深夜の治療。
早く早く! と急かされながら、ルルカと夜の街を進む。
時間も時間なので、ルルカの宿に向かうのは俺とルルカの二人だけだ。
ルルカの話によれば、夕食を終えて装備の整備をしていると、フランとセラが突然高熱を出して倒れた、ということらしい。
治癒魔法をかけてもらいたいけれど、時間は既に夜、ほとんどの治療院が閉まっているから知り合いの俺を呼びに来たとのこと。
二人がほぼ同時に熱を出したというところが気になるが、理由に関しては心当たりが無いらしい。
夕食は三人同じ食事をとったということなので、何か悪いものを食べたというわけでもなさそうだ。
ルルカはピンピンしているわけだし。
そういえば昼間に、ルルカ達は依頼中に森の中で遭難しかけたとか言っていた。
多分、街に戻って溜まっていた疲労が出たとか、そんな感じだろう。
そしてしばらくして、ルルカ達の泊まる宿に辿り着いた。
迷宮に近すぎず遠すぎず、可もなく不可もなくといったごく普通の宿だ。
前に俺とユエルが泊まっていた宿よりは高そうではあるけれど。
そんな宿の中に入り、二階のとある部屋、鍵付きの扉をルルカが開ける。
そこそこ広い、ベッドの三つある部屋。
そのベッドには二人の女の子が寝かされていた。
たしか、金髪貧乳の方がフランで青髪巨乳の方がセラだ。
二人の顔は高熱のせいか紅潮し、肌には玉のような汗が浮かんでいる。
二人とも毛布は被っておらず、毛布はぐちゃっとベッドの隅によせられていた。
暑かったのだろうか。
服装は寝巻きではなく、普段着だ。
どうやらルルカは二人を介抱したり、着替えさせたりするよりも、俺を呼ぶことを優先したらしい。
呼吸を荒げ、辛そうに目を閉じている二人の姿は確かに辛そうだ。
しかし、なんというか、これは......。
「ねぇシキ、寝てるフランとセラを凝視するのは、やめて欲しいんだけど」
俺が二人を見ていると、ルルカがこんなことを言い出した。
そう、寝ているフランとセラの姿はなんというか、目に毒なのだ。
今は普段着ているような服だからちょっと気になるかなという程度だけれど、これが薄手の寝巻きなら、汗で濡れて肌に張り付いたりして、もっとあられもない感じになっていただろう。
もしかして、だからルルカは二人を寝巻きに着替えさせなかったのだろうか。
ルルカは、俺が治療にかこつけて二人に何かするんじゃないかと疑っていたのかもしれない。
失礼なことである。
「ルルカ、勘違いしないでくれよ。これは病状を観察しているだけだ」
「......観察?」
「あぁ、病気の治療法っていうのは、その病気によって違うんだよ。例えば体内に毒素が溜まってしまうような病気なら、ヒールだけじゃなくディスポイズンも必要になるだろ? フランとセラのことを考えれば、病気に合わせた対処こそが重要、だから、今しているような入念な観察が必要なんだ」
俺はルルカに向かって断言する。
二人が同時に病に倒れた、その理由が何なのかまだわかっていないのだ。
毒のあるものを食べた、ということならディスポイズンが必要だし、ただの疲労からくる高熱ならヒールで十分。
俺だって、下心だけで二人を見ていたわけじゃない。
魔法の使い分けが重要だからこそなのである。
まぁ、どうであれ最終的にはヒールとディスポイズン両方かけるんだけど。
俺にこの世界の病気の知識とか無いし。
「そ、そうなんだ。ごめんね、勘違いして。わざわざこんな時間に来てもらったのに。......でも、フランのスカートの裾とか、セラの胸元はあんまり見ないであげてね」
ルルカは半信半疑といった表情で、しかしそれでも俺に言葉の上では謝罪する。
釘も刺されたけど。
「わかればいいんだよ」
ルルカから視線を戻し、寝ている二人に目をやると、フランの短いスカートの裾からは汗に濡れた華奢な太ももがチラリと覗き、そして、セラの胸は浅い呼吸を繰り返し、ふるふると揺れていた。
俺が近づいても二人は特に反応を示さない。
眠っているのか朦朧としているだけなのかはわからないが、意識は無いようだ。
そして俺が早速治療に入ろうとすると――
「ねぇシキ、ちょっと待って。なんでセラの服のボタンに指をかけるの?」
――ルルカがストップをかけてきた。
もちろん理由はある。
「それはな、病気で体力が無い時は、胸元を緩めて呼吸をしやすくすることが大切だからだ」
「......そうなの?」
「あぁ、胸元をはだけさせれば呼吸は楽になるし、熱だって籠らなくなる。ほら、セラを見てみろよ。胸が服で圧迫されて、苦しそうだろ?」
