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異世界の迷宮都市で治癒魔法使いやってます  作者: 幼馴じみ


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誘引。

 暑さと不快な汗で、目が覚めた。

 部屋はまだ薄暗い。

 随分と早くに目が覚めてしまったようだ。


「ご主人様、おはようございます」


「あぁ……おはよう」


 起き上がると、窓のそばにユエルが立っていた。

 こんな時間なのに起きている。

 どうやら、俺が眠っている間、本当にサキュバスの襲撃を警戒していたらしい。


「眠くないか?」


「先に仮眠をとっていたので、大丈夫です」


 おそらくユエルは、サキュバスが襲撃してくるなら、窓からだと思っているんだろう。

 窓をしっかりとしめ切って、窓の外に視線を向けている。

 でも、夏が近づいているせいか、空気が篭って流石に暑い。

 窓のそばまで近づいて、ユエルの頭を軽く撫でてから窓を開けた。


 窓の外を眺めると、まだ日もほとんど昇っていない。

 やはり、早く起きすぎた。

 昨日、聖女が朝に部屋を訪ねると言っていた気がするが、この時間では流石にまだ来ないだろう。


「ん……? あれは……」


 そうして窓の外を眺めていると、不意に人影を見つけた。

 その人影は、警備中らしき騎士数名と、なんらかの話をしているように見える。


 よく見てみると――女性だ。


 深い赤色が特徴的な、ツヤのある長い髪。

 胸元が大きく開いた露出度の高いドレスを着ている。

 そして巨乳。

 扇情的な雰囲気の、二十代前半の女性だ。


「……あの人、さっきからこのお屋敷に入ろうとしているみたいなんです。でも、騎士の人は中に入れたくないみたいで、ずっと口論してる声が聞こえてました」


 その美女を眺めていると、ユエルが教えてくれた。


 ……騎士が中に通さないということは、領主がこの屋敷に入れたくない人物ということだ。

 まぁおそらくは、反社会的な勢力に所属する人間とか、その関係者とか、そんなところなのだろう。

 ツンとした感じの反社会的なおっぱいをしているし、おそらくそうだ。


「わざわざこんな早朝になぁ……まぁ、俺には関係ないことか」


 巨乳美女のことは気になるが、首を突っ込んだら面倒なことになりそうな雰囲気がある。

 聖女が部屋に来るまで、聖書の続きでも読むことにしよう。


 そんなことを考えていると――不意に、美女と目が合った。

 そして、美女はパァッと表情を明るくすると、こちらに向かって手を振り始める。


「ご主人様、あの人、手を振ってます」


「そうだな」


 美女は、手を大きく振ってこちらにアピールしている。

 どうやら、俺に用があるらしい。

 でも、騎士と揉めている時点で、俺が行ったら面倒なことになるのは間違いない。

 ここは無視することにしよう。


「ご主人様、あの人、ドレスのおっぱいのあたりをぴらぴらさせてます」


「そうだな」


 巨乳の美女は、ドレスと肌の間にわざと隙間を作るように、ドレスをつまんだり離したりしている。

 暑いのかもしれない。

 ちょっと視線が吸い寄せられたが、でも、やはり行くのは駄目だ。

 俺は、この部屋で聖女が来るのを待たなければならない。


「ご主人様、あの人、ドレスのスカートのスリットから、足をチラチラさせてます」


「そうだな」


 美女は、スカートを引っ張って、スリットから生足を見せつけるように露出している。

 白い肌が眩しい。

 なんだか、意図的にやっているような感じだ。

 ……もしかしたら、あれは俺を誘い出そうとしているのかもしれない。


 でも、そうだとしたら、それは浅はかな試みだ。

 俺は、あの邪神の使徒サキュバスによる誘惑にも、首の皮一枚で耐え切った男。

 その俺が、ただのちょっとえっちな巨乳美女にそう簡単に誘い出されたりなんてするはずが……、


「ご、ご主人様。あの人、腕を組んで、胸を強調させながら……た、たぷたぷ揺らしています」


 震えが混じった、ユエルの声が聞こえた。


「そ、そうだな。たぷたぷだな」


 たぷたぷだった。

 美女は、その巨乳をたぷたぷさせていた。

 大きく開いたドレスの胸元から、揺れて波打つ胸がよく見える。

 たぷたぷ。

 たぷたぷしている。

 ドレスだから、下着をつけていないのかもしれない。

 すごくたぷたぷしている。


