方なんだろうな、と、完爾は思う。

 この短期間に、暁の体は一回りくらい大きくなっている気がした。

 ま、成長期だしな、と、完爾は思う。

 検診の結果、母子とも二健康体であると太鼓判をおされたばかりだ。

 それに、息災であるのなら、完爾としても文句をいうべき筋合いではない。

 そんな会話をしながらも、ユエミュレム姫はそそくさと重たい紙袋の中から漢和辞典を取り出してページを開いていた。

「それ、引き方、解るの?」

「漢和辞典というものの存在を知った時、ネットで検索しました」

 このお姫様は、文明の利器であるネットもそれなりに使いこなしはじめているのだ。

「いいですねえ、辞書。

 こういう書籍は、むこうではあまりありませんでした。

 書物そのものが貴重だったこともありますが、それ以上に学習全般が師弟制度ありきで発想されているので……」

 口伝に頼って知識を伝えること、が、デフォルトであったらしい。

 伝えるべき知識が専門的になればなるほど、そうした傾向が強くなる。

 ゆえに、人脈はそれだけで力となりうる。

 身分の高低が固定されがちになる要因は、こんなところにも起因しているではないか……と、ユエミュレム姫は完爾にそう語った。

「姉君やコレエダは、こちらも段々貧富の格差が大きくなりつつある……といっていましたが、わたくしの目には、むこうよりもずっと公平な社会に思えます。

 巷にありふれている書物とか、ネットとか……知識が広汎に公開されており、学びたければ誰にでも学べ機会が与えられている……というこちらの状態は、まともな学校一つないむこうでは、とうてい考えられません」

 なんだかんだいってこのユエも、王族というか為政者寄りの考え方をするよな、と、完爾は思った。


 食事を済ませた後、ユエミュレム姫にデザートだといってアイスクリームをねだられ、完爾もそれに応じる。

 この程度の出費でご機嫌を取れるのなら、安いものだという気もする。

 家事や子育て、それに勉強などで連日それなりに多忙に過ごしているユエミュレム姫は、意外に健啖家だった。

「お酒はともかく、紅茶とかコーヒーは、早く楽しみたいです」

 暁に授乳している間は、アルコールやカフェイン、刺激物を摂るのはよしておいた方がよいと千種から釘を刺されているのだった。

 ユエミュレム姫によると、こちらの食事は総じて味がよいそうだ。

 それに、種類が多種多様で飽きがこない、とも。

 酒が飲めないことにはあまり苦痛を感じないが、香りがよい飲料が禁じられているのは、ユエミュレム姫にとってはいささか隔靴掻痒のきらいがあるようだった。

「その分、甘いものに耽溺しているような気がするけど」

「それは、この世界が悪いのです。

 そこいらのコンビニであんなにおいしいものがいっぱいあるなんて……」

 コンビニ売りの菓子くらいでそんなに力説されてもなあ、と、完爾は思う。

 あまり、貧乏舌にならないといいが……。

「……暁がもう少し大きくなって、外出も今よりも自由にできるようになったら、ケーキの食べ歩きにでもいくかあ?

 あ、和菓子でもいいなあ」

「本当ですかっ!」

 完爾が提案すると、ユエミュレム姫は猛然と食いついてきた。


 その後、完爾を荷物持ちとして衣類をいくらか買い足し、ユエミュレム姫が小腹が空いたというので今度はクレープを食べさせた。

 あまり甘いものが続くのもきつかったので、ユエミュレム姫の分だけ買って、完爾は申し訳程度に、一口分だけ分けて貰う。

「……そんなによく入るよなあ……」

「甘いものは、別腹です」

 感嘆する完爾に対して、ユエミュレム姫はおぼえたての日本語の慣用句で答えてみせた。

 これが初体験だったクレープも、いたくお気に召したらしい。

「太るぞ」

「生憎、わたくしはいくら食べても肉がつかない体質ですので。

 ……それとも完爾は、もっとふくよかな方がお好みですか?」

「いや、今くらいがちょうどいい」

 完爾は、反射的に無難な答え方をする。

「で、この後はどうする?

 まだ、日が高いけど」

「でも……完爾も、荷物がいっぱいですよね?」

「あー……。

 かさばるっていえば、かさばっているけど……邪魔くさいだけで、この程度の重さでどうにかなるほど柔ではないぞ」

 千種のために買った靴、これが一番重たい書籍類、それに、衣類。

 なんだかんだで、完爾の両手はふさがっていた。

「無理をせずに、一度帰りましょう」

「帰るのはいいけど……一度?」

「欲しいものがあれば、また買いにくればいいのです」

 そんなことをいいながらも、ユエミュレム姫は帰り際に翔太へのみやげと称してケーキ屋に立ち寄ってテイクアウトを頼むのだった。


「……なんだ、早かったな」

 帰宅した完爾たちを出迎えた千種は、そんなことをいった。

「なんなら、泊まりでもよかったのに」

「なんだかんだで、荷物が増えたからな」

「ショウタ。ケーキ買ってきましたよー」

「あー。

 今食べさせると夕食が入らなくなるから、また後でなあ」

「はい。

 冷蔵庫、ですね?」

「そうそう。

 あ、でも今、空いているかなあ?」

「中にある材料で、先にオユウハンのシコミ、しますか?」

「うん。

 その辺は、任せる」

 あー……率先して家事をしてくる子がいてくれると楽だわー、とかいいながら、当の千種は缶ビール片手に撮りためた深夜アニメを消化しているのであった。

 完爾はユエミュレム姫を手伝うことにする。

「豚コマと野菜が結構残っているなあ。

 回鍋肉にでもするか?」

「ホイコーロー、ですか?」

「炒め物の一種だけど、炒める前に軽く肉を茹でておくんだ」

「お肉、硬くなりすぎませんか?」

「茹で加減にもよるけど、歯応えが出てくるくらい、かな?

 ま、実際に作ってみればわかる」

 などといいながら、豚コマを茹で、その間に野菜を洗って刻んでいく。

「合わせ調味料は……豆板醤に甜麺醤、醤油、酒、ニンニク……」

「生姜も入れましょう」

「入れるか」

 後は炒めるだけ、という段階まで作ってから、完爾とユエミュレム姫は冷蔵庫から冷えた麦茶を出して一息ついた。


「ん、でさ。

 義妹ちゃんの魔法を使ったお仕事の件なんだけど……」

 そうこうしているうちに、千種が切り出してくる。

「錬金術、だっけ?

 あれが一番手っ取り早いかなあ、と」

「やっぱりか。

 他の魔法は、術者が直接かける形になるからなあ」

「そうそ。

 そこいくと、あれは、本質的には製造業だからなあ。加工の課程に魔法を使っているだけで。

 それで、肝心の商品なんだけど、微細な加工も可能なのはいいとして……。

 最初のうちは貴金属を使わないで、鉄とかニッケル、なんだったらプラスチックでもいい。

 とにかく、ありふれた素材でいこう」

「それだと、安っぽくならないか?」

「安っぽくていいの。

 単価を下げて、そこいらの中高校生の小遣いでも買える値段に設定する。

 それで、売り上げをみながらデザインを洗練させていく。

 義妹ちゃんも、こっちでどういう意匠が受けるのか、まだまだわからないだろうしな。

 アクセサリーでもいいけど、まずはストラップからでいいんじゃないかな?」

「ストラップ、ですか?」

「こういう、携帯とかスマホにつける飾り」

 千種は、自分のスマホにつけているキャラクター物のストラップをユエミュレム姫に見せた。

「義妹ちゃん。

 例の魔法ってのは、同じ造形のものを多数、製造することはできるもんなの?」

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