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雑歌〈類題歌〉下

『玉葉和歌集』二三三首(雑歌二・三)、『風雅和歌集』一七三首(雑歌中)より。

〈玉葉和歌集〉


  海路眺望を

二〇九五 波の上に映る夕日の影はあれど遠つ小島は色暮れにけり(京極為兼)


訳】「海路の眺望」を(歌題として詠んだ歌)

二〇九五 波の上に映る夕日の光は(まだ)残っているけれども(沖合にある)遠い小島は(その)色(が)暮れて(夕闇に沈んで)しまったことだ。

 ※遠近・明暗の対比を詠んだ一首。京極派の代表的秀歌。


     ◆


  夜の心を

二一六〇 暗き夜の山松風は騒げども梢の空に星ぞのどけき(永福門院)


訳】夜の心を(詠んだ歌)

二一六〇 暗い夜の山(から吹いてくる)松風(の音)は騒がしいけれども(松の)梢の(向こうに見える)空には星がのどか(に輝いていること)だ。

 ※天上の星と地上の松風、遠景と近景という対比を詠んだ一首。


     ◆


  題を探りて人々に歌詠ませさせ給うけるに、雨中灯といふことを

二一六九 雨のおとの聞ゆる窓は小夜更けて濡れぬに湿る(ともしび)の影(伏見院御製)


訳】(歌題をくじ引きで決める)探題で人々に歌(を)詠ませなさった時に、「雨の中の(ともしび)」ということを(歌題として詠んだ歌)

二一六九 雨の音が聞こえてくる窓辺は夜が更けて、濡れているわけではないが(暗く)湿っている灯火の光であるよ。

 ※雨夜の孤独や静寂を「湿る灯の影」と詠んだ一首。


     ◆


  (題を探りて人々に歌詠ませさせ給うけるに、雨中灯といふことを)

二一七〇 降り湿る雨夜の(ねや)は静かにて炎短き(ともしび)の末(京極為子)


訳】(歌題をくじ引きで決める)探題で人々に歌(を)詠ませなさった時に、「雨の中の(ともしび)」ということを(歌題として詠んだ歌)

二一七〇 降る雨に湿った雨夜の寝室は静かで、炎(が)短く(暗くなっている)灯火の火先(ほさき)(であるよ)。

 ※「灯の末」はこの歌のみの特異表現。


     ◆


  山家嵐

二二二〇 山風は垣ほの竹に吹き捨てて峰の松よりまた響くなり(京極為兼)


訳】「山家の嵐」(という歌題で詠んだ歌)

二二二〇 (荒々しく吹き下ろす)山風は垣根の竹(の上)に吹き捨て(るように通り過ぎ)ると(すぐに)峰の松からまた(吹き下ろす山風の響きが伝わってきて)響くことだ。

 ※動的な自然を的確にとらえた一首。


     ◆


〈風雅和歌集〉


  雑歌の中に

一六二九 夜烏は高き梢に鳴き落ちて月静かなる暁の山(光厳院御製)


訳】雑の歌の中に(あった歌)

一六二九 夜の烏は高い梢(の上)に鳴いて舞い落ち、(その後)月(が)静かに輝いている未明の山(であるよ)。

 ※烏の鳴き声と山の静かさの対比を詠んだ一首。


     ◆


  雑歌に

一六四九 夕日さす峰は緑の薄く見えて影なる山ぞ分きて色濃き(徽安門院)


訳】雑の歌に(あった歌)

一六四九 夕日(が)射している山頂は(木々の)緑が薄く見えて、日陰になっている山(の辺り)はとりわけ色が濃く見える。

 ※光の明暗と色の濃淡の対比を詠んだ一首。


     ◆


  (雑歌の中に)

一六八三 時ありていつも花も紅葉もひと盛りあはれに月のいつも変はらぬ(京極為子)


訳】(雑の歌の中に(あった歌))

一六八三 (特定の決まった)時期があって、花も紅葉もひと時の盛り(を見せるけれども)、哀れ深いことに、月はいつも変わらない(姿で空にかかっていることだ)。

 ※うつろう美しいもの(花・紅葉)と、うつろわない美しいもの(月)との対比を詠んだ一首。


     ◆


 雑御歌の中に

一七〇四 浦風は港の葦に吹きしをり夕暮れ白き波の上の雨(伏見院御製)


訳】雑の御歌の中に(あった歌)

一七〇四 浦風は河口の葦に(激しく)吹きつけてたわませ、夕暮れ(の光の中で降り注ぐ)白い波の上の雨(であるよ)。

 ※ほの暗い光の下の激しい自然の動きを詠んだ一首。強い調べは京極派歌風の特徴の一つと言える。


     ◆


  (雑歌に)

一七二七 物として量り難しな弱き水に重き舟しも浮かぶと思へば(京極為兼)


訳】(雑の歌に(あった歌))

一七二七 物というものは計量が難しいものだ、力のない水に重い舟に限っては浮かぶということを思うと。

 ※物理学を詠んだ一首。観念的な題材で詠んだ点も、京極派歌風の特徴の一つと言える。

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