「そ、そうなんだ、ごめんね、勘違いして。でもそれはしなくていいから、治癒魔法だけお願いね?」
少し安心したような、でも不安そうな、そんな表情をするルルカ。
きっと、本気で言っているのか、それとも嘘なのか、確信が持てないのだろう。
「あぁ、セラの病状をじっくりと、念入りに確認してからな」
俺の言葉を聞いて、ルルカが俺とセラの間に体を入れる。
いくらなんでも警戒しすぎだと思わないでもないけれど、それだけ仲間のことが大切なのかもしれない。
しかしこれでは治療すらできない。
仕方が無いので、逆側のベッドに寝ているフランに向き直る。
フラン。
そういえばこいつは、初対面からなかなか失礼なやつだった。
別にもう根に持ってはいないけれど、こうして顔を見ているとなんだかもやもやとしたものがこみあげてくる。
しかし、ルルカに治療を頼まれてこの宿まで足を運んでおいて、フランだけは治療しません、なんてことも言えないだろう。
俺も目の前の病人を放置するつもりは無いし。
そして、俺がフランの治療に入ろうとすると――
「......ねぇシキ、ちょっと待って。なんでフランのスカートをめくろうとしてるの?」
ルルカにストップをかけられた。
これにももちろん理由がある。
「このムカつく女のパンツを見ておいてやろうかと」
「は、離れて! フランから今すぐ離れて!」
「じょ、冗談だって、本気にするなよ」
「本気にしか見えないから心配なんだよ......」
ルルカが疲れたような顔でため息をつく。
そんなに不安なら俺以外の治癒魔法使いを連れてくればよかったのに。
深夜だし、他に来てくれそうな知り合いが居なかったのかもしれないが。
しかし流石に冗談が過ぎただろうか。
さぁそろそろ真面目に治療をしよう、と考えたところで、ふと、ソレが目に入った。
「ん? なんだこれ......」
さっきめくろうとして摘んだせいか、少しだけめくれあがっているフランのスカート。
そこから覗くフランの内腿に気になるものを発見しスカートを持ち上げる。
気になるものとはパンツのことではない。
「あっ! めくった! 意識が無い女の子のスカートをめくった! シキ、最低、最低だよ!」
ルルカが喚いているが、俺はフランのピンク色のレースで飾られたパンツを見るためにスカートをめくったわけではない。
大義名分がある。
めくる必要があったのだ。
きっとルルカも許してくれる。
そして、俺はソレを指差しながら言う。
「いや、違うって。ルルカも見てみろよ、これ」
フランの内腿にある、明らかに自然にできたものではない、毒々しい紫色の発疹。
それが体の中心から広がるように、フランの太ももを冒していた。
「見てみろって......ってなにこれ!?」
ルルカはフランの太ももにある紫色の発疹を見て、丸見えになっているフランのパンツを隠すことも忘れて驚いている。
「こんな症状、今まで治療院でも見たこと無いな。多分、これが病気の元か何かじゃないか? ルルカ、ちょっとセラの方も脱がせてみてくれよ、もしかしたら同じ発疹があるかもしれない」
「う、うん、わかった」
俺の言葉に、ルルカはセラの服に手をかけて、そしてハッとしたような顔で俺を見る。
どうしたんだろうか。
「一度、部屋から出ていってくれるかな」
「お構いなく」
「出てって! お願いだから出てって!」
少し部屋の外で待ってから、部屋の中に戻ると、
「やっぱり、紫色の発疹があったよ」
セラの服の中を確認したらしいルルカが言った。
やはり、二人共通の症状だったらしい。
「何か心当たりはないのか? 森で遭難してそこらへんに生えてたキノコを食べたとかさ」
「た、食べてないよ。森の中で迷いはしたけどアイテムボックスにちゃんと食料は入ってたし。まぁ、私も調べてみるけど」
しかし、原因がわからない。
まぁ、この世界の病気の知識なんて俺はほとんど持っていない。
俺は一応、客が少ないといっても三ヶ月、エリスの治療院で治療をしていたから、メジャーな病気だけは知っているつもりだけれど、その知識はこの世界の一般人と同レベルだろう。
考えても仕方が無いか。
とりあえず、二人にヒールとディスポイズンをかけて治療をする。
そして穏やかな寝息をたてた眠り続けているフランのスカートをもう一度めく......ろうとしたところでルルカに睨まれたので、代わりに発疹が消えたことを確認してもらい、代金をもらって宿をあとにした。