 視線が動かせない。

 サキュバスの時のような魔法が発動しているような気配は全くないのに、そのたぷたぷにどうしても吸い寄せられてしまう。

 ユエルも同じなようで、恐怖と悲しみを混ぜたような視線を、そこに向け続けている。


 これは駄目だ。

 簡単に誘い出されてしまう。

 屋敷の門まで行って、あのたぷたぷした巨乳を至近距離で見たくなってしまう。


 ――でも、俺にだって理性というものがある。

 ここでホイホイと行けば、ユエルにご主人様の人間性についての疑心を持たれかねない。

 なけなしの理性を振り絞り――俺は目を閉じることに成功した。


 視覚的な情報が遮断され、本能を理性が上回る。

 目に焼きついたたぷたぷが、次第に薄れぼやけていく。

 ……もう大丈夫だ。


 ――しかし。

 俺が目を閉じても、ユエルは目を閉じていなかった。


「あっ、あぁっ! あの人、おもむろにジャンプをし始めました! す……凄く揺れてますっ……ば、ばるんばるんです! ばるんばるんですご主人様!」


 ――ユエルが、唐突に驚愕の声を発した。


 よほどばるんばるんしているのか、もはや悲鳴に近い声音だ。

 そして俺とその衝撃的な光景を共有したいようで、気を引こうと服もくいくいと引っ張っている。


「す、すごい……ご主人様、すごいです……あ、あんなにばるんばるんして、おっぱいは痛くないんでしょうか……お、重くないんでしょうか……」


 ユエルは、おそらくそのばるんばるんな光景に夢中で、ご主人様がきつく目を閉じていることに気づいていないのだろう。

 なぜ閉じているのかにも気づいていなさそうだ。


「すごい……ばるんばるんです。ばるんばるん。ばるんばるんしてます。わ、私もいつかあれぐらいの大きさに……」


 悲しみ、羨望、畏怖、好奇心。

 複雑な感情が混ざり合ったユエルの声を通して、その光景がどれだけユエルにとって衝撃的だったのかが、否応なく伝わってくる。

 いつの間にか、俺はきつく閉じていたはずの目を開いていた。


 ……。

 …………。


「……ユエル、どうやらあいつは俺に用があるらしいな。サキュバスの復活なんていう一大事があったばかりだ。これだけしつこく俺を呼ぼうとするあたり、この街の未来を左右するような、重大な用件で訪ねてきた可能性も否定できない。ちょっと、下まで様子を見に行ってみるか」






「こ、これは聖人様……」


「せ、聖人様、なぜここに!?」


 ユエルと屋敷の門前に行くと、警備の騎士達が気づいて声をかけてきた。


「あぁ、なんだか揉めていたみたいだから、気になってな」


 そのまま、巨乳美女の前まで歩いていく。

 すると、巨乳美女は、ばるんばるんさせた胸が少し痛いのか、胸元を気にするような素振りを見せながら口を開いた。


「黒髪に、ダークエルフの奴隷。やはり、あなたがシキ様だったのですね。……必ず来ていただけると思っていました」


 そして、巨乳美女は、俺とそばに控えるユエルを見て微笑んだ。

 やはり俺に用があったらしい。


「あぁ、何か用なのか?」


「お初にお目にかかります。私、奴隷商人組合、組合長の娘、メルリアーナと申します。本日は、シキ様にご挨拶に参りました」


 目の前の美女が名乗り、深くお辞儀をした。

 奴隷商人組合長の娘。

 扱う商品はアレだが、一応、商人組合の長の娘なのか。

 案外、身元のしっかりした人物だった。


 ……でも、特に挨拶されるような理由は思い当たらない。

 奴隷商人の娘に、なぜあれ程熱烈にアピールしてまで俺と会う必要があるのだろうか。

 俺が困惑していると、


「お、おい、この場合どうすればいいんだ?」


「誰も通すなとは言われたが、まさか聖人様がここに来てしまうとは……。聖人様をお止めするべきだよな?」


「い、いや、聖人様は極度の女好きと聞く……昨日、聖人様の機嫌を損ねた騎士が減給になったって聞いたぞ」


「おいおい、本当かよ……」


 背後から、騎士達が小さい声で話し合う声が聞こえた。

 その処分を下したのは俺じゃない。

 でも、どうやら、突然現れた聖人という存在を、騎士は扱いあぐねているらしい。

 そうして騎士が俺への対応を決められずにいるうちに、目の前の美女、メルリアーナは話を進める。


「先代大司教のダルノー様には、我々奴隷商人組合は格別なご配慮をいただきまして……ひいては次期大司教候補であるシキ様にも、大司教となった暁には是非引き続き当組合にご配慮をいただきたいのです」


