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元勇者の嫁ですが、なにか?  作者: (=`ω´=)


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放映前後ですが、なにか?

 新しい窓口を作るといってもすぐに形になるわけでもなく、とりあえず会社設立時に世話になった不動産屋に頼んで事務所として使用できる適当な物件を探して貰うことにした。

 いきなり新会社を作るつもりもなかったから、とりあえずは感じが最初に作ったペーパーカンパニーである「門脇コンサルタント」の事務所ということにして、今後、魔法関係の交渉は一度、そっちを通して貰うことにする。実際、魔法関係の業務はだいたいこの「コンサルタント」名義で受け、報酬もその会社名義の講座に振り込んで貰っている。

 事務所こそ構えていなかったものの、この「コンサルタント」の方もそれなりの収入源として機能していたのだった。

 店舗の近く、つまり駅前からさほど離れていない場所に2DKの事務所として使用可の賃貸マンションが空いていたのでそこに契約し、必要な什器や事務用品類なども揃え、新たに固定電話も契約する。

 今働いている事務員を派遣して貰っている会社にも連絡をして簡単に仕事内容を説明し、あと二名の派遣社員を追加で頼むことにした。最初の仕事は電話の対応がほとんどになるはずだから、とりはあえずそれで間に合うだろう。

 ……などという手配を整えるのに、一週間ほどかかった。

 基本的に以前やったことの繰り返しではあったので多少は手際がよくなっていたが、普段の業務と平行してだったので、スケジュールの調整が少し難航した。

 最近では、かえって従業員たちの方が、日中不定期に姿を消す完爾の方に慣れてきたような感もある。現在では在庫の補充以外の業務は完爾抜きでも回るようになっていたため、そこさえ押さえておけば自由にできる時間はそれなりに捻出できた。

 せいぜい、

「社長。

 これ以上、手を広げるんですか?」

「いや、そういうわけ……に、なるのかな?

 まあ、これも必要なことだから。

 例のあれだよ。

 この間取材に来てた番組が放映される前に、そっち専用の窓口を作っておこうってだけのことで……」

 などという会話をする程度だった。

 詮索好きの従業員はそれなりにいるのだが、あまり社交的な性格ではない完爾はただでさえ口が重い。なににかの拍子に必要以上に口を滑らせる、ということもなかった。


 人材派遣会社から来た送られてきた二名には、まず口頭で簡単に業務内容について説明したあと、取材クルーから送られてきたDVDを観せて、

「この番組が放映されたら、それなりに問い合わせが来ると思うから、放映日までに、それに対応するためのマニュアルを作成しておいて」

 と、指示をしておく。

 自分たちの業務マニュアルを作るのが最初の仕事、というわけである。

 むろん、取材クルーやその他の関係各所にも、この新しい窓口のことは通達済みだった。


 対応マニュアル、といっても、判断が難しい部分に関しては、

「折り返しご連絡をさしあげます」

 と保留しておいて完爾の判断にまかせる。

 その他、マスコミの取材などは基本的にシャットアウト。

 冷やかしやいたずらはその場の判断で……といった具合なので、普通に受け答えができる人なら難なくこなせる程度の内容になった。

 ちなみに、派遣会社に頼む際、「日常会話程度の英語も使用可能な人を」とオーダーしておいたので、海外からの問い合わせにもある程度は対応できるはずだった。


「うちの奥さんにもそのうち紹介をする機会があると思うけど……まずは、なにか質問はある?」

 一通り、説明すべきことを説明したあと、そう水をむけてみると、二人の事務員は競うようにして手を挙げて、完爾を質問攻めにした。

 しまいには、その場で見せることができる簡単な魔法まで何度か披露する羽目になり、仕事初日の説明会は大幅に予定時間をオーバーして終了した。


 そんなことをやっているうちにすぐに時間は過ぎ、例のドキュメンタリー番組が放映されることになった。

 まず日本で、四十五分番組としてなかり遅い時間に放映され、数日遅れてイギリスでも放映されるそうだったが、放映時間中、完爾自身は淡々と在庫の補充作業をしていたし、それが終わったら帰宅して普段と変わりなく過ごした。

