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古文】 真如朽ちせずあひ見つるかな」/
語釈】
※真如=仏教語で、永久不変の真理。
※朽ちせず=①腐らず。②衰えず。廃れず。③死なず。
※あひ見る=①一緒に見る。②対面する。再会する。③男女が会う。関係を結ぶ。
※かな=詠嘆の意。
※霊山の釈迦の御前に契りてし真如朽ちせずあひ見つるかな=前世、霊鷲山で釈迦の説法を聞いた時にした永遠不変の約束が廃れることなく、(あなたに)再びお会いできましたよ。【拾遺和歌集・巻二十・哀傷・一三四八番歌】
訳文】 永久不変の真理(というべき約束)が廃れずに(あなたと)再会したことだなあ」
古文】と詠み給ふ返しにも、南天竺より/
語釈】
※返し=①返事・返答。②返歌。③吹き返し・揺れ戻し。
※南天竺=古代の天竺(=インド)を五つに分けて五天竺という中の、最も南の地域。他に東天竺・西天竺・北天竺・中天竺がある。
※より始めて=最初として。はじめとして。第一のものとして。
訳文】とお詠みになる返歌にも、南方インドを
古文】始めて来れる婆羅門僧正も、
語釈】
※より始めて=最初として。はじめとして。第一のものとして。
※来れる=やってきた。
訳文】はじめとしてやってきた婆羅門僧正(である菩提僊那)も、
古文】「迦毘羅衛に昔契りしかひありて/
語釈】
※迦毘羅衛=迦毘羅衛のこと。釈迦の生誕地カピラバストゥの漢名。迦毘羅衛国、迦毘羅衛城とも呼ばれる。古代インドにあった国または首都の名で、今の、ネパール国のタライ地方チロラコートに当るという。「迦毘羅波蘇都」とも。
※昔=ずっと以前・かつて・昔。この場合は恐らく前世。実際に行基がカピラバストゥまで行ったことがあるという意味ではない。『拾遺和歌集』(巻二十・哀傷・一三四九番歌)ではこの部分が「ともに」となっている。
※契る=①約束する。②結婚する。
訳文】「(釈迦生誕の地である)カピラバストゥでかつて(あなたと)約束した甲斐があって
古文】 文殊の御顔あひ見つるかな」/
語釈】
※文殊=文殊師利菩薩の略。文殊菩薩とも。釈迦の左の脇侍(=脇に控えるもの)で、知恵を司る。ここでは行基のことを指す。
※あひ見る=①一緒に見る。②対面する。再会する。③男女が会う。関係を結ぶ。
※かな=詠嘆の意。
※迦毘羅衛に共に契りしかひありて文殊の御顔あひ見つるかな=カピラバストゥで一緒にあなたと約束したおかげで、文殊菩薩(の化身とも言うべきあなた)のお顔を拝見で来たなあ。【拾遺和歌集・巻二十・哀傷・一三四九番歌】
訳文】 文殊菩薩(の化身とも言うべきあなた)の御尊顔に再会したことだなあ」
古文】と詠み給ふも、和国に来れば相応/
語釈】
※和国=日本国。中国を意識してわが国を指す時に用いる。
※来れば=やってきたので。
※相応=相応しいこと。つり合うこと。相当。
訳文】と(天竺にはない文化であろう和歌を天竺人の菩提僊那が)お詠みになるのも、(わが)日本国にやってきたので(それに)相応
古文】の詞を先として、和歌を詠めり。/
語釈】
※詞=①ことば・言語。②(ことばによって表現された)和歌・文章・手紙など。③和歌や絵につけた散文で表現された部分。詞書など。平安時代には「ことのは」が上品で好ましいことばを意味するのに対して、「ことば」は単に口頭語を意味した。また、「ことのは」は歌語として和歌に用いられが、「ことば」は用いられなかった。
※先=先端。前方。第一。
訳文】の言葉を(使用することを)第一として、和歌を詠んでいる(と言える)。/
古文】すべて和国は神国なる故に、/
語釈】
※すべて=①全部合わせて・まとめて。②総じて・だいたい。③(下に打消の語を伴って)全く。いっさい。
※和国=日本国。
※神国=日本国。神が支配し守護する国の意。日本を神国と考える思想は鎌倉中期から広く行なわれた。
訳文】総じて(わが)日本国は「神が支配し守護する国」であるから、
古文】神明は殊に和歌をもてのみ、/
語釈】
※神明=①神。②天照大神。神明宮。
※殊に=とりわけ。特に。
※もて=①(手段・材料を示す)~でもって・~で・~(を)使って。②(動作のきっかけ・理由を示す)~から・~がもとで・~ゆえに。③(ある事柄を取り立てて示す)~(を)もって。
※のみ=だけ。ばかり。すっかりずっと。
訳文】神はとりわけ和歌を用いてだけ、
古文】多くは心ざしをもあらはし給ふも、/
語釈】
※心ざし=志。①かねてからの考え・意向。②愛情・好意・誠意。③お礼の贈り物・謝礼。④追善供養。
訳文】多く(の場合)は(神の御)意向をも(和歌で)表現なさるのも、




