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元勇者の嫁ですが、なにか?  作者: (=`ω´=)


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予兆ですが、なにか?

 取材班クルーは牧村研究室へも訪れてかなり突っ込んだ取材をしていったそうだ。完爾はユエミュレム姫経由でそのことを伝えられた。

 それだけではなく、以前、公開実験を主催したクシナダグループや自衛隊にまで取材を敢行し、それなりに裏も取っているらしい。

 完爾としては「ずいぶん細かいところまで取材するのだな」、とは思ったが、魔法が普及した未来のことまで想定し、現時点での詳細なアーカーブを遺しておくという気概を持っていると考えれば、半端な内容にしたくはない、という気持ちも理解できる。

 ともあれ、それは取材クルーの態度をみて完爾が勝手に「そうなのではないか」、と想像していることででしかなかった。本当のところは、実際に番組が完成するまでよくわからない。

 取材陣が真摯な態度で臨んでいるのは理解できるので、完爾としては彼らの判断に委ねて今の時点で子細なことは訊ねず完成を待ってみようかな、という気分になっていた。


 取材クルーが完爾の身の回りに出没し、仕事場にも出入りして邪魔にならないように縮こまりながらカメラを回しはじめてから十日あまりが過ぎ、完爾の生活自体はあまりかわらなかったが、ユエミュレム姫の方は暁を一時保育で預けて日中、牧村研究室へ行く日が多くなってきた。

 なにをするにせよ、ビデオチャットよりも実際に対面した方がはなしの進行が早く、時期的なことを考えてもそろそろ急がないと春からの語学講座開講に間に合わない時期になってきた。

 テキスト類などはなんとか急ぎ用意したそうだが、牧村准教授にいわせると、具体的なカリキュラムや語彙、文法のサンプル数が全般に足りず、内容的にも練り込みが不足しているという。

 ここまでいくと完爾自身には理解できない専門的な領分になるようだが、とにかく、ユエミュレム姫はユエミュレム姫でぼちぼち多忙になってきているようだった。


 ユエミュレム姫が外出する日は、かなり遅くまで大人が揃って帰宅しなくなるので、以前から千種が懇意にしていたシッターさんを頼んで留守を守って貰うことにした。シッターさん、と呼んではいるが、実際の仕事は暁と翔太の世話と、それに家政婦の仕事を兼ねているわけだが。

 保育士の資格も持っているとかいうその中年女性は千種とも古くからの知り合いであり、信頼に値する……と、聞かされたので、完爾とユエミュレム姫も詳しいことは聞かずにそのままお任せして暁を任せることにした。

 彼女の仕事は、昼間、翔太と暁を保育園から引き取り、自宅で二人の面倒をみつつ、翔太に夕食を与えて就寝さえ、完爾たちのうちの誰かが帰宅するまで留守番をする、というものになった。

 翔太や暁の食事は門脇家の大人があらかじめ冷蔵庫内に用意したものを暖めるだけであり、ときには、洗濯物の取り込みなどの簡単な家事もやって貰った。

 完爾とユエミュレム姫、それに千種と、家内の大人たちが揃って多忙になれば、家事などもどんどん人任せにしなければやっていけないのだろうな、と、完爾も納得はしている。


 完爾、ユエミュレム姫、それに千種とも帰宅する時間がバラバラな日は、実際に三人が顔を合わせるのは一日に一度、朝食の席だけ、ということも珍しくはなくなった。

 ユエミュレム姫は外出しない日に家事をまとめておこなっているので、一日家にいる日でもそれなりに忙しないらしく、それ以上に、城南大学まで片道一時間半以上をかけて通勤し、長時間、多くの人々と専門知識を含んだ議論や情報交換を行うのは予想以上に心身を疲弊させるらしく、流石に以前よりも疲れて見えることが多くなった。

 また実際、睡眠時間も、以前よりも確実に延びている。

 以前なら、どんなに帰りが遅くなろうが、完爾が帰宅するのに時間に合わせて起きてきたものだが、最近ではそれができなくなっていた。

 完爾としては、そうした事情も十分に理解しているのでそのまま寝かせておいてあげるわけだが、本音をいえば同居しながらも実際に顔を合わせて会話をする時間が着実に減っているのが寂しかった。


