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元勇者の嫁ですが、なにか?  作者: (=`ω´=)


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口座開設ですが、なにか?

 銀行に入った完爾は、まず周囲を見渡して口座開設窓口を見つけだし、そこの前にある番号札を取った。

 二分も待たずに完爾が取った番号札が呼ばれ、完爾は窓口の前に座る。

「普通口座を開設したい」

 と告げると、

「印鑑と身分証はご持参でしょうか?」

 と確認され、どちらもあると答えるとすぐに書類を手渡された。

 その書類に書き込んでいる間に、

「最初に、その口座にお入れする金額は……」

 と聞かれたので、

「二百万」

 と即答する。

「口座の使用目的は?」

「ええっと……どうも、近い将来自営みたいなことをやることになりそうなので、それの決済用に、かな?」

 完爾が書きあげた書類を手渡すと、身分証の提示を即される。

 国民健康保健書を渡すと、

「お客様。

 顔が確認できない身分証ですと……」

「口座、作れませんか?」

「いえ、口座は作れますし、通帳もその場で手渡しが可能ですが、キャッシュカードの方は住所の方に送付させていただく形となります」

 それでもよろしいでしょうか? と、確認されたので、

「それでも構いません」

 と答える。

 昨日と今日でかなり目減りしたが、口座に入れる二百万円を差し引いても完爾の手元にはまだ数十万円の現金が残されている。

 すぐにキャッシュカードが必要となる場面はないだろう。

「……はい。

 よろしいようですね」

 書類を確認した銀行員がそういったので、完爾は二百万円が入った白封筒を手渡した。

「確認させていただきます。

 ……二百万円ちょうど、ですね。

 それでは、今から通帳をお持ちしますのでそちらのシートでもうしばらくお待ちください」

 数分後、書類の控えと粗品、通帳などを手にした完爾は、銀行を出る。


「あとは……ああ、実印、ってのを作らないといけないんだったな。

 それと、ユエのドリルか……」

 銀行を出た完爾は、家路を急ぎながらそんなことを呟く。

「……いったん、家に帰るか。

 腹減ったし、別に急ぎということでもないし……」

 銀行から家まで徒歩でも十分とかからない距離だった。

 途中でコンビニに寄って、適当に菓子をいくつか買った。


 帰宅すると、ユエミュレム姫が食事もせずに待っていたのというので、完爾はすぐにキッチンへと向かう。

 冷凍してあったご飯をレンジで解凍し、ストックしてあっただし汁を鍋で暖めた。

 暖めたご飯の上に余り物の総菜や漬け物を適当に散らし、だし汁をぶっかけて、音をたててそれを啜る。

 ユエミュレム姫も、完爾の真似をして音をたてて啜りはじめた。

「カンジ。

 このお料理はなんといいますか?」

 手抜きな昼食を食べていると、ユエミュレム姫が訊ねてくる。

「料理なんて上等なものじゃないよ。

 これは、だし茶漬けだ。お茶で作れば、お茶漬け。

 この手のぶっかけ飯は、基本的にあまり上品なものではないとされているから、お客さんには出せない。

 だけど、単純でうまい」

「確かに、簡単で美味しいです」

 なんだかんで、こっちの生活に順応するのはやいよなあ、と、完爾は思った。


 食事の後、完爾は千種と橋田氏宛に、メールで作ったばかりの口座番号を報せる。

 当面、クシナダグループと完爾の連絡窓口は橋田氏ということになったので、名刺の裏にアドレスを書いて貰っていたのだった。

 例の硬貨の賃貸料は、毎月の締め日に完爾の口座に振り込まれることになっていた。


 そうこうするうちに、「やちよさん」に連れられた翔太が帰宅する。「やちよさん」とはまともに顔を合わせたことがない完爾が室内に招き入れると、「やちよさん」は口では一応遠慮しつつも、おずおずと中に入ってくる。

