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古文】動く心をほかにあらはして紙に書き/
語釈】
※動く=①移動する。②揺れる。③心が動揺する。
※心=①人間の精神の働き。心。感情。意志。考え。心構え。愛情。誠意。本心。意図。風流心。②物事の内部事情。
※ほか=①よそ。②以外。③外。表。④世間。⑤表面。
※あらはし(あらはす)=①示す。②明らかにする。③新たに作り出す。
訳文】揺れ動く感情を表に明らかにして紙に書き
古文】候ふことは、さらに変はるところなく候ふ/
語釈】
※さらに=①改めて。もう一度。②重ねて。いっそう。③(下に打消や否定を伴って)決して。まったく
訳文】ますことは、まったく変わるところがないのではないしょう
古文】にや。文と申し候ふもひとつことばに候ふ/
語釈】
※にや=(文末に用いて疑問の意を表す。「あらむ」や「ありけむ」が省略された形)~であろうか。~であったのだろうか。
※文=①書物。②手紙。③学問。④漢詩。漢文。
※ひとつ=①いっしょ。②同じもの。③同時。
訳文】か。「文」と申します(語)も(日本と中国で)同じことばでございます
古文】由は、弘法大師の御旨趣にも委しく/
語釈】
※由=①物に寄せて関係づけるもの。口実。理由。手段。縁。由緒。事情。②教養。風情。③(形式名詞として用いて)~の様子、~ということ、~の趣旨。
※弘法大師=空海(773~835)。真言宗の開祖。
※旨趣=①事のわけ。目的や意味・内容。②心の中で考えていること。
※弘法大師の御旨趣=『文筆眼心抄』のこと。
※委しく=①すみずみまで行き届いているさま。②詳しい。精通している。
訳文】ということは、弘法大師(と呼ばれた空海)の(お書きになった『文筆眼心抄』の)ご内容にも詳しく
古文】見えて候ふにこそ。境に随ひて起こる心/
語釈】
※こそ。=(文末の結びに当たる「あらめ」等が省略された、係り結びの省略の形)~であろう。
※境=①(熟練の)境地。②対象と一体になりきること。中世歌論に重んぜられた。
※随ひて=応じて。まかせて。
※境に随ひて=対象と一体になること。
訳文】見えているでしょう。対象と一体になりきることで起こる心情
古文】を声に出だし候ふことは、花に鳴く
語釈】
※花に鳴く鴬、水に棲む蛙=『古今和歌集』仮名序の一節。
訳文】を声に出しますことは、(『古今和歌集』に言う)「花に鳴く
古文】鴬、水に棲む蛙、すべて一切生/類
語釈】
※花に鳴く鴬、水に棲む蛙=『古今和歌集』仮名序の一節。
※すべて=①ひっくるめて。②総じて。
※一切=すべて。
※生類=生き物。
※一切生類=中国禅宗の説法集『六祖壇経』に言う四字熟語。あらゆる生き物。
訳文】鴬、水に棲む蛙」(のような)すべてのあらゆる生き物をひっくるめて
古文】みな同じことに候へば、「生きとし/
語釈】
※生きとし生けるもの=この世に生きているすべてのもの。
※生きとし生けるもの、いづれか歌を詠まざりける=『古今和歌集』仮名序の一節。
訳文】みな同じことでございますので、(『古今和歌集』の仮名序の一節として名高い)「この世に
古文】生けるもの、いづれか歌を詠まざ/り
語釈】
※生きとし生けるもの=この世に生きているすべてのもの。
訳文】生きているすべてのもの(のうち)、どれが和歌を詠まない
古文】ける」とも言ひ、乃至草木を/
語釈】
※乃至=①~から~(まで)。②あるいは。または。
※草木=漢語。草と木。また、植物一般をさす。
訳文】と言えようか」とも言い、あるいは植物一般を




