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『玉葉和歌集』の中の為兼。

【作品名】『玉葉和歌集(ぎょくようわかしゅう)

【成立時期】鎌倉時代後期(一三一四年成立。為兼五十九歳)

【撰者】京極為兼(きょうごくためかね)

【ジャンル】和歌集

【内容】第十四代勅撰和歌集。清新な自然詠、深い心理分析の恋歌、物の本質を鋭くとらえて非具象的に詠出した思想的な作などの特色がみられる。

【入集歌人数】

七六二名(うち当代歌人三三六名(四四%)、このうち京極派歌人五六名(七.三%)・歌数五八三首(二〇.八%))


【入集歌数】

二八〇〇首(吉田兼右筆。いわゆる兼右本)


【部立と歌数】

①春上:〇一三五首(うち為兼:〇二首。九・八三)

②春下:〇一五七首(うち為兼:〇三首。一七四・二四四・二九二)

③夏 :〇一五六首(うち為兼:〇二首。三四〇・四一九)

④秋上:〇一八〇首(うち為兼:〇三首。五〇一・五一七・五四四)

⑤秋下:〇二〇五首(うち為兼:〇三首。六八九・六九〇・八三二)

⑥冬 :〇二〇三首(うち為兼:〇三首。九四四・一〇一〇・一〇二二)

⑦賀 :〇〇六七首(うち為兼:〇〇首)

⑧旅 :〇一四三首(うち為兼:〇二首。一一四二・一二〇四)

⑨恋一:〇一一五首(うち為兼:〇二首。一二八一・一二九四)

⑩恋二:〇一二五首(うち為兼:〇三首。一三六七・一三八一・一四〇五)

⑪恋三:〇一二二首(うち為兼:〇三首。一五〇二・一五九九・一六〇〇)

⑫恋四:〇一一九首(うち為兼:〇二首。一六八三・一七〇六)

⑬恋五:〇〇九六首(うち為兼:〇二首。一七五一・一七七六)

⑭雑一:〇二三七首(うち為兼:〇一首。一九五三)

⑮雑二:〇一二一首(うち為兼:〇一首。二〇九五)

⑯雑三:〇一一二首(うち為兼:〇一首。二二二〇)

⑰雑四:〇一四二首(うち為兼:〇一首。二四二六)

⑱雑五:〇一八一首(うち為兼:〇〇首)

⑲釈教:〇一一〇首(うち為兼:〇一首。二七二二)

⑳神祇:〇〇七四首(うち為兼:〇一首。二七五八)

 計 :二八〇〇首(うち為兼:三六首)



【入集歌数ランキング】

①九三首 伏見院

②六九首 藤原定家

③六〇首 西園寺実兼・京極為子

⑤五九首 藤原俊成

⑥五七首 西行

⑦五一首 藤原為家

⑧四九首 永福門院

➒三六首 京極為兼

⑩三四首 和泉式部

⑪三一首 西園寺実氏

⑫三〇首 北畠親子

⑬二七首 慈円

⑭二六首 紀貫之

⑮二四首 柿本人麻呂

⑯二二首 宗尊親王

⑰二一首 鷹司基忠

⑱一八首 凡河内躬恒

⑲一六首 式子内親王・九条良経・後鳥羽院・二条為氏・飛鳥井雅有・後伏見院

㉕一五首 藤原家隆

㉖一四首 冷泉為相・鷹司冬平

㉘一三首 花山院・伏見院新宰相



詞書(ことばがき)(和歌の前書き)の中の為兼】


  為兼、家に歌合し侍りし時、同じ心を

〇二一二 花薫り月霞む夜の手枕にみじかき夢ぞなほ別れゆく(冷泉為相)


訳】為兼が、家で歌合(を)行ないました時(に)、同じ心(である「春の夜」という題で詠んだ歌)

〇二一二 花(が美しく咲き)薫り月(が)霞む夜の手枕に(うたた寝で見る)短い夢で(その夢そのものだけでなく)さらに(夢の中で会った人とも)別れてゆく(ことだ)。

 ※為兼の家で行なわれた歌合で詠まれた歌であることが分かる詞書。


     ◆


  為兼の家にて月次の歌よみ侍りし時、卯花を

〇三〇六 月影の洩るかと見えて夏木立しげれる庭に咲ける卯の花(藤原経親)