 番組については事前にチェックしているし、内容を知っているので今さらリアルタイムで観る必要も感じなかったのだ。


 翌日、いつものように出社して店の周辺を掃除し、連絡事項などをチェックなど、朝の日課を一通り終わらせてから一息ついていると、会社の固定電話が鳴った。

 新たに開設した「コンサルタント」の事務所からだった。

「……しゃちょー。

 留守録がいっぱいの上、今のひっきりなしに鳴ってて手が離せないんですけどー!」

「なんだ、ずいぶんと早く出社したんだな」

 完爾は、ゆっくりとした口調で答える。

「問い合わせが多くなるのはせいぜい数日だし、大半はそのまま無視してもいいような内容だ。

 二人で力をあわせて、自分のペースで片づけていってくれ。

 他に急ぎの仕事があるわけでもなし、時間をかけてゆっくりと片づけていってくれ。

 あとで様子を見にいくから」

 完爾にしてみれば、実のところ、こうした反応もある程度予想はしていたりする。

 

 従業員が出勤してくると、今度は口々に、

「テレビ観ましたよー」

 的なことをいわれる。

 彼らも取材された側なので、放映日時については完爾から事前に伝えてあった。

 しばらくは、挨拶代わりに話題にされるのかなー、とか思いながら、完爾は適当に返事をしておいた。


 通販部門をチェックすると、注文数が平均の三割り増し以上になっていたので、あわてて商品の素材を多めに発注しておく。

 番組の影響を見込んでそれなりに在庫を多めにしておいたのだが、この分だとそれもすぐに捌けてしまいそうだった。

 

 店の方にはというと、開店前から行列ができていた。

 これほど盛況になるのは、店を立ち上げた前後以来だろうか。

 もちろん、店で売っている商品に興味を持って、ということではなく、テレビの影響だろう。

 行列に並んでいる人たちも、普段の客層とはちょっと違って、男性客の比率が多くなっている気がする。

 店員が揃った時点で、

「行列ができているので、いつもの開店時間より少し早いですが、開けちゃっていいですか?」

 といわれたので、完爾は二つ返事で頷いた。

 そんなに格式がある店でもないし、この行列が早めに解消できるのなら、それぐらいの融通は利かせるべきだろう。


「こりゃあ、しばらくは忙しくなりそうだなあ」

 とか思いながら、完爾はもう一度素材の追加注文を行った。


 そこから先は、店舗の方も配送部門も、結構な戦場となった。


「……こりゃあ、臨時のバイトとか増やした方がいいかなあ」

 作業の合間に完爾がそう呟くと、バックヤードで休憩していた店員が耳聡くその呟きを拾って、

「店員ももっと増やしてくださいっ!」

 といってきた。

 なかなか実感と悲痛な響きが籠もっていた叫びだった。

「……考えておくよ」

 この好況がどれくらい続くのかはわからないが、この仕事をはじめてからそれなりに経っているし、追加の人を少し入れても十分にやっていけるだけの余裕は十分にあるのだった。


 一度、材料が品切れになったのを機に完爾は外に出てドラッグストアでドリンク剤を多めに買い、コンサルタントの事務所の様子を見に行った。

「……どうですか、こっちの様子は?」

 完爾が事務所に入り、そういうと、

「どうもこうも……」

 事務員の娘たちは口をそろえて、

「あまりにも問い合わせ件数が多すぎて、二人では間に合いません」

 といった意味のことをいった。

 二人とも、以前に顔を合わせたときと比べると、かなり憔悴した顔つきになっていた。

 完爾は差し入れのドリンク剤を手渡しながら、

「でも、こっちの問い合わせは、火急の用件ってのがほとんどないからなあ」

 と、のんびりとした口調でいう。

「そんだけ問い合わせがあって、おれに報告する必要があるのは何件くらいあった?」

「……ええっと……。

 八件ほど、ですね。

 ほとんど、冷やかしやいたずら目的で……」

「だろう?

 だから、処理が追いつかなくてもそんなに気に病むことはないよ。

 もっと気楽にやっていこう」

 そういいながら、完爾はその八件の内容についてチェックをする。

 全国紙の新聞社からの取材依頼と、民放のテレビ局からの取材依頼……など。

「基本的に、マスメディアからの取材依頼は一律、断っちゃっていいから。

 それと、定時になったら電話を留守録にして、すぐに帰っちゃって」


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