 ユエミュレム姫が別室で翔太の着替えを手伝っている間にお茶をいれ、翔太用にはホットミルクを暖めて御茶請けを出すと、「やちよさん」は怒濤のごとくユエミュレム姫や暁のことについて訊ねてきた。

 今までかなり気になってはいたものの、ユエミュレム姫とはまともな会話が成立せず、かといって千種はといえば、深夜まで帰宅しない多忙な生活。

 つまり、知りたいけど詳しく知ることができないというフラストレーションが、それなりに溜まっていたらしかった。

 要するに、「やちよさん」は、どこにでもいる「噂好きのおばさん」なのであったが、完爾は差し障りのないように一部捏造を交えてユエミュレム姫の身元について説明をしていく。

 ……どうも彼女、おれが記憶を失っている時に旅先で知り合った人らしくて、ええ。

 それで、おれを追いかけてわざわざ日本にまで来たというから、追い返すわけにもいかなくて。

 姉も許可してくれたんで、今はこうして一緒に暮らしている次第です、はい。

 うんぬん。

 事実関係だけを抜き出せば嘘ではないのだが、細部はほとんどその場の出任せで切り抜けるより他ない。

 ……彼女も、言葉とか日本の生活習慣に早くなじもうとしているところですし、今はまだまだあの子が小さすぎるからなかなか思うように外出できない状態ですが、そのうち普通に出歩けるようになると思いますので、もしよろしければ、その時はまはまたおつき合いください。

 どのみち、ユエミュレム姫と暁の存在について、いつかはご近所にも説明していかなければならないのだから、いい機会だともいえた。


 結局、「やちよさん」は、小一時間ほど完爾の想像力豊かな説明を聞いてから帰っていった。

「やちよさん」が完爾の説明をどのように受け止め、理解したのかはこの時点では不明だったが、仮に誤解をして周囲に触れ回られることがあったとしても、後で修正は可能であるわけだから、そんなに神経質になることもないだろう。

 翔太はといえば、周囲の大人たちのやり取りにはあまり関心を持たず、夢中になってスナック菓子を貪っていた。

 とりあえず、完爾は、

「夕飯が入らなくなるから、あんまり食い過ぎるんじゃないぞ」

 と釘を刺しておく。


 後かたづけをして、「そろそろ買い物にでもいくかな」、と思って外出の支度をしていた時、インターフォンが鳴った。

 出てみると、段ボール箱を抱えた宅配便で、なんのことはない、昨夜千種が注文したマンガ本だった。

 服の時と違い、着払いではなったので、そのままユエミュレム姫に渡す。

 開梱して中身がなにか判明すると、ユエミュレム姫よりも先に翔太の方が早く飛びついて、読みはじめた。

 全部で十数冊あり、表紙を見てずいぶんとシンプルな絵柄だなと感じたが、ぱらぱらと中身をみていくと背景とかはかなりしっかり書き込まれている。

 対象となる年齢層がよくわからないマンガだった。

 ま、いいか……と思いながら、完爾は「買い物にいって来る」と告げて外に出た。

 食材は昨日のうちに余裕を持って補充していたので、実印を作るための判子屋と、ユエミュレム姫用の教材を入手するための本屋へいくつもりだった。

 少し歩かなければならないが、駅前までいけばまともな店が見つかるだろう。


 駅前の商店街で、なんとか判子屋と大きめの本屋を見つけて、順番に買い物を済ませる。

 実印は、材料の選定からはじまって注文をし終えるまで、二十分弱の時間を必要とした。とはいっても、おおよそ店員に勧められるままにうなずき続けていているうちに終わってしまったが。

 これから篆刻するので、十日前後の時間が必要になる、と告げられたので、「できたらメールしてください」と伝えて料金を支払い、引き替えに受領書を受け取った。

 本屋へ入ってから店員に、「小学校低学年向けの、国語の問題集を探している」と声をかける。

 案内された売場でいくつかの問題集の中身を確認してから、二年生向けから五年生くらいまでの漢字ドリルを何冊か適当に選んで購入した。

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