表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元勇者の嫁ですが、なにか?  作者: (=`ω´=)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

169/170

里帰りですが、なにか?

 四人で麻生にある学校に転移すると、そこには何人かの制服警官がいた。

 どうやら、事後の調査のために集まってきていたらしい。

 今日はあちこちで騒ぎがあったというのに、なんだかんだいって日本のお巡りさんは勤勉だよなあ、と、完爾は思った。

 突如、転移魔法で出現した完爾たちの姿を確認すると、全員、こちらに注目してしばらく動作を凍りつかせていた。

 しかし、すぐに特徴のあるグラスホッパーの装備を身につけた靱野や完爾の姿を確認し、

「……こいつらか……」

 といった諦観混じりの表情になった。

 別に完爾たちが今日の騒動を引き起こしたわけではなく、実際にはその逆に、事態の収束のため尽力した側であるの。しかし、一連の騒ぎで警察が多忙になり、一般市民たちには「今回、警察はなんも役立っていない」と責められているということだった。

 実質的な立役者であった靱野や完爾にいい感情を持てないことは、別に責められるべきことでもないだろう、と、完爾は思う。


「あの……その兜、おれのなんで返して貰えませんかねえ」

「いえ、あの、これは証拠品なので、検証が終わるまではお預かりする決まりになっていまして……」

 この場に放置していたグラスホッパーの兜を巡って、そんなやりとりが発生していた。

 靱野がいうことには、この場に放置してきた装備類を回収したらそのまま「博士」を伴ってこの世界から離れるということであったが、この分だと難しいかなあ……と完爾が思ったそのとき、

「いや、それは確かにこいつのもんだ!」

 という声が聞こえてきた。

 振り返ると、そこに伏見警視が立っていた。

「いよいよ帰るのか、シナク」

「やあ、どうも」

 靱野はそういって伏見警視に軽く会釈をしてみせた。

「ご無沙汰しております」

「なに、最後に挨拶をして貰えるだけも僥倖というもんだ」

 そういって伏見警視は笑い声を立てた。

 伏見警視は靱野の兜を回収しようとしていた警官に声をかけて、

「おい!

 そいつはこいつに返してやれ!」

 と、少し大きな声を出した。

「いや、でも、規則が……」

 小声で抵抗しようとする警官に対し、伏見警視は、

「長年、治安維持に貢献してきたこの男への餞別だと思え。

 おれがすべて責任を取るから、いいから返してやれ」

 といいきった。

 しぶしぶ、といった様子で、その警官は靱野に兜を手渡す。

「どうも」

 靱野は兜を受け取つると、すぐにそれを被った。

 そして、

「こいつも回収させて貰っても……」

 と、二輪車種族を指さす。

「ああ、構わん」

 伏見警視が明言するのを待ってから、靱野は二輪車種族に近寄って、不思議な手真似をする。

 すると、二輪車種族が唐突にその場から姿を消した。

「これで、忘れ物はないな」

 靱野はひとり、そういってうんうんと頷くと、伏見警視にむき直り、

「それでは、おれはこの世界からおさらばさせて貰います!」

 と宣言して、日本の警察流の敬礼をした。

「うむ。

 長い間、ご苦労だった。

 ご協力を感謝する」

 伏見警視はそういって、返礼をした。

「門脇さんたちも、どうかお達者で」

 今度は完爾たちにむかって片手をあげた。

「ああ」

 完爾はそういったあと、

「今まで、いろいろとお世話になりました」

 と、軽く頭をさげた。

「靱野さんには、お世話になってばかりでした」

 ユエミュレム姫もそういって、会釈をする。

「なんのお返しできないのが心苦しいのですが……」

「いやなに。

 こっちも、なんだかんだいってこれからが大変でしょうし……」

 靱野は朗らかな口調でそう応じる。

「……そんな大変なとき、自分の都合で勝手に抜けるおれの方もたいがいに不義理な真似をしています。

 それで相殺ということにして置いてくださいな」

 そういいながら、靱野は、自分が蹴破ってきた窓の方へと歩み寄ってきた。

「それでは……旦那!

