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元勇者の嫁ですが、なにか?  作者: (=`ω´=)


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経営してますが、なにか? 

 いい機会だから、と完爾は普段の業務の合間を縫って今の体制の見直しをしてみた。

 店舗の売り上げはここのところほんの少し落ち気味だったが、今回の放映でかなり盛り返している。この状況がいつまで続くのかはわからないが、何らかのテコ入れ案は考えておいた方が良さそうだ。

 すぐに思いつくのは、直営店舗でしか売っていない限定販売商品を揃えることくらいか。せっかく雇ったデザイナー二人を活用することにも繋がるし、これはすぐにでも試してみよう。

 問屋へ卸す分や営業が取ってきたお店への直販分は、毎月だいたい前月比一割以上の比率で売り上げがあがっており、前月比二割以上の比率で売り上げがあがっている通販部門ともども会社の収益における大きな柱となっている。

 現状でもかなり好調であるわけだが、そのかわり商品管理や発送の部門がぼちぼち作業量的に飽和状態になりつつあり、こちらの方も改善していかないと注文が増えても手が回らず商機を逃がすような事態に陥ってしまいそうだった。

 やはり、人手を増やした方がよさそうだな……と判断した完爾は、店舗から少し離れた場所にある倉庫件発送所での作業比率を増やすことを前提としてどれくらいの人数を入れられるものか、検証を開始した。

 店舗裏の発送所は、駅前という場所柄もあってあまり遅くまで音が出る作業はできないのだが、倉庫件発送所の方は周囲も似たような倉庫や町工場、あるいは農地ばかりであり、最悪、夜通しの作業さえ可能な環境であった。その場所をおさえるときに、その点は不動産屋にも確認していた。

 いきなり終夜作業というのも厳しいだろうから、夕方から夜にかけてのシフトを設定した場合、何人くらいの人員が作業が可能かをざっとシミュレートして、時給やだいたいの作業量なども計算してみる。

 概算が出たら、

「しばらくはこれでいってみようか」

 とか呟いて、その構想案をメールに添付して事務所に送っておいた。

 従業員のシフトその他の管理業務はもうかなり以前から事務所に一任しているので、今回の増員についても募集から面接、採用まで事務所の連中に任せてみるつもりだった。

 次に店の方のレジ情報をチェックして、忙しい、つまり人手がいる曜日や時間帯をみて、どれくらいの人手が必要なのか、ざっと計算をしてみる。

 これについては実際に店に出ている者にしかわからない事情もあるだろうから、こちらの腹案を店員たちに見せて意見を求めた上で、何人くらい人を増やすべきか、具体的な数字を出すつもりだった。


 こうした経営者としての仕事の他に、テレビ放映の影響で通常より割り増しとなった売り上げに対応すべく、商品の製造業務も行わなければならない。

 いや、時間的な比率でいうと、製造業務の合間に経営業務をやっているような感じになるわけだが、とにかく完爾にとっても他の従業員にとっても多忙な日々がしばらく続いた。

 新しい求人についても以前、お世話になった求人誌に頼むと、すぐに人が集まってくる。新人の教育については古くからいる従業員たちに一任し、完爾自身はひたすら商品を製造することに専念した。

 テレビ放映の影響で、ここ数日、売りあげがかなりあがっている。おそらく一時的な現象だろうし、この調子がいつまで続くのかはわからないが、今のうちに売れるだけ売っておきたいとという目論見もあった。