 実際に顔を合わせる機会が以前よりも少なくなったといっても、会話や情報交換が途絶えたわけではない。

 昼間でも仕事中でも、伝えるべき情報が発生すればすぐにメールなどで周知し合っていた。

 完爾とユエミュレム姫はいうまでもないが、それに千種も、以前と同じく完爾たちのよい相談相手であることには変わりなく、なにかあればすぐに報せあって、連絡を密に取り合っている。

 むしろ、連絡の主体が顔を合わせての対話からメールに移行してからの方が、少し前よりもやり取りする情報量は増えてきたような気がした。

 特に英語に堪能な千種からのurlアドレスつきのメールは情報量が多く、元情報が英語であることも手伝って、完爾が仕事の合間にチェックしきれないくらいの質と量があった。

 一応、短い概要は日本語で添えられているのだが、詳しい内容を知ろうとすれば、自然と原文にあたる必要が出てくる。完爾の英語知識は中学卒業レベルで止まっている。ので、だいたいネット上の自動翻訳サービスとか利用しつつ、四苦八苦しながら解読する必要がでてくる。

 たいてい、その解読の途中でユエミュレム姫から、

「これは、しかじかということですね」

 的な意見が送付されてきて、完爾としても、

「ああ、そういうことか」

 と腑に落ちるわけだが。


 魔法に関する海外の反応は、不穏なものも穏当なものも両方あるわけだが、情報量ということに注目すれば、飛躍的に多くなってきている。

 日本政府としては、「魔法」という言葉をあえて使用せず、今の時点ではあくまで「エリリスタル王国語」関連の公式発表を何度かした程度なのだが、その公式発表について勝手に憶測を巡らせたり、考察したり……といった内容の記事が増えて来ていた。

 純粋に未知の言語としてエリリスタル王国語を考察している記事も増えてきているのだが、それ以上に、その背後にあるはずの「魔法」というものについて、様々な地域で好き勝手なことがいわれはじめているようだ。

 完爾たちが発している公式な情報が極端に少ない現在の状況では、まあ仕方がないかな……と、思わないでもない。無責任な言説のほとんどは、正式な情報が流通しはじめれば自然と少なくなるだろう、と、完爾は楽観することにした。


 しかし、そこいらのイエロージャーナリズムや素人ブロガーがとやかくいうのはわかるが、普段真面目な口調で政治とか経済とかを論じているクオリティペーパーや、果ては、各国の政府関係者までもが真面目な論調を崩さないまま、日本だけが魔法を独占するのは傲慢だ神に対する冒涜だうんぬんといいたてている様子も、壮観といえば壮観ではあった。

 舞台裏を知っている、それどころか当事者である完爾としては、失笑しか浮かばなかったが。

 とにかく、なぜかこの頃から魔法に関しての言説が、幾何学級数的に増えはじめていた。

 信仰とか宗教とかのバイアスがある程度あったとしても、これはちょっと異常なんじゃないのか……と完爾が思うくらいの反響が、海外ではあった。

 現在進行形で、増え続けている。

 それは海外での方が盛んであり、むしろ国内では、注目する人も論じる人もほとんどいなかった。

 そのおかげで、完爾たち門脇家の周辺は以前とあまり変わらない平穏さを保っているので、ありがたくはあったが。


 多少、厭な予感がするからといっても仕事を放り出すわけにもいかず、なにか引っかかるものを感じつつも、完爾はいつもの通り、仕事とか家庭の雑事とか、日々の生活を滞りなく送ることに専念することにした。

 現在、取材されている番組が公表されれば、風向きもそれなりに変わるであろうし、今の時点で下手に騒ぎ立ててもあまりいい結果にはならないだろう。

 こういうときは、どっしりと構えていればいい……と、千種やユエミュレム姫から、同義異音にいいたてられたので、素直にそれに従うことにした。


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