 これが最後の召還です!」

 靱野がそう叫ぶのと同時に、窓の外に雷鳴が轟く。

 音も凄かったが、一瞬、視界すべてが白く染まり、なにも見えなくなった。

「……落雷か!」

 伏見警視の叫ぶ声が聞こえる。

 数秒して、目が慣れて周囲の風景が見えるようになると、窓のすぐ外に奇怪な銀色の生物が浮かびあがっており、靱野の体はその生物の腕の中にあった。

「それ、「博士」さんも、こちらに!」

 靱野が、「博士」にむかって手をさしのべる。

「博士」は、無言のまま躊躇せずに窓の破損部から外へと身を踊らせ、銀色の龍人の胸元へと飛び込んでいった。

「……それでは、皆さん……」

 靱野の声が、都会の夜空に遠ざかっていく。

「……さよーならー!」


 こうして、靱野と「博士」は、この世界から姿を消した。


「……伏見警視」

 靱野を見送ったあと、完爾は伏見警視に声をかける。

「警察としては、おれを拘束して、調書とかを山ほど取りたいところなんでしょうが……」

「……そんなことをいいだすってことは、なんかまずい事情ができたのか?」

 伏見警視は、ギロリと目を剥いて完爾の顔を睨んだ。

「まずいというか、なんというか……」

 完爾は頭を掻く。

「……東京湾の方に、うちの奥さんの故郷への道ができちゃいましてね。

 外務省に連絡してきたら、今後の外交問題にも影響するからさっさと挨拶してこいといわれちゃいまして」

「……なにぃっ!」

 伏見警視は大声をあげた。

 東京湾で不可解な現象が観測されたのは知っていたが、そこまで細かい真相は知らなかったため、本気で驚いている。

「そりゃ……かなり大事じゃないか!」

 東京湾上に、魔法が普通に存在する国だか世界だかとの通行口が開通した、という。

 そんなことになったら……日本の外交だけでなく、下手をすれば世界のパワーバランスさえ、揺るがしかねない。

「と、いうことで、今日の始末はまた後日に……」

 小声でお伺いをたてる完爾に対し、

「ああ、そっちも、なんとか押さえておく!」

 伏見警視は、大声で応じた。

「どのみち、警視庁で上の省庁のごり押しは無視できん!」

「それではまた、落ち着いたら連絡をさしあげます」

 といって、完爾とユエミュレム姫もその場から姿を消した。


「……ちゃんと筋を通しておかないと、あとでこってり絞られそうだからなあ」

「コンサルタント」の事務所に出現するのと同時、完爾はそんなことを呟いた。

「なんだ。

 もう終わったのか?」

 カップラーメンを手にしていた千種が、突如出現した完爾たちに驚く様子も見せず、そんなことをいう。

「終わったこともあり、これからはじまることもあり……」

 完爾は天井を仰いだ。

「……ヘリが来てたから、東京湾での騒ぎはこっちでもある程度把握していると思う。

 あそこでいろいろあって、ユエの故郷の世界と行き来できるようになった」

 かなり言葉を節約して、完爾はついさっきの出来事を一気に説明した。

 千種も白山さんも事務員二人も、突然の説明にしばらく動きと思考を止めていた。

「それで、今からユエの家に挨拶に行こうと思うんだけど……。

 いや、今後の外交関係にも影響するからって、外務省からもせっつかれているし……」

 説明を続ける完爾。

 暁の体を抱きあげるユエミュレム姫。

「……はぁぁぁっ!」

 盛大に大声をあげる千種。

「なに、それぇっ!」


 そのあと、ばたばたと軽い準備をする。

 とはいっても、暁用の外出セットを持ち、千種が白山さんからタブレット端末を借りるだけだったが。

 千種は、

「今回のことも、ちゃんと記録しておいた方がいい」

 と主張して、録画用にそのタブレット末端を使用するつもりだった。

「警視庁の伏見警視は知っているし、その他のお役所にもはなしは通しています。

 どこからか問い合わせが来たら、そのまま正直に説明して貰っても問題はないかと思います」

 ユエミュレム姫は、白山さんにむかってそう説明した。

「申し訳ありませんが、もうしばらくお留守番の方をお願いします」

「それは構いませんが……」

 白山さんは心配そうな表情でユエミュレム姫の顔を見返す。

「……くれぐれも、無理はしないようにね」

「大丈夫ですよ」

 ユエミュレム姫は、そういって微笑んだ。

「ちょっと、里帰りしてくるだけですから」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