「……ご配慮?」


 よく意味がわからない。

 怪我をした奴隷をエクスヒールで優先的に治療してほしい、とかだろうか。

 俺が首を傾げると、メルリアーナと名乗った目の前の美女が、俺に向かって一歩近づいた。

 それから、握手を求めるかのように、俺の右手を取った。


「シキ様は女性がとてもお好きとのこと。また、奴隷の存在にも抵抗がないご様子。是非、私どもと共存共栄の関係を築いていただければと思いまして」


 ――メルリアーナはそう言いながら、その巨乳に俺の手を導いた。

 俺の手を巨乳に添えさせながら、その上からメルリアーナは自分の手を乗せる。

 そして、まるで自分で自分の胸を揉むかのように、手を動かし始めた。

 もちろん、その手と胸の間には、俺の手が入っている。


「んっ……当組合は、シキ様と是非懇意な関係を築きたいと思っております。我々であれば、世界中から、様々な種族の美女をシキ様へ優先的に融通することもできるでしょう」


 メルリアーナは、演技がかった荒い息をさせながら、そんなことを言ってきた。


 メルリアーナは、俺の手の上から手を乗せて、まだ強引に胸を揉ませてくる。

 そう、強引に大きな柔らかい胸を揉ませてくる。

 強引に、その薄い生地のドレス一枚しか阻むものの無い巨乳を揉ませてくる。

 実際に俺は手を動かしてはいないのに、まるで揉みしだいているかのような感覚。


 これはいけない。


 完全に術中にハマってしまった感じがする。

 そして、これは本当にやばい。

 頭の中が、急速にやわらかいで埋め尽くされていく。


「それに……もしシキ様が私をお望みであれば、なんなりとご命令を下さって構いませんよ? 聖人であり、次期大司教との呼び声も高いシキ様のためであれば、私はどんな命令にも従いましょう」


 甘い言葉を、耳元で囁かれる。

 その言葉で、理性と本能の均衡が完全に崩れた。


 懇意にしたくなる。

 なぜ唐突に胸を揉まされているのかはよくわからないが、目の前の巨乳美女と、すごく懇意にしたくなる。

 ……おそらく俺は、今、なにか「お願い」をされれば、この働かない頭で内容をろくに考えることもなく安請け合いしてしまうだろう。

 でも、それはわかっているのに、その理性は簡単に意識の中に溶けて消えていく。


「私は、シキ様のためであれば、なんでもいたします」


 ――そして。

 その言葉を聞いた一瞬、目の前の巨乳美女がエリスとダブった。


 ……昨日の記憶が蘇る。

 「なんでもする」その言葉をトリガーとして、あまり思い出さないようにしていたあの光景が、脳裏に再生された。

 そうだ、あのサキュバス戦の時、エリスがなんでもしてくれると言って、その後……、


 確かに目の前の巨乳美女もいいけれど、……エリスの胸元に顔を埋めていたあの時が、一番幸せだった気がする。

 一瞬だけ、頭が冷える。

 そして冷えた頭が考えたのは、ユエルがそばにいるということだった。


 ……ユエルに視線を向けてみる。


「……」


 無表情だ。

 無表情で、ユエルは目の前の美女の胸を揉む俺の手を見上げている。

 ハーレム宣言をしたせいか、いつものように涙目になったりはしていない。

 でもユエルは、至近距離から、無表情で美女の巨乳を揉みしだく俺の手を見ている。

 感情が読めない。


 ――ふと、大変なことに気づいた。

 ユエルがナイフを持っている。

 ギラギラと光を反射する抜き身の凶器を、ユエルが手に握っている。

 無表情で。


 ……いや、落ち着け。

 これはおそらくアレだ。

 俺が初めて見る相手と急接近したから、護衛として万一の事態にも即座に対応できるようにナイフを持っているだけだろう。

 でも、ここまで無表情のユエルが抜き身の刃物を持っていると、なんともいえない迫力がある。


 い、一応、このメルリアーナとかいう女から離れよう。

 きょ、教育にも悪いし。


「お、俺は女性が大好きなんて……そ、そ、そんなことはない。しょ、初対面でこういうことをされるのは、こ、困るな」


 そして、また接近されないように、断腸の思いで拒絶の言葉を吐いておく。

 すると、メルリアーナは、俺の背後に一瞬視線を向けた。


「あら、振られてしまいましたね。さて……本日はここで失礼いたします。是非、またお会いいたしましょう、シキ様」


 それから、深々とお辞儀をして、門の前から立ち去った。

 危ないところだったが、なんとか乗り切った。

 ……でも、最後の瞬間、メルリアーナは俺を見ていなかった気がする。


 背後にいる、なにかを見ていた。

 なにを見たんだろう。

 そして、振り向くと、





 そこには聖女がいた。

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