訳】為兼の家で月ごとの(歌会で)歌(を)詠みました時(に)、卯の花を(詠んだ歌)

〇三〇六 月の光が(木々の間から)洩れている(から辺りが白く光っている)のかと見える、夏の木立が茂った庭に咲いている(白い)卯の花(であるよ)。

 ※為兼の家で行なわれた歌合で詠まれた歌であることが分かる詞書。


     ◆


  為兼、佐渡国へまかり侍りし時、越後国寺泊(てらどまり)と申すところにて申しおくり侍りし

一二四〇 物思ひこしぢの浦の白波も立ちかへるならひありとこそ聞け(遊女初若(はつわか)


訳】為兼が佐渡国へ参りました時に、越後国の寺泊(てらどまり)と申しますところで贈り申し上げました(歌)

一二四〇 物思いに沈みながら来られた道のりの越路の浦の白波も寄せては返っていく習いがあるとこそ聞いております(遊女初若)

 ※為兼が佐渡に配流になった際に、寺泊で有名な遊女であった初若が為兼のために詠んだとされる歌であることが分かる詞書。こしぢ=越路と来し路の掛詞。


     ◆


  老の後、病にしづみて侍りし冬、雪の夜、前大僧正道玄人々あまた伴ひ来たりて、題を探りて歌よみ侍りし中に、岡の雪といへることを詠み侍りしを、筆執ること叶はず侍りて、為兼少将に侍りし時、書かせて出だし侍りし

二〇四一 いかにして手にだにとらぬ水茎の岡辺の雪に跡をつくらん(藤原為家)


訳】年老いて以降、重い病気にかかっておりました冬(の)、雪の夜(に)、(さきの)大僧正道玄(どうげん)(が)人々(を)たくさん伴ってやってきて(即席の歌会を開き)、自分が詠む歌の)題を(クジで)探り出して歌(を)詠みました中に、「岡の雪」と言ったことを詠みましたのを、筆(を)執ること(が)できませんで、為兼(が)少将でございました時(に)、書かせて提出しました(歌)

二〇四一 いったいどうして手にさえ執らない筆が岡辺の雪に跡をつけるのだろうか。

 ※為兼が祖父為家の詠歌の代筆をしたことがうかがえる詞書。


     ◆


  為兼すすめ侍りし一品経(いっぽんぎゃう)の歌の中に、心経(しんぎゃう)の心を

二六八六 しなじなにひもとく(のり)の教へにて今ぞさとりの花は開くる(西園寺実兼)


訳】為兼が勧進した一品経(いっぽんぎゃう)の歌の中に(あった)、般若心経の心を(詠んだ歌)

二六八六 それぞれに経巻を紐解いて説かれる仏法の教えによって(美しい花が開くように)今こそさとりの花は開ける(ことだ)。

 ※為兼が経典を題材とした和歌を勧進していたことが分かる詞書。



【配列の中の為兼】


  題しらず

〇一八三 桜花折りて挿頭(かざ)さむ黒髪の変はれる色に見え紛ふべく(凡河内躬恒)


訳】題しらず

〇一八三 桜の花を折って(神事や饗宴の時に冠に挿す)挿頭(かざし)にしよう。(白い桜の花の色に紛れて)黒髪の(白く)変わってしまった色が(花と)見間違うように。

 ※伝統的に白いとされる「桜の花」と白いとされる「白髪」とを取り合わせるという伝統に則った詠み方。


     ◆


  題しらず

〇一八四 雪かとぞよそに見つれど桜花折りては似たる色なかりけり(小式部内侍)


訳】題しらず

〇一八四 雪かと(見間違うほど白いと)遠くからは見ていたけれども、桜花(を実際に)折って(近くでよく見てみると)似ている色などなかったのだ(桜の花の色は唯一無二だ)。

 ※実際には祐子内親王家小式部の歌であるという。伝統定な色の印象に囚われず、実物を観察した実感を詠んだと読める歌。前歌と対に読める配列に為兼の遊び心が読み取れる。

 為兼が撰者を勤めた、最初で最後の勅撰和歌集。

 全ての和歌を対象とした、京極派による京極派のための勅撰集和歌集とも言える。


 ただ三十六首の歌が現代語訳されているよりも意義があるかな、ということで、為兼の歌からは離れたところを深堀りしてみました。

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