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古文】矛/先を争ひ、才学(さいかく)をたて/

語釈】

※矛先を争ひ=戦の勝負を競う

※才学=漢語。才能と学識。持って生まれた才知と学んで得た知識。ことに漢学の知識を指す。中世以降は「才覚(=学問的な才能や知識を身につけていること。また、その才知。和歌や連歌の詠作に関する歌学的知識を言うことが多い)」と混同された。「さいがく」とも。①学才。学識。②知恵。機知。③工面。

※たて(たつ)=①事物を上方や前方に向かって動かす。②ある場所に位置を占めさせ、縦方向に立たせる。③移動させる。④目立たさせ、はっきりさせる。⑤継続し、押し通す。

訳文】(どの歌論が正しいかという)戦の勝負を競い、学識を目立たさせ



古文】候ふ前は、いづれか是いづれか非、/

語釈】

※いづれか=①(疑問)どちらが…か。②(反語)どれが…か、いや、どれでもない。

訳文】ます以前は、どちらが正しくどちらが間違いか、



古文】知りがたきに似候へども、この道は/

語釈】

※似る=同じように見える

※この道=和歌の道

訳文】知りがたいように見えましたけれども、この(和歌の)道は



古文】浅きに似て深く、易きに似/

語釈】

※深く(深し)=①厚みがある・深い・奥まっている。②並大抵でない・甚だしい・著しい。

※浅きに似て深く、易きに似て難く=『近代秀歌』冒頭の「やまとうたの道、浅きに似て深く、易きに似て難し」による。

※『近代秀歌』=藤原定家の歌論書。承元三(1209)年成立。『詠歌口伝(えいがくでん)』とも。源実朝のために書かれた。

※似る=同じように見える

訳文】(『近代秀歌』に言うように)浅いように見えて深く、易しいように見え



古文】て難く、仏法ともひとつに候ふ/

語釈】

※候ふ=丁寧の本動詞。

仏法ぶっぽふ=仏の説いた教え。

※ひとつ=①いっしょ。②同じもの。③同時。

※仏法ともひとつ=歌道が仏道に通ずるという考え方は古くからあり、藤原俊成の歌論書『古来風体抄』にも見える。

訳文】て難しく、(仏の説いた教えである)仏法とも同じものでございます



古文】なれば、邪正をたづね極めら/れ

語釈】

※邪正=よこしまなことと正しいこと。悪と善。

訳文】ので、(歌論の)善悪を問い極めなさい



古文】候はん時は、私あらむところは/

語釈】

※私=①個人的なこと。私的なこと。②私心を抱くこと。自分だけの利益をはかること。

訳文】ますような時(に)は、私心を抱くことがあるようなところは



古文】叶はずや候はんずらむ。されば/

語釈】

※叶は(叶ふ)=①条件が合致する。②望みどおりになる。③耐えられる。済まされる。④対抗できる。

※ずや=①(下に打消の語を伴って、打消の疑問)~ないで~だろうか。~ないで~か。②(文末に用いて、打消の疑問、反語)~ではないだろうか。~ではないか。

※むずらむ=~だろう。

※されば=そうであるから。そうだから。それゆえ。だから。

訳文】(正しい歌論とは)条件が合致しないのではないでしょうか。そうであるから



古文】和漢の字により候ひて、(から)の歌・

語釈】

※和漢=①日本と中国。②和学と漢学。③和歌と漢詩。④和漢聯句の略。

※より=頼りにして。基づいて。

※唐の歌=唐歌に同じ。漢詩。

訳文】日本と中国の字(である、かなと漢字)に基づきまして、(唐の歌である)漢詩・



古文】や/まと歌とは申し候へども、うちに

語釈】

※やまと歌=和歌

※うち=周囲を囲まれた閉鎖的な内部の意。①内部。②宮中。③天皇。④心の中。内心。⑤範囲内、限度内。

訳文】(やまとの歌である)和歌とは申しますけれども、内心で

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