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古文】風吹きて枝を鳴らすも「柯は歌なり」/
語釈】
※柯=枝の意。
※柯は歌なり=『法華玄賛摂釈』巻三「按釈名曰、人声曰歌、歌、柯也、以声吟詠有上下、如草木有柯葉」による。
※『法華玄賛摂釈』=『法華玄賛』の注釈書。
※『法華玄賛』=法相宗の立場から法華経を解釈したもの。法相宗の開祖基(632~682)が著した。
※法相宗=南都六宗(奈良時代の仏教宗派の総称)の一。玄奘の弟子の基が確立した。
訳文】風が吹いて枝を鳴らすのも「柯は歌なり」
古文】とて、それまでも歌なる由、/
語釈】
※まで=①(範囲)~まで。②(程度)~ほど。~くらい。③(添加)~まで(も)。~さえ。
※由=①物に寄せて関係づけるもの。口実。理由。手段。縁。由緒。事情。②教養。風情。③(形式名詞として用いて)~の様子、~ということ、~の趣旨。
訳文】と言って、それさえも和歌であるということ、
古文】樸揚大師も尺せられて候ふと/か
語釈】
※樸揚大師=唐代の僧。智周(668~723)。唯識説の大家。法相宗の開祖基の孫弟子。日本に法相宗をもたらした僧はみな智周に学んだ。法相宗の第三祖に列せられる。
※尺せられて=説明なさって。
※とかや=①不確かな伝聞の意。~とか。~とかいうことだ。②詠嘆の意。~であるよ。③遠回しにさし示す意。~のあたり。~など。~という人。
訳文】樸揚大師(と称された智周)も説明なさっていらっしゃる」とかいう
古文】や。されば、天地を動かし、鬼神/
語釈】
※されば=そうであるから。そうだから。それゆえ。だから。
※天地=天と地。天地を司る神々。
※鬼神=死者の霊魂のような超自然的な存在。
※天地を動かし、鬼神をも感ぜしめ=『古今和歌集』真名序の一節「動天地、感鬼神」を訓読したもの。元は『詩経』大序からの引用。
訳文】ことだ。そうであるから、「天地を動かし、鬼神
古文】をも感ぜしめ、世を治むる道ともなり、/
語釈】
※天地を動かし、鬼神をも感ぜしめ=『古今和歌集』真名序の一節「動天地、感鬼神」を訓読したもの。元は『詩経』大序からの引用。
※世を治むる道=『新古今和歌集』仮名序の一節「世を治め 民をやはらぐる道とせり」を踏まえたもの。政教の具としての和歌の意義をことさら宣揚するこの時代の思潮を示す。
訳文】をも感ぜしめ」(と古今和歌集真名序に言い)、(新古今和歌集仮名序にいう)「世を治める道」ともなり、
古文】「群徳の祖、百福の宗なり」とも
語釈】
※群徳の祖=多くの徳のはじめ。
※百福の宗=多くの福のもと。
※群徳の祖、百福の宗なり=『新古今和歌集』真名序の冒頭「夫和歌者、群徳之祖、百福之宗也」。
訳文】(「多くの徳のはじめ、多くの福のもと」を意味する『新古今和歌集』真名序の一節)「群徳の祖、百福の宗なり」とも
古文】定められ、「邪正をただすこと、これよ/り
語釈】
※邪正=よこしまなことと正しいこと。悪と善。
※ただす=正しくする。問いただす。
※これ=和歌のこと。
訳文】定められ、(物事の)善悪を問いただすことは、和歌よりも
古文】近きはなし」など候ふにや。凡そ一切/
※近き=近い。手近だ。似ている。
※にや=(文末に用いて疑問の意を表す。「あらむ」や「ありけむ」が省略された形)~であろうか。~であったのだろうか。
※凡そ=①だいたい。一般に。②まったく。少しも。
※一切=すべて。
訳文】手近なものはない」などと言うのでしょうか。そもそもすべて
古文】のこと成就するには、相応を
語釈】
※相応=ふさわしいこと。つり合うこと。相当。
訳文】のことを成就するには、ふさわしいことを
古文】さ/きとし候ふなればにや、伊勢大神/宮
語釈】
※さき=先端。前方。第一。
※ばにや=(活用語の已然形に付いて)~だからであろうか。
※伊勢大神宮=伊勢神宮の別称。
訳文】第一となさるからであろうか、伊勢神宮




