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雑歌〈述懐歌〉下

『玉葉和歌集』一八一首(雑歌五)、『風雅和歌集』四一七首(雑歌中下)より。

〈玉葉和歌集〉


  雑御歌の中に

二四四一 心うつる情けいづれと分きかねぬ花ほととぎす月雪のとき(永福門院)


訳】雑の御歌の中に(あった歌)

二四四一 心が(惹かれて)移る風情はどれと分けかねてしまう、(春の)花、(夏の)ほととぎす、(秋の)月、(冬の)雪の(それぞれの)時(に)。

 ※四季の風情についての述懐を詠んだ一首。


     ◆


  夢を詠ませ給うける

二四五七 夢はただ()る夜のうちの(うつつ)にて覚めぬる後の名にこそありけれ(伏見院御製)


訳】夢をお詠みになった(歌)

二四五七 夢はただ(単に)寝ている夜の間の現実であって、(それが)覚めてしまった後の名前であるだけだったのだ。

 ※夢についての述懐を詠んだ一首。


     ◆


  小侍従、大納言三位の夢に見えて歌の事さまざま申して帰るとおぼしく侍りけるが、又道より文をおこせたるとて書きつけて侍りける歌

二四六四 ことの葉の露に思ひをかけし人身こそは消ゆれ心消えめや(伏見院御製)


訳】小侍従が大納言三位(藤原為子)の夢に現れて、歌のこと(を)様々申し上げて帰ったと思われましたが、また(その帰り)道から手紙を寄越したとのことで、(為子が)書き付けておきました歌

二四六四 (和歌という)言の葉の露(のように美しく儚いもの)に思いをかけた人も、命は(この世から)消えてゆきますが(、歌に託した)心は消えるのでしょうか。

 ※夢についての述懐として、夢に見た歌人の述懐という趣向で詠まれた一首。


     ◆


  月を詠み侍りける

二四九三 馴れ見るもいつまでかはとあはれなり我が世ふけゆく行く末の月(京極為子)


訳】月を詠みました(歌)

二四九三 (このように)馴れ親しんで眺めるのもいつまでだろうかと、しみじみ悲しいことだ。我が人生(が更けて残り少なくなっていくように)更けていくこの先の月は。

 ※月についての述懐を詠んだ一首。


     ◆


  題しらず

二五八六 人も世も思へばあはれ幾昔(いくむかし)(いく)移りして今になりけん(京極為子)


訳】題しらず

二五八六 人も世も、思えばしみじみと悲しく愛しいものだ。どれほどの昔から、どれほどの移り変わりを経て今(のよう)になったのだろうか。

 ※時の流れについての述懐を詠んだ一首。


     ◆


  (懐旧の心を)

二六一六 惜しむべくかなしぶべきは世の中に過ぎてまた来ぬ月日なりけり(伏見院御製)


訳】(懐旧の心を(詠んだ一首))

二六一六 (この世の中で)惜しむべき悲しむべき(こと)は(この)世の中で過ぎ(去っ)て二度と(戻っては)来ない月日であったなあ。

 ※過ぎ去った過去への述懐を詠んだ一首。


     ◆


〈風雅和歌集〉


  雑歌に

一六七五 ともし火は雨夜(あまよ)の窓にかすかにて軒の雫を枕にぞ聞く(徽安門院)


訳】雑歌(の中)に(あった歌)

一六七五 (雨夜の窓辺に置いた)灯火は、雨夜の窓辺で(湿気のせいか)幽かに(燃えてい)て、(眠れずにいる私はその火を眺めつつ、)軒(端から落ちる)雨垂れ(の音)を枕(の近く)で聞いている。

 ※深夜の灯火に向かう孤独な心境を詠んだ一首。

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