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『新後拾遺和歌集』の中の為兼。

【作品名】『新後拾遺和歌集しんごしゅういわかしゅう

【成立時期】室町時代(一三八三年成立。為兼没後五十一年)

【撰者】二条為遠(にじょうためとお)(完成前に没)・二条為重(にじょうためしげ)

【ジャンル】和歌集

【内容】第二十代勅撰和歌集。

【巻第四・秋歌上】

  弘安百首歌に

〇三六九 蓬生(よもぎふ)の露のみ深き古郷にもと見しよりも月ぞ澄みける(前大納言為兼)


訳】(弘安元年(一二七八年・為兼二十五歳)に提出された)弘安百首歌に(あった歌)

〇三六九 (『源氏物語』の「蓬生」の巻のように)蓬が生い茂って露ばかり深まる古里では、以前見たよりも月が澄んで見えることだなあ。


参考歌】故郷の萩の下葉も色づきぬ露のみ深き秋のうらみに(道珍・遠島御歌合えんとうおんうたあわせ


     ◆


【巻第五・秋歌下】

  弘安百首歌に

〇四五六 秋深き紅葉の幣の唐錦けふも手向けの山ぞしぐるる(前大納言為兼)


訳】(弘安元年(一二七八年・為兼二十五歳)に提出された)弘安百首歌に(あった歌)

〇四五六 秋が深まり、紅葉は(神へ供える五色の)幣(のように美しく)、(華やかな)唐織の錦(のように美しい)、今日も(旅の安全を祈って幣を)手向ける山は時雨が降っている(そのお陰でよりいっそう紅葉の色が濃く美しくなっている)。


本歌】このたびは幣も取りあへず手向山紅葉の錦神のまにまに(菅原道真・古今・羇旅・四二〇)


     ◆


【巻第六・冬歌】

  弘安百首歌に

〇五三一 この里は時雨れて寒き冬の夜の明くる高嶺に降れる白雪(前大納言為兼)


訳】(弘安元年(一二七八年・為兼二十五歳)に提出された)弘安百首歌に(あった歌)

〇五三一 (私がいる)この里は時雨が降って寒い冬の夜が明けると、高い峰に降っている白雪(が見えることだ)。


参考歌】田子の浦ゆうち出でて見れば真白にそ富士の高嶺に雪は降りける(赤人・万葉・三一八)


     ◆


【巻第十一・恋歌一】

  弘安百首歌に

〇九七九 海人(あま)の刈る磯の玉藻の下乱れ知らせそむべき波の()もがな(前大納言為兼)


訳】(弘安元年(一二七八年・為兼二十五歳)に提出された)弘安百首歌に(あった歌)

〇九七九 海人が刈る(ことで乱れる)磯の美しい藻のように(私の)心の中は(あの人への恋心のせいで)思い乱れていることを(あの人に)初めて知らせる機会があったらなあ。


参考歌】早瀬川なびく玉藻の下乱れくるしや心みがくれてのみ(良経・続後撰・六五五)


     ◆


【巻第十二・恋歌二】

  弘安百首歌に

一〇四二 逢ふまでの契りもよしや今はただうきに負けぬる命ともがな(前大納言為兼)


訳】(弘安元年(一二七八年・為兼二十五歳)に提出された)弘安百首歌に(あった歌)

一〇四二 (恋人と)会うまでの約束もまあいい。今となってはただ(恋人に会えない)つらさに負けて(死んで)しまう命であれば良いのになあ。


参考歌】逢ふまでの契りを知らで恋ひ死なぬ命を憂しと思ひけるかな(為理集)

参考歌】さてもなほ限りある世の契りとて憂きに負けぬは命なりけり(円勇・人家集)


     ◆


【巻第十三・恋歌三】

  弘安百首歌に

一〇八九 さりともと心ひとつに頼めどもいひしままなる夕暮れもなし(前大納言為兼)


訳】(弘安元年(一二七八年・為兼二十五歳)に提出された)弘安百首歌に(あった歌)

一〇八九 そうは言っても(いつかは会えるだろうと自分の)心の中だけで期待しているけれども、(あの人が)言ったとおりに(会うことのできた)夕暮れもない。


参考歌】さりともと心ひとつに頼むかな人の知るべき(ゆふべ)ならねば(通成・新拾遺・一一〇三)

 相も変わらず「弘安百首歌」(弘安元年(一二七八年)に詠まれたもの。為兼二十五歳。散逸)からの選出のみの六首。

 二条派にとっての為兼は「永遠の二十五歳」ということなのか。


 ちなみに同じ京極派からは、伏見院(十二首)・花園院(六首)・光厳院(七首)・為子(六首)・永福門院(三首)などが選出されている。

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