 そんな多忙の中、

「仕事中でもいいから」

 と完爾の魔法を実地に見たいという学者たちが観測機材を持ってやってくるようになった。

 国内の大学研究室とかが多かったが、要は、筑波でやった内容とほとんど同じことを繰り返してやって欲しい、ということらしい。

 完爾の方もインチキ呼ばわりされるのも癪だったし、一応、協力するつもりはあったので、

「見ての通り、忙しい身なので、あまりお構いもできませんが」

 と断った上で、電極だのヘッドギアなどをつけていつものように仕事を行う。

 そうした研究者たちは、だいたい半日もデータを採取すると満足して帰って行った。

 そのうち、国内の研究期間だけではなく、海外からもそんな人たちがやってくるようになり、完爾としては同じように丁重に対応し、協力しておいた。

 そうした海外の研究者たちの中には通訳を連れて来てなかった猛者もいたが、そうしたときは「コンサルタント」の事務員を呼んで意志の疎通を図ったりもした。この場合、通訳役をしてくれた人にあとで完爾の方から謝礼を渡している。通常の業務以外の用事をいいつけているのだから別に報酬を払うのが当然だ、というのが完爾の考え方だった。

 そうした報酬も、研究者側から貰える謝礼から出しているわけだが。


 立ちあげたばかりの「コンサルタント」の事務所は、そうした研究者からの申し込みについても対応して貰っていた。

 希望する時期を聞いて、完爾の都合を確認してから具体的な日時を設定する。その他、答えられる範囲内で研究者側の問い合わせに答えるなど、子細な用事はそれなりに出てきていた。

 日が経つにつれ、テレビ放映の影響による問い合わせは格段に減ってきていたが、代わりに、そうしたきちんと対応する必要がある問い合わせが増えてきて、「コンサルタント」の事務所もそれなりに仕事が増えてきている。

 今すぐとはいわないが、長期的には、魔法の普及を事業化するつもりであることも事務員たちには告げていたので、事務員たちは自主的にエリリスタル王国語の学習もしているようだった。


 そうこうしているうちに、千種が、

「よさそうな人から色よい返事を貰えた」

 といってきた。

 以前いっていた、長期的に魔法関係の事業を主導してくれそうな人材のことである。

 なんでも、大学のときの千種の後輩だそうだ。

「いつからでも働けるそうだけど……面接、してみるか?」

「するよ。

 するしかないだろう」

 完爾は即答し、ユエミュレム姫と予定を合わせて面接を行うことにした。

 かなり重要な役割になるはずなので、完爾よりは人を見る目が確かなユエミュレム姫にも立ち会って貰うことにした。

 その前に、千種が預かってきた履歴書やら職務経歴書などに目を通すわけだが……。

「……ねーちゃんと同じ大学でているんだから、学歴には問題ないだろうとは思ったけど……」

 旧帝大を卒業後、外資系の投資銀行に十年以上勤務し、出産を機に退職。

 それから今まで主婦業と子育てに専念していたそうだが、子どもが大きくなったので再び働きに出たいと思っていたところ、千種に声をかけられたそうだ。

 会社勤めをしていたときも総合職としてバリバリ働いていて高給を得ていたようで、いわゆるキャリアウーマンなのであった。

 予想以上にハイスペックというか……。

「……立派すぎるな」

 というのが、率直な完爾の感想だった。

「第一、うちではそんなに高給、払えないし」

「その辺は了解しているから」

 千種は、あっさりとそういった。

「その代わり、魔法普及のための会社とか立ちあげるときは、ストックオプションとかで株をいくらか分けてあげてくれ」

 ストックオプションとは、会社の株を指定した金額で買い取ることができる権利で、ベンチャー企業などが役員報酬として用意することが多い。自分が関わっている会社がよい業績を残せば残すほど株価もあがるため、その権利を持つ人たちの仕事に対するモチベーションもあがる。

 千種から説明を聞いた上で、その人が魔法の普及事業に対して将来性を感じた、ということなのだろう。

「出産とか育児で一度職場を離れちゃうと、また働きに出るのは難しいからな。

 どうしても、以前勤めていたところよりも条件が悪いところになりがちだし」

 千種は、そんな風に説明した。

「この白山さんなんかは、お金はもう十分稼いでいるから、それよりももっとやりがいのある仕事が欲しいというタイプだな」

 貯蓄もあるし、旦那さんも働いているから経済的にはまるで不自由していない。

 仕事をしていない期間も、株とかに投資して、かなり儲けていたらしい。

 それを聞いて、

「やっぱりハイスペックだな」

 と、完爾は